「太平洋島嶼国めぐる米中競争」日本の向き合い方(車田秀一)


「地経学ブリーフィング」とは、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを精査することを目指し、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)のシニアフェロー・研究員を中心とする執筆陣が、週次で発信するブリーフィング・ノートです(編集長:鈴木一人 地経学研究所長、東京大学公共政策大学院教授)。

本稿は、東洋経済オンラインにも掲載されています。

https://toyokeizai.net/articles/-/627354

「地経学ブリーフィング」No.127

(画像提供:ロイター/アフロ)

2022年10月24日

「太平洋島嶼国めぐる米中競争」日本の向き合い方 - 「イコール・パートナーシップ」の強調が重要だ

地経学研究所客員研究員 車田秀一

 
 
 
 
 

今年4月の中国とソロモン諸島による安全保障協定への署名は、アメリカ、オーストラリア及びニュージーランドに衝撃を与えた。

協定そのものは非公表だが、3月下旬にSNSを通じて流出した草案(とみられる文書)の内容が、ソロモン諸島への中国軍艦の定期的な寄港や、ソロモン諸島の社会秩序の維持を支援するために中国から警察および軍隊を派遣することが可能になると解釈できるためだ。アメリカ、オーストラリアおよびニュージーランドは、今回の協定署名を中国の南太平洋における軍事基盤獲得の動きと見て警戒感を強めている。

太平洋島嶼国において各国は何を目指し、どのように行動しているのか。そして、それが日本の外交にどのような影響を及ぼすのかを考えることは、日本の国益や安全にも大きな意味を持つ。
 

中国による影響力拡大の動き

太平洋島嶼国は、太平洋の広範囲に点在する比較的小規模な国家群であるが、中国の海洋進出により米中双方の関心が高まっている。2018年に発表された米中経済・安全保障調査委員会(USCC)の報告によると、中国は太平洋島嶼国に関し、

① 海洋進出時の補給拠点の獲得
② 台湾の国際的影響力低下
③ (アメリカ潜水艦の活動に対する)海洋監視能力の強化
の3点において戦略的価値を見いだしている。

中国による同地域への関与は2000年代から継続的に行われており、アメリカの同地域への関心が低い間に着実に関係を強化していた。中国は2006年に「中国・太平洋島嶼国経済発展フォーラム」を主宰し、30億元の借款を提供する旨を発表した。

2013年に中国は「一帯一路」構想において同地域に対する経済支援を強化するとした。ストックホルム国際平和研究所によると、2013年から2018年までの中国による同地域向けODAの額はオーストラリアに次ぎ2番目(約15億ドル)となった。

またUSCCによると、中国は民進党政権が成立した2016年から台湾への圧力を強化し、その一環として同地域において台湾との国交を有する国を引きはがす動きも活発化している。2019年、ソロモン諸島とキリバスは中国と国交を樹立し台湾と断交した。同地域では依然として4カ国(パラオ、マーシャル諸島、ナウル、ツバル)が台湾との国交を維持しているが、一部報道によると、中国はこれらの国に対する国交樹立の働きかけも行っている。

さらに、中国の同地域に対する影響力拡大の試みは安全保障面にも及んでいる。オーストラリア戦略政策研究所は、中国によるキリバスのカントン空港の修復工事の提案について民間用途以外での利用の可能性を指摘している。また、中国は5月に中国・太平洋島嶼国外相会議の場で同地域との地域貿易・安全保障協定の草案への調印を試みた(しかし、この試みは一部の国からの反対を受け合意に至らなかった)。
 

アメリカによる巻き返しと直面するジレンマ

これまで中国による太平洋島嶼国に対する影響力拡大の動きを静観していたアメリカも、近年の軍事基盤獲得の疑いがある動きには強く反応している。例えばキリバスはアメリカ太平洋軍司令部が所在するアメリカ・ハワイ州から約3000kmの距離に位置し、米豪のアクセス経路上にある。オーストラリア戦略政策研究所は、中国が同国の滑走路を自由に利用できるようになると、太平洋での有事の際に中国が同地域において優位な立場を獲得する可能性があると見ている。

特に今回の協定署名はアメリカ政府の動きを加速させた。バイデン政権は7月に実施された「太平洋諸島フォーラム」においてキリバスおよびトンガに大使館を開設することを表明するとともに、9月に同地域と初の首脳会議を開催した。アメリカ政府は会議の場で同地域への8億1000万ドルの援助を発表するとともに、同地域に対する初の戦略となる「太平洋パートナーシップ戦略」を発表した。

アメリカはまた、ミクロネシア3国(パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島)を中心に安全保障面での活動を活発化している。アメリカはこれらの国と1980年代から1990年代にかけ自由連合盟約(コンパクト)を締結し、同3国に対する安全保障の責任を負うとともに国内に軍事施設を設置する権限を確保した。

現在、アメリカはパラオとミクロネシア連邦に対する軍事施設建設に向けた動きを進めており、パラオではすでに航空および海上監視用レーダーの設置が計画中であり、アメリカ国防省の2022年予算として議会承認を受けている。また、駐米ミクロネシア連邦大使館によると、政府は2021年にミクロネシア連邦政府と会談し、永続的なアメリカ軍のプレゼンス(駐留)に関する検討を進めることに合意したという。

アメリカ軍の演習も活発化している。今年6月、アメリカ軍は統合演習「バリアント・シールド」でパラオにて高度かつ実践的な統合訓練を行い、ハイマースの迅速展開訓練、無人攻撃機MQ-9の飛行試験、F-35A戦闘機と連携した地対空ミサイルPAC-2の実弾射撃訓練を行ったと発表した。

このような米中の動きに対し、地域諸国は不満を抱くとともに米中双方から利益を得るという巧みな外交を展開する動きも見られる。冷戦期の1980年代、ソ連の活動に刺激される形で米豪等の西側諸国が同地域への関与を強化したが、ソ連崩壊に伴いその関与は著しく弱まったという過去の経験があるからだ。そのため、対中抑止の文脈で関与を強化するほど、地域諸国から距離を置かれるというジレンマにアメリカは陥りつつある。
 

太平洋島嶼国とのイコール・パートナーシップが重要

日本にとって太平洋島嶼国は米豪等の友好国とのアクセス経路上にあり、近年はデジタルインフラとなる海底ケーブル網の一部が同地域を経由している。この戦略的に重要な地域においてルールに基づく国際秩序が維持され「自由で開かれた」状態であることは日本の国益にとって重要だ。

では、日本がこの米中大国間競争の時代に同地域に関与するにあたり目指すべきことは何か。それは、

① 日本の活動は「対中包囲」や「対米追従」とは一線を画した、地域の安定と繁栄のための持続的な取り組みであるとの理解を各国から得ること
② 同志国が有する強みを生かし、効果的な役割分担で共同して関与すること
であろう。

特に重要になるのは、日本が同地域との「イコール・パートナーシップ」という基本姿勢に基づき活動することだ。同地域の最優先課題は気候変動、自然災害、失業、貧困等の人間の安全保障であり、軍事安全保障や大国間競争ではない。日本はその認識に基づき、同地域と課題を共有する島国として共通の問題解決に取り組んできた実績がある。
 

中国との対立構造を持ち込まないように

日本は1997年から同地域との首脳級会合である「太平洋・島サミット(PALM)」を開催し、「イコール・パートナーシップ」に基づいた関係を重視する姿勢を示してきた。米中の大国間競争が影響する今こそ、日本と同地域との「イコール・パートナーシップ」を改めて強調することが重要であろう。そして、米豪ニュージーランド等と連携した取り組みの効果を高めつつ、域内に中国との対立構造を持ち込まないようにすることが求められる。

これまで一枚岩と言えなかった西側諸国にも日本と協調して同地域を支援するという動きが見られる。アメリカは今年6月に日本、オーストラリア、ニュージーランド等による同地域への支援枠組み「ブルーパシフィックにおけるパートナー」を設立し、9月に同枠組みの外相会合が実施された。会議後、共同声明が発表され、会合参加国は同地域の「ブルーパシフィック大陸のための2050年戦略」を支えていくことを明らかにした。

今後、日本は同志国と連携し、この戦略の推進役を期待されよう。日本は同地域の「イコール・パートナー」として、「自由で開かれたインド太平洋」を維持するための各種課題に、太平洋島嶼国と共に取り組む姿勢を行動で明確に示していかなければならない。
 

(おことわり)地経学ブリーフィングに記された内容や意見は、著者の個人的見解であり、公益財団法人国際文化会館及び地経学研究所(IOG)等、著者の所属する組織の公式見解を必ずしも示すものではないことをご留意ください。
 

最新の論考や研究活動について配信しています