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日本の対米・対中戦略に一体何が求められるか(船橋洋一・細谷雄一・神保謙)

「API地経学ブリーフィング」とは、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを精査することを目指し、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)のシニアフェロー・研究員を中心とする執筆陣が、週次で発信するブリーフィング・ノートです(編集長:細谷雄一API研究主幹 兼 慶應義塾大学法学部教授)。 「API地経学ブリーフィング」を開始して1年になりました。トランプ政権の登場で「世界の分断」は加速し、コロナの時代にその勢いは増しています。 分断される世界において日本に求められる役割とは何か──。API地経学ブリーフィング連載1周年として開催した、API理事長 船橋洋一、API研究主幹・API地経学ブリーフィング編集長 兼 慶應義塾大学法学部教授 細谷雄一、API-MSFエグゼクティブ・ディレクター 兼 慶應義塾大学総合政策学部教授 神保謙による鼎談を3回にわたり掲載します。本稿はその第2回目です。

本稿は、東洋経済オンラインにも掲載されています。

https://toyokeizai.net/articles/-/424519

   

「API地経学ブリーフィング」No.50

2021年04月26日

日本の対米・対中戦略に一体何が求められるか ― どちらつかずの宙吊り状態は避けねばならない

 


アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)
理事長
船橋洋一

 


アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)
研究主幹
慶應義塾大学法学部教授
細谷雄一

 


アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)
MSFエグゼクティブ・ディレクター
慶應義塾大学総合政策学部教授
神保謙

 

 

尖閣と台湾 細谷 雄一(以下、細谷):前回は「地経学の構造変動」をテーマに、おもに2013年以降の米中、日米関係の変化とその背景を見渡しました。今回は、そうした構造変動を踏まえた、現在における日本の課題を話し合いたいと思います。 神保 謙(以下、神保):日米同盟には対中戦略を念頭とした安全保障と経済の両面に課題があります。まず軍事面ですが、米中の軍事競争はこの30年間にわたり継続していて、そこには連続性があると私は考えています。そのような連続性の中で、バイデン政権は現在、暫定的な国家安全保障戦略の指針を策定し、国防省は対中政策を見直しています。さらに、年内にはアメリカ軍のグローバルな態勢の見直しについても結論を見るはずです。その過程で行われる同盟国との調整が日本にとっての課題です。 アメリカの軍事政策の基本的な方向性は、戦略的競争を追求していくことですが、前回指摘したとおり、中国と対峙するアメリカ軍の優位性が、質量ともに自明ではなくなっているのが現状です。アメリカの軍事戦略の見直しの中では、先端技術の応用、高度な統合作戦を通じた「新しい戦い方」が模索され、その中で同盟関係の強化が重要視されると思います。 日本と深く関連する具体的な問題には、尖閣諸島の防衛強化と台湾海峡の現状維持があります。尖閣諸島の防衛強化は安全保障政策の概念の変革を迫る重要な課題です。海上保安庁の法執行活動の能力を超えた挑発行動に対し、自衛隊の能力を組み込み、さらには日米同盟の役割を組み合わせて、段階的な抑止態勢を構築する必要があります。バイデン政権が日英安保条約第5条を尖閣諸島に適用することを明示し続けることとともに、武力攻撃未満の挑発行動に対して日本自身の対応能力を抜本的に強化する必要があります。 台湾海峡の現状維持も日米同盟の重要課題です。本年4月の日米首脳会談の首脳共同声明では「台湾海峡の平和と安定」の重要性が言及されました。台湾情勢の変動リスクへの強い警戒が背景にあります。しかし台湾海峡の軍事バランスは中国が圧倒し、アメリカ軍に対する介入阻止能力も伸長する中で、台湾海峡の現状維持を保つことはかなりのエネルギーを必要とします。中国の力による現状変更への誘因を阻止するためにも、日米同盟が台湾有事を念頭に置いた軍事態勢と作戦計画を推進することは不可欠です。 地経学を考えるうえでは、日米首脳会談でも取り上げられた経済領域に着目する必要があります。第1にサプライチェーンの整備です。バイデン政権は、現在、約3カ月をメドに半導体と大容量電池、レアアース、医薬品の4分野のサプライチェーンの見直し作業を行っています。さらに、1年以内には、より広範な領域のサプライチェーンを見直すはずで、防衛、情報通信、エネルギー分野などに及ぶことが予想されます。 第2は先端技術に関する日米協力です。日米首脳会談では5Gと次世代移動体通信網、デジタル経済、バイオテクノロジー、人工知能(AI)、量子化学、民生宇宙分野の研究などで連携を深めることが確認されました。とくに5G整備やデジタル分野の競争力のために、アメリカが25億ドル、日本が20億ドルという具体的なコミットをしたことが特徴的です。 第3の焦点は従来の日米による第3国でのインフラ開発支援という枠組みに「脱炭素社会への移行」という価値が強調されたことです。これはバイデン政権特有の磁力で推進されたと考えられますが、気候変動に配慮したインフラ開発や能力構築などが戦略連携のアジェンダとなりました。 地経学の観点からは、戦略目標と経済的手段の融合を読み取ることができます。ただ懸念すべきは、サプライチェーン見直しや技術の囲い込みによって、産業競争力を強化できるかという視点です。中国に対する輸出管理と投資規制はそのままにすれば輸入代替的な保護政策となります。積極的な産業振興とセットで推進しないと、技術・価格競争力で勝ち残ることはできません。 また日米連携という視点から考えても、日本とアメリカの産業界には対中依存とサプライチェーンの概念が異なります。日本企業の中国での事業展開は1万4000社あり、多くの企業が高い収益を上げています。また日本の世界全体の投資収益率に占める中国の割合は16.7%と圧倒的で、日本にとって中国の経済的価値は極めて大きいのです。

 

日米の政策協調も未熟 経済安全保障分野の日米の政策協調も未熟です。アメリカの貿易管理や先端技術管理、投資管理などや、政府調達規制の流れが、同盟協力というかたちで必ずしも位置づけられていないことも問題です。例えばアメリカ商務省が貿易取引を禁止する「エンティティリスト」への登録は、同盟国への相談はなく一方的に決定しています。その結果、特定の中国企業が登録されてしまうと、再輸出規制などの域外適用によって日本企業も取引ができなくなり、大きな影響を被ります。 バイデン政権が同盟国を重視し、自由主義諸国同士での連携を深めていくのであれば、貿易管理などを同盟関係の中に明確に位置づけ、一方的な通告ではなく、関係諸国の意見を積み上げるような仕組みを作るべきだと思います。 同盟関係の深化にあたっては、人権外交も課題となります。ロシア、中国、ミャンマーなど、人権が懸念される国々に対して、バイデン政権は極めて厳しい政策をとることが予想され、日本が立場表明を迫られる局面は増えてくるはずです。法の支配に基づく自由な経済活動を基盤とする自由で開かれたインド太平洋構想を展開する日本としては、人権問題には、強い関心を持たざるをえません。 ただ人権外交の具体的な実行方法について日米ですべて一致させる必要はありません。日本の人権外交には歴史の蓄積があり、かつて宮本雄二・元中国大使が語った通り、「価値観の表明は明確に、しかし実際の行動は慎重に」というのが、その基本的スタンスです。つまり、人権侵害を厳しく批判をするというのは当然だが、人権外交は対象国をやみくもに孤立させるのではなく、出口戦略を考えて展開すべきだというのが、日本の一貫した立場であると思います。 具体的には、対象国に対して提供してきたODAや技術支援などの経済支援を取引材料として、粘り強く人権侵害の是正を求め民主化移行を促すというアプローチに意義を置くべきと思います。もっとも欧米諸国の制裁と孤立化政策の中での役割分担とも言えるので、丁寧な日米・日欧の政策協調は不可欠です。

 

脱中国といっても容易ではない 船橋 洋一(以下、船橋):経済に関する課題では、私も神保さんと同じ問題意識を持っています。尖閣諸島の問題を抱えながらも、日本のビジネスの中国への依存度は、この8年間で非常に高まりました。日本企業は中国市場の恩恵にあずかっています。そのため、脱中国といっても容易ではなく、日米間のすり合わせの重要性は増しています。 そもそも、同盟国とはいっても、1970年代から90年代半ばまで、日米両国は熾烈な経済摩擦を繰り返しました。冷戦が終わったとき、「冷戦が終わった。ソ連が負けて、日本が勝った」などと言われたりもしましたが、それほど経済・貿易面での日本へのライバル感情は強かった。冷戦下の同盟国であっても経済の調整は極めて難しい課題だったことを想起する必要があります。 日米首脳会談では、同盟としても中国からの地経学的挑戦によりよく対応することをうたいました。これは必要なことですが、経済安全保障政策での提携強化については、日米双方とも政府と私企業の連携が不可欠であり、日米ともに私企業には私企業の論理と利害関心もありますから、2+2の防衛・安全保障の協力とは異なった難しさがあることを認識しておくべきです。 日本の国家安全保障局(NSS)とアメリカの国家安全保障会議(NSC)のより深い政策連携が求められます。日本のNSSは昨年4月に経済班を設置しましたが、いまだに政府全体の経済安全保障戦略の司令塔にはなっていません。経済安全保障政策は経済班ではなくNSS全体が最重要課題として総力を挙げて取り組む必要があります。 たしかにバイデン政権と菅政権はとても良好なスタートを切ったように見えますが、政策協調には大きな課題が横たわっています。台湾をめぐる中国に対する抑止と対話をめぐる日米両国の政策協調がいかに難しいか、それは今回の日米首脳会談でも感じたところです。アメリカ内では台湾をめぐっては中国に対する「戦略的曖昧性」では不十分だから「戦略的明瞭性」で臨むべきだ、との声が高まってきていますが、中国に対して声高に叫べばいいというものではありません。この点で日米は戦略対話を深めなければなりません。 それから当面、問われるのは神保さんご指摘のとおり、人権と貿易です。米中の人権問題をめぐる対立はますます地政学的葛藤の色彩を強めています。中国は、欧米が問題にする中国の人権問題は西側が中国の台頭を抑え込むための仕掛けであり、要するに覇権闘争の一環であるとみなしています。 その際、欧米の非白人への人種差別や文化的優越感、さらには貧富の格差を言い立て、彼らの“ダブル・スタンダード”を告発しています。また、アメリカのアジア系へのヘイトクライムをやり玉に挙げつつ、人権問題を日米欧の過去の植民地主義や帝国主義などの負の遺産、つまりは歴史問題の枠組みに組み込み、反攻に転じています。

 

中国へのドミノ 中国の政治影響力の浸透を含む勢力圏拡大は、自らのイデオロギーや教義を積極的に輸出しようというよりむしろヘンリー・キッシンジャーが言うところのカルチュラル・オズモーシス(「文化的浸透」)を特徴としていると思います。軍事やイデオロギーによって制圧するというより秩序観や社会通念や生活様式といった文化的要素も含めて、その価値観を外に滲み出させ、相手をそれに浸させる。 中国共産党は、どの国であろうが社会であろうが、そこに住む中国系住民は文化的に自分たちの“所有物(オーナーシップ)”であるとみなしています。中国系の外縁も使いながら、相手の民族のアイデンティティーをも上書きしてしまうような怖さを感じます。新疆ウイグル自治区に対する措置はまさにこうした攻撃的「文化的浸透」の表れと見ることもできます。 普遍的人権概念を掲げて、人権をがなり立てるだけのメガフォン人権外交では中国の人権問題やこうした他国への価値観浸透に効果的に対応できないのではないかと思います。何かあるとすぐに経済制裁に踏み切るといったやり方も逆効果になりかねない。 とくに、インド太平洋における中国との長期にわたる競争を覚悟するのであれば、とりわけ東南アジアでの人権問題の戦い方はもっときめ細かく行う必要があると思います。ミャンマー、タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、ベトナム……どこも民主化に歩み出しても揺れ戻しが来る、そういう長い試行錯誤のプロセスにあります。型にはまった人権批判と経済制裁を振り回せば、これらの国々は中国に保護を求めることになるでしょう。ミャンマーに続くある種の“ドミノ現象”が起こりかねない。 そして、日本は同盟国として、アメリカに静かにそれを想起させる役割を果たすべきです。日本とアメリカは、目的は1つであっても、アプローチの方法は異なることを互いに認識し、擦り合わせを行ったうえで、役割と責任を分担するというのも考え方の1つです。 貿易の問題も楽観視はできません。政権がトランプからバイデンに移行したからといって、アメリカが自由で無差別の多角的貿易体制への支持に復帰するかどうか疑問です。アメリカのTPP(環太平洋パートナーシップ協定)脱退後、日本はCPTPPの締結にリーダーシップを発揮しましたが、バイデン政権になっても、アメリカがTTPに復帰できない可能性は非常に高いと思います。 さらには、中国が加盟に関心を示し、CPTPPが非常に地政学化する状況の中で、中国の狙いがそこにはないとしても、結果的に、CPTPPが日米の分断を促す危険性は非常に高いと思われます。 日米両国はそれを避けなければなりませんが、バイデン政権は現実的な貿易政策を示していません。政権移行後も、アメリカには中産階級を鼓舞し、その利益に資するような保護主義的外交・貿易政策しかないのが実情です。 通商協定においては、交渉参加国の間でコミュニティー感覚が生じ、それが協定締結の駆動力になり、参加国の絆が深まります。蚊帳の外にいたアメリカには一種の焦りがあるはずで、バイデン政権はインド太平洋地域での通商協定の構築にどのように関与するのか、可能な限り早い時期に回答を示さなくてはなりません。それができなければ、自由で開かれたインド太平洋構想そのものが、崩壊してしまうおそれがあります。 先の日米首脳会談の共同声明では「日米両国は志を同じくするパートナーと連携しつつ、インド太平洋地域における繁栄を達成し、経済秩序を維持することに対するコミットメントを再確認する」とうたいましたが、トランプの貿易戦略と違うものはなにか、貿易に対してどのようなナラティブで臨むのか、アメリカは用意できなかったと感じます。

 

日米の「差異」を前提とした日本の主体性 細谷:日本の課題についての私の問題意識は、日米同盟、あるいは日米関係は、従来の思考の延長線では十分に対処できないということです。すなわち、アメリカが先に戦略を策定して、それを受けて日本が対応するというのが、これまで多く見られた日本の基本姿勢でした。 ところが安倍政権を通じて、「自由で開かれたインド太平洋」構想のように、むしろ日本がビジョンを提示してそれにアメリカが対応するという新しいパターンが現れたことが重要な点です。日本政府の中で、その認識がどの程度浸透しているのか疑問に思います。外務省には、そのような日本外交の主体性の意義を適切に認識している方と、従来の思考にとどまっている方の両方がいるのだと思います。 問われているのは、日本のより主体的な戦略です。日本の対中戦略を、どのようなかたちでアメリカに提示していくのか。提示するにとどまらず、アメリカ政府を説得して同意を得られるか否かが重要です。換言すれば、その地政学的な違いや、貿易構造や戦略文化の違いからも、アメリカと日本の対中戦略に差異が生じるのは当然で、その違いを相互補完的なものとして調整する姿勢が問われています。それには、従来型の手法とは別の努力が必要です。 軍事に関しては、神保さんからご指摘があった台湾有事など想定される大きな危機が到来したときに、日本が実際に迅速かつ的確に対応できるかどうかが課題です。あるいは、有事を起こさないように、日本が十分な抑止力を提示できるかどうかが問われています。 その際に、軍事費の負担の問題を避けては通れません。安倍政権下で新しい安保法制が成立し、従来の「基盤的防衛力構想」が「動的防衛力」、さらには「統合機動防衛力」に代わり、また集団的自衛権の部分的行使が可能とされるようになり、有事にはアメリカと共同で対処することになります。 そのような現在において、アメリカがGDPの3%超、韓国が約2.5%の防衛費支出というときに、GDP1.0%という日本の防衛費がアメリカから見て十分な自助努力をしているように評価されうるのかどうか、疑問です。従来のような、基地の提供で十分な貢献しているという受け身のロジックは通用しなくなると思われます。 台湾有事が現実となった場合に、日本のこれまでの安全保障政策の進化が問われるのだと思います。なぜなら、日本から見て遠方でのイラク戦争やウクライナ紛争とは違い、日本の領土と隣接した台湾海峡の問題は、アメリカより日本のほうがより深刻な安全保障上の影響を受けることになり、日本が重要な役割を担うことが不可避だからです。つまり、日本に差し迫った危機に対して、アメリカに協力するかどうかということではなく、日本が主体的にアメリカと提携し、同盟をより実効的に運用できるかどうかが問われることになるのです。

 

「一帯一路」をめぐる亀裂 経済の側面では、日米、あるいは民主主義勢力が、中国が強力に推し進めている「一帯一路」に対抗できるような経済協力や支援の枠組みを構築できるかどうかが課題です。とりわけ、コロナ後にはこのことが重要課題となります。 「一帯一路」は、中国がインフラ整備等のパトロンとなって欧州に至るユーラシア大陸の広域経済圏を建設しようとする構想で、これにより中国と欧州の間に位置する地域での影響力は強くなっています。ところがトランプ政権はこれに対抗するロジックを持たず、アメリカの「力の真空」のみならず「ビジョンの真空」が生じてしまいました。バイデン政権は明らかに、そのような「ビジョンの真空」を埋めようとしています。 ところが現実は、ワクチン外交一つを見ても、中国が自国製のワクチンを積極的に他国に供与しているのに対し、民主主義諸国は自国優先で稀少なワクチンを奪い合っています。「一帯一路」にワクチン外交を結びつけることで、コロナ後の世界で中国の影響力がさらに浸透することは明らかです。 それに対し、強い危機感を抱くバイデン政権が日本との同盟を重視しているわけですが、ここで同盟にとって棘となるのが、前回、神保先生が指摘されたアメリカの国家資本主義への傾倒です。 トランプ政権はいわゆるデカップリングの必要を説いて中国を牽制しながら、実際には米中の貿易額は増大しています。他方で、経済対策に200兆円を投下することを決定したことからもわかるように、バイデン政権は「小さな政府」のイデオロギーを捨て、政府主導でコロナ危機を乗り越えようとしています。つまり、200兆円の景気刺激策は、リーマンショック後の中国が戦略的意図を持って大規模な財政出動を行ったのと同様に、ニュートラルな資金投入ではなく、なんらかの政治的意図や戦略的意図を持って投入される余地があるということです。それは、アメリカの“中国化”を意味します。 この200兆円が、そうした政治的戦略的意図、それが「一帯一路に対抗する」という意図であることは想像にかたくありませんが、一定の意図を持った経済対策であることを考えたとき、日本は難しい立場に立たされます。 安倍政権下で、日本は2017年6月以降、一定の条件下での「一帯一路」への支持を表明しています。これはアメリカとの立場の差異の顕著な例となります。「一帯一路」の枠組みをこれまでどおりに促進して日中経済協力を強化していくのか、それとも、その枠組みから離れて自由民主主義諸国間の協力に比重を置くのか。「一帯一路」の支持を継続するのであれば、日中の経済協力の意義や必要性、重要性を、アメリカに論理的に説明し、理解を得なければなりませんが、それができるのか。難しい課題です。 冒頭の発言の繰り返しになりますが、アメリカとは異なる対中戦略を選択する場合、それが合理的であることをアメリカに説得するための論理を持ちうるかどうかが課題です。少なくとも、対中戦略をめぐって日米間に亀裂や不信感が生まれることがあってはなりません。

 

米中間を漂流しないために 人権外交もまったく同じです。中国との経済的結びつきや法的基盤の違いを理由に、中国国内の人権弾圧への非難や制裁に消極的な姿勢を示すのであれば、日本のアプローチの論理を国際社会で合理的に説得する戦略が必要です。 日米同盟を深化させるうえで、その目的を共有していれば、具体的な政策のアプローチが完全に同一のものでなくとも問題はないはずです。ただし軍事や経済、人権の領域で、日米のアプローチの違いが生じた場合、政策の差異について簡単に自らアプローチを放棄するのではなく、それをアメリカに対して合理的に説明して理解が得られるような強靱な論理を持つ、真摯な努力が求められると思います。 それができなければ、日本はアメリカと中国との間で漂流してしまい、どちらつかずの宙吊りの状態になってしまうということになります。そのような日米の離間こそが、中国政府が求めている戦略なのです。

 

(おことわり) API地経学ブリーフィングに記された内容や意見は、著者の個人的見解であり、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)やAPI地経学研究所、その他著者の所属する組織の公式見解を必ずしも示すものではないことをご留意ください。

 

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