年頭のご挨拶(神保謙 APIプレジデント)


新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

世界情勢は混沌の度合いをますます深めています。ロシアによるウクライナ侵攻後の戦況は膠着し、戦争の終着点さえ見通すことが困難です。イスラエル・ハマス戦争は、秩序再編が進むとみられていた中東情勢を一変させ、自衛と安全、人権と共存の価値観を揺さぶっています。

欧州と中東での2つの戦争ばかりでなく、東アジアでも大国間競争と地政学的な緊張が高まっています。この緊張は軍事的領域のみならず、先端技術をめぐる競争、サプライチェーンの強靱化、産業集積の再編など、政治経済の秩序に大きな影響を及ぼしています。

こうした動向は2024年もさらに先鋭化することが予想できます。とりわけ本年は台湾、インドネシア、ロシア、韓国、インド、メキシコ、欧州連合(EU)、そして米国で主要選挙が予定されています。主要国や新興国で国内回帰の構図が鮮明になり、選挙結果によっては波乱含みの展開や、国際秩序の担い手に空白が生じるリスクも予期されます。

世界情勢が不安定化する中で、政策研究の重要性は高まるばかりです。国際社会の分断が深刻になればなるほど、知的対話や文化交流によるつながりが重要度を増しています。本年もアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)は世界と日本の政策課題に正面から向き合い、政策研究を深め、政策提言を積極的に推進します。

昨年は、地経学研究所(IOG)を中核とする地経学・経済安全保障の研究活動が進捗し、新興技術グループを新たに立ち上げることができました。また国際安全保障秩序グループによる地経学研究レポート『各国防衛産業の比較研究』も公開されています。日々の研究活動の成果は、IOG地経学ブリーフィング、地経学インサイト、地経学オンラインサロン等で積極的に対外発信しています。

また世界のシンクタンクとの連携も着実に進展しています。アジアの地経学研究を連携するAsia Pacific Geoeconomic Council設立に向けた準備会合、欧州諸国とのAdvanced Economic Security Forum、日韓関係の戦略的発展を模索する日韓未来ビジョン対話などがその一例です。海外からのVIPやシンクタンク研究者の訪問も途切れることなく、API研究員らとともにAPI Roundtableを開催し、政策対話を深めることができました。

2024年はAPIがアジア太平洋の知の拠点となる地歩を固めるべく、研究体制の強化、海外への発信強化、海外との連携強化を進めてまいります。APIは本年もインハウス研究員、客員研究員やシニアフェローの力を結集し、また国内外の政・官・財の皆さまのご支援を得ながら、新たな時代を開拓してまいります。

国際文化会館常務理事
APIプレジデント 神保謙