第6回API地経学オンラインサロンを開催~「AUKUS時代のインド太平洋の地経学」


当日の録画動画は こちら

一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(所在地:東京都港区、理事長:船橋洋一、以下API)は、2021年11月13日(土)午前10時~11時に、第6回「API地経学オンラインサロン」を開催いたします。詳細については、下記 をご参照ください。
[本イベントは終了しました]
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開催報告

2021年11月13日(土)に開催したAPI地経学オンラインサロンでは、ゲストに国際安全保障・現代欧州政治が専門の鶴岡路人慶應義塾大学総合政策学部准教授をお迎えし、「AUKUS時代のインド太平洋の地経学」と題した対談を行いました。当日の主な議論を以下にご紹介します。事務局作成のサマリーですので、正確な内容についてはぜひ動画をご視聴ください。

(本サマリー及び動画の内容はイベント実施時点での情報に基づいています)


AUKUSとは何か。防衛ビジネス促進?安全保障戦略?
2021年9月に豪英米3カ国は「豪英米三国間安全保障パートナーシップ(AUKUS)」の創設を発表しました。今回のオンラインサロンでは、まずホストの鈴木氏による「AUKUSは何を目指し、どのような性格を持った枠組みなのか」という問いかけから始まりました。鶴岡氏は「そもそも米英豪3カ国はAUKUSが無くても特別な関係にある。AUKUSが、単なる原子力潜水艦(以下原潜)の協力枠組み=防衛産業の金銭的利益=なのか、それを超えた戦略なのか。原潜を超えた協力については、3カ国の間でも現時点では合意が無く、当面は原潜の枠組みとしてとらえるしかない。」と解説しました。

AUKUS創設の背景。フランスとの関係は?
続いて議論は、豪州がフランスとの通常型潜水艦建造契約を破棄してまでAUKUSを創設して原潜建造契約の締結に動いた背景に移ります。鶴岡氏は、2016年に豪州がフランスと同契約を締結した時に比べ、中国の脅威が一気に上がっているとし、「豪州の想定する潜水艦の活動地域が、インド洋主眼だったのが、南シナ海も重要な活動地域として入ってきた。豪州から南シナ海へは、通常型潜水艦の能力だと行ってもすぐ帰るだけとなるため、原子力潜水艦の能力が必要となった」と指摘します。フランスとの軋轢については、「豪州との潜水艦建造契約に、単なるビジネス以上の位置づけを与えていたのはフランスの勝手。破棄する前にAUKUSを発表してしまったことが、禍根を残した最大の問題」とした上で、「これによりフランスのインド太平洋戦略にとって、インドと日本との関係の相対的な重要性が増す。フランスをつなぎとめ、関与を拡大してもらうよう誘導するのが日本の役割ではないか。」と提起しました。

AUKUSに対する中国・東南アジアの反応
AUKUS創設に対する中国の反応について問われたところ、鶴岡氏は、「中国にとっては、米英豪の原潜が南シナ海で一体的に運用されるのは軍事的に厄介であり、既にAUKUS創設を『冷戦思考』と批判している。」と答えます。というのも、南シナ海の海中における米中のbalance of powerについては、中国が自国側に傾けようとしているのに対し、AUKUSは、米英豪の原潜が南シナ海で一体運用をすることにより、米国が現在有する海中でのbalance of powerを維持しようとするもの、と説明します。そして、米中のどちらを取るのかと迫られるのを回避しようという戦略を有する東南アジア各国も、中国側に傾きつつある南シナ海での米中間のbalance of powerを維持するためにAUKUSが有効と分かっている国は「理解」「支持」を表明している、とします。

AUKUSが日本に問いかけているもの
最後に、日本とAUKUSとの関係、日本への影響について議論します。鶴岡氏は、「地域における対中抑止体制の強化という観点で、英国や豪州が、米国の同盟網をみんなで支えるAUKUSは、日本にとって歓迎すべきもの。」としたうえで、「但し、豪米一体で潜水艦運用を行うと、米国にとって豪州の相対的な役割が上がる。豪州は、ある意味日本ができないことをやっていて米国との関係を深化させている。」と指摘します。「日本はどこまで一緒に戦えるのか。それが進められないなら、豪州が米国との関係を深化させるのを、傍で見るしかなくなる。日本の安全保障・防衛ニーズに対し、日本はどこまで対応できているのかを、絶えず問い続けないといけない。AUKUSはそれを迫っている。」と、締めくくりました。

当日の模様は以下よりご覧になれます。

第6回API地経学オンラインサロン

1.日時
2021年11月13日(土)10:00 ‒ 11:00(JST)(9:50開場)

2.開催方式
オンライン視聴(ZOOMウェビナー)

3.主催
一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)

4.テーマ
「AUKUS時代のインド太平洋の地経学」

5.登壇者
ゲスト:鶴岡路人 慶應義塾大学総合政策学部准教授

ホスト:鈴木 一人 API地経学研究所所長代行・上席研究員 / 東京大学公共政策大学院教授

6.ゲスト(鶴岡路人氏)の略歴
東京都生まれ。1998年慶應義塾大学法学部卒業、米ジョージタウン大学を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得。専門は国際安全保障、現代欧州政治。在ベルギー日本大使館専門調査員、防衛研究所主任研究官などを経て、2017年から現職。東京財団政策研究所主任研究員、ブリュッセル自由大学(VUB)安全保障・外交・戦略研究所(CSDS)上席研究員などを兼務。近著に『EU離脱ーーイギリスとヨーロッパの地殻変動』(ちくま新書、2020年)など。

(おことわり)
API地経学オンラインサロンで表明された内容や意見は、講演者やパネリストの個人的見解であり、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)やAPI地経学研究所等、スピーカーの所属する組織の公式見解を必ずしも示すものではないことをご留意ください。