第11回API地経学オンラインサロンを開催~「経済安全保障と国家安全保障戦略に向けて」


当日の録画動画は こちら

一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(所在地:東京都港区、理事長:船橋洋一、以下API)は、2022年4月2日(土)午前10時~11時に、第11回「API地経学オンラインサロン」を開催いたします。詳細については、下記をご参照ください。なお、API地経学オンラインサロンの開催日は、原則として毎月第2土曜日としておりますが、今月は都合により第1土曜日となっている旨、ご留意ください。

[本イベントは終了しました]
img

開催報告

「経済安全保障と国家安全保障戦略に向けて」と題した今回の地経学オンラインサロンでは、ゲストに佐藤丙午拓殖大学海外事情研究所副所長/国際学部教授をお招きし、主に、我が国の経済安全保障推進法案の「4つの柱」のポイントと、経済安全保障の一つの形である経済制裁に関する議論を行いました。当日の主な議論は以下の通りです。なお、こちらは事務局作成のサマリーですので、正確な内容についてはぜひ動画をご視聴ください。

(本サマリー及び動画の内容はイベント実施時点での情報に基づいています)


「経済安全保障」とは~政府は何をしようとしているのか
冒頭、「経済安全保障」という言葉が意味するもの(定義)から対談は始まりました。英語圏でeconomic securityと言われる「経済安全保障」について、佐藤氏は「この言葉の歴史は意外と長く、経済戦争のアプローチで使われていたことが多かった。ただ、経済制裁・輸出管理・エネルギーや重要物資の安定供給など、幅がかなり広く、諸外国でも定義は一致していない。したがって、定義を議論するより、日本が経済安全保障の名の下で何をしようとしているのか、から入ったほうが分かりやすいかもしれない。」とした上で、経済安全保障推進法案の「4つの柱」についての議論に移りました。

一つ目の柱であるサプライチェーンの強靭化については、対象となる「特定重要物資」が決まっておらず、何を指定するのかに加え、どう決めるのかが重要という点で両氏の意見が一致しました。国が戦略的に重要な「特定重要物資」と指定することは、それを生産する企業にとっては、国に管理されるというコストが生じる一方、国が供給・生産に責任を持つということになるため国による保護を受けられることになる。極端に言えば、マスクや水、コメなど、重要度が高い物資は広範にありうるため、対象をあいまいにすると、国の保護を求めるロビーイングの温床になりかねない。現在の議論では、半導体や情報通信技術など軍事安全保障に近い分野に限定しようとしており、それを評価しつつも、国がどういうコンテクストで「特定重要物資」を決めるのかが大切、という点が強調されました。

自由貿易原則との折り合いをどうつけるのか
二つ目の柱である基幹インフラの安定的な提供に関しては、自由貿易の原則を安全保障上の理由で制限することについて、どのように理由づけを行うのかについて議論がなされました。情報通信などの基幹インフラの重要性を考えると安全保障上の理由で特定の国からの調達を排除することは仕方ないとしつつも、特定国からの調達を安全保障上の脅威と立証するのはそもそも容易でないし、また当該国を敵に回すことにもなる。一方、あいまいなまま進めると、WTO体制での自由貿易の原則を破壊するような努力をすることになる。そのような中、どういうロジックで進めればよいのか。佐藤氏は「どの国もジレンマを抱えており、明確な解は無い」としつつも、「国が客観的な要件を設け、どの程度の安全保障のリスク・便益があるのかを可視化できるようにし、特定の技術・分野に絞るなど、慎重に行うべき。」と主張。鈴木氏も「一番大事なのはやりすぎないこと。客観的に見てしょうがないよね、大事だよねという納得感がこれから重要になる。」と総括しました。

課題が残る先端技術開発支援と秘密特許制度
三つ目の柱である先端技術開発支援については、これまでも国が色々行ってきた先端技術開発支援との違いとして、「安全保障上重要となりうる萌芽技術への支援。特に、今後重要になり得る先端技術を見つけ出し政府の支援につなげるという、役所が苦手なことをシンクタンクが行うことを期待されているもの」と解説します。但し、この試みが成功するためには、先端技術の可能性を探るイマジネーション力が求められるため、感度の高い若い人が集まってどういう技術が安全保障上の可能性があるかを議論する必要があると同時に、わが国ではそれを政策決定のプロセスに組み込むためには重鎮の重しも重要であり、機能するためには「権威とフットワークのバランス」が求められるとの見解が示されました。
四つ目の柱である特許の非公開制度については、これまで、安全保障上の大きな可能性があるものの公開されることを懸念し特許申請が行われなかった技術が、国外流出を防ぎつつ安全保障上の活用につながる可能性を示しつつも、企業の経済的機会損失や、特許を秘密にすることで発生する損失を「政府が補償する」ことに伴うモラルハザードについての指摘がなされました。

ロシアへの経済制裁~時間との勝負
最後に両氏は、経済安全保障の一つの形である経済制裁について、今まさに実施されている対ロシア経済制裁を題材に議論を行いました。佐藤氏は、「今回の経済制裁は、短期的にはロシアを苦しめる効果があろうが、時間が経てばたつほど、ロシア側もその状態に慣れるし、抜け道も探すので、効果が薄まる。時間との勝負であり、政策変更効果を計算しながら新しい手をどんどん考えないといけないが、攻めれば攻めるほどその反動が自国にも戻ってくる。」と指摘します。鈴木氏も、「イラク、北朝鮮などを見ても、慣れてしまうとうまくいかなくなる。」と同意しました。
また、「一般市民が影響を被る経済制裁が、政治指導者にどれくらい影響を与えるのか」との視聴者からの問いに対し、佐藤氏は「国連は、国民を窮乏させて政策を変更させるというランサム戦略ではなく、政治指導層を対象としたsmart sanctionを推奨しているが、制裁の対象を絞るほどインパクトは小さくなる。」と説明します。鈴木氏も、「国民を人質にとるのが経済制裁の本質。smart sanctionは効果に限界があるものの、では国民を人質にとっても良いかという点は永遠のジレンマ。日本も対ロ経済制裁に参加しているので、考えないといけない。」とまとめました。

当日の模様は以下よりご覧になれます。


<お問い合せ先>
一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)
API地経学研究所

API地経学オンラインサロン

1.日時
2022年4月2日(土)10:00 ‒ 11:00(JST)(9:50開場)

2.開催方式
オンライン視聴(ZOOMウェビナー)

3.主催
一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)

4.テーマ
「経済安全保障と国家安全保障戦略に向けて」

5.登壇者
ゲスト:佐藤丙午 拓殖大学海外事情研究所副所長 / 国際学部教授

ホスト:鈴木一人 API地経学研究所所長代行・上席研究員 / 東京大学公共政策大学院教授

6.ゲスト(佐藤丙午氏)の略歴
拓殖大学海外事情研究所副所長/国際学部教授
岡山県生まれ。一橋大学大学院修了(博士・法学)。拓殖大学国際学部教授兼海外時事情研究所副所長。防衛庁防衛研究所主任研究官(アメリカ研究)を経て、2006年より現職。専門は国際関係論、安全保障論、軍備管理軍縮など。2010年に外務省参与および外務大臣の政策参与(軍縮・核不拡散担当)を務める。特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の自律型致死兵器システム(LAWS)などの国連専門家会合に出席。著作に、『自律型致死性無人兵器システム(LAWS)』(国際問題・2018年6月号)、『エコノミック・ステートクラフトの理論と現実』(国際政治、第205号)など。安全保障貿易学会副会長、日本軍縮学会副会長。

(おことわり)
API地経学オンラインサロンで表明された内容や意見は、講演者やパネリストの個人的見解であり、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)やAPI地経学研究所等、スピーカーの所属する組織の公式見解を必ずしも示すものではないことをご留意ください。