【授賞式開催報告】大賞の中川七海氏(Tansa)らがスピーチ/第2回「PEPジャーナリズム大賞」2022


政策起業家プラットフォームPEPは、2022年7月15日、第2回「PEPジャーナリズム大賞」2022の授賞式を開催しました。中川七海氏(Tokyo Investigative Newsroom Tansa)の「シリーズ 公害『PFOA』」に大賞・課題発見部門賞を授与したほか、検証部門、オピニオン部門、特別賞の各受賞者を表彰しました。授賞式における受賞者のスピーチはこちらからご覧いただけます

PEPジャーナリズム大賞 受賞者コメント

1. 大賞および課題発見部門賞(合計賞金150万円=部門賞30万円+大賞120万円)
大賞:3部門を通して最も優れた記事
課題発見部門賞:市民・地域の課題や、光の当たりにくい社会課題などを取り上げ、政治や行政、世論にインパクトを与えた(あるいは将来的に与えうる)報道

【受賞作品】 「シリーズ 公害『PFOA』」
【受賞者】 中川七海(Tokyo Investigative Newsroom Tansa)
【受賞コメント】
本作を高く評価いただき、誇りに思います。
受賞にあたり、私が所属する報道機関Tansaの寄付者と、本作の舞台である大阪・摂津の皆様に御礼申し上げます。
Tansaは非営利独立メディアです。購読料や企業からの広告費は一切とらず、市民の寄付で成り立っています。本取材は、寄付により実現しました。また独立性の強さは、本作の重要な鍵でもあります。ダイキンを追及する主要メディアはおらず、今もダイキンのCMを流し続けています。
「ダイキン城下町」の摂津では、取材への協力は容易くありません。それでも「子どもの健康に関わることや」と立ち上がる住民の姿を受け、報道の自由を貫く覚悟が私に生まれました。受賞を自信に変え、引き続き取材に励みます。

2. 検証部門賞(賞金30万円):
現代政治・経済・社会・先端技術等の重要課題に対処する政策決定過程について、検証・調査した報道

【受賞作品】 「オシント新時代 荒れる情報の海」
※特に、ロシアと中国におけるサプライチェーンの動態を取材した、「隠れ株主「中国」を可視化せよ AI駆使し10次取引先までチェック」(12/31)および「ロシア政府系メディア、ヤフコメ改ざん転載か 専門家『工作の一環』」(1/1)の両記事
【受賞者】 毎日新聞(松岡大地/木許はるみ、加藤明子、八田浩輔)
【受賞コメント】
公開情報からインテリジェンスを抽出するオシントは、情報機関だけが担うものではなくなりました。本連載は、オシントを必要とする主体や担い手をあらゆる個人、組織へと解釈を広げて、最前線の動きと課題を報じたものです。ロシアによるウクライナ侵攻では、戦況や偽情報の検証において、非国家主体によるオシントが大きな役割を果たし、その手法や意義が改めて注目を集めています。ジャーナリズムの分野でも、オシントの手法を取り入れた革新的な報道が次々と生まれています。私たちも受賞を励みに、新しい時代のジャーナリズムの模索を続けます。取材に協力頂いたすべての方に御礼を申し上げます。

3. オピニオン部門賞(賞金30万円):
時世に流されず確固たる視点で冷静・鋭い視点を提供した論考、論説、コラム

【受賞作品】 「まん延防止等重点措置延長に関する一連の報道」
【受賞者】 大竹文雄(大阪大学感染症総合教育研究拠点)
【受賞コメント】
新型コロナ感染症対策は、感染者数を抑えるための私権制限が中心です。私権制限は、飲食店の営業時間規制が代表的ですが、様々な活動の自粛も含まれます。私権制限で感染は減るかもしれませんが、それで失うものもあります。どちらを重視するかは、価値観に依存します。私権制限を課す必要があるほどの重症化リスクがある感染症か否かを変異株の特性に応じて判断すべきです。感染症の被害は目に見えやすいですが、感染対策の被害は目に見えにくいものです。感染症の被害に情報は偏りがちです。そう考えて基本的対処方針分科会で少数派だった私の意見を対外的にも公表してきました。少数派だった私の意見表明活動を評価していただき感謝します。

4. 特別賞(賞金 各15万円):
各部門に必ずしも当てはまらないものであっても、選考委員会が特に優れていると判断した報道

【受賞作品】 「交通事故で息子が寝たきりに――介護を続ける親の苦悩と、『親なき後』への不安」
【受賞者】 柳原三佳
【選考部門】 課題発見部門
【受賞コメント】
フリー記者として交通事故に関する記事を書き始めたのは30余年前のこと。以来、被害者や遺族、ときには加害者の方々から連日のように手紙やメールが届き、エンドレス状態で取材活動を続けてきました。ずさんな初動捜査、損保の払い渋り、死人に口なし冤罪、事実誤認の判決……。統計数字で語られがちな交通事故の裏側に、理不尽な状況に置かれ長年苦しんでいる人がいかに大勢いらっしゃるかということを日々痛感しています。今回、特別賞をいただいた記事では事故で重度障害を負った我が子を自宅で献身的に介護するご家族の声を取り上げました。受賞をきっかけにこの問題が多くの方の目に触れ、解決への糸口になることを期待したいと思います。

【受賞作品】 「不思議な裁判官人事」
【受賞者】 木野龍逸(フロントラインプレス)
【選考部門】 検証部門
【受賞コメント】
この度は「PEPジャーナリズム大賞2022」の特別賞に選出いただきまして、大変ありがとうございます。裁判官人事という少々マニアックな企画に対して、このような評価をしていただいた関係者の皆さまに感謝いたします。また、取材にご協力いただいた関係者の皆さま、明治大学の西川伸一先生、フロントラインプレスの弓場記者にもお礼を申し上げます。裁判所は、立法府、行政府と並ぶ国家権力の根幹であり、社会に大きな影響を与える存在ですが、裁判長の名前以外はほぼ表に情報が出てこない不思議な組織です。今回の受賞により少しでも多くの人たちが関心を持つことで司法を見る目が増え、組織の透明性拡大につながれば望外の喜びです。

※以下の政策起業家プラットフォームPEPサイトにて、全受賞者およびファイナリストの記事へのリンクをご確認いただけます。https://peplatform.org/news/pep-j2022/

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【選考委員長コメント】
林香里・東京大学大学院情報学環教授

第2回となる本年の応募作品もたいへんな力作揃いだった。今年は「検証部門」「課題発見部門」「オピニオン部門」の3部門で作品を募り、それぞれの部門の賞を選ぶとともに、その中から一つ、PEPジャーナリズム大賞の趣旨「社会変革の糸口となり、日本の政策起業力を高めるジャーナリズム」にもっともふさわしい作品を「PEPジャーナリズム大賞」として選んだ。また、昨年同様、特徴のある課題提起をするユニークな作品のために「特別賞」も設け、受賞作を選んだ。応募総数は65件で前年と同レベルであった。

「課題発見部門」賞の「シリーズ 公害『PFOA』」は、国際的に規制が進む有価フッ素化合物(PFOA)による高濃度土壌汚染について、中川七海氏が様々な視点から丹念に調査した一連の報道である。PFOAは国際的には強度の有毒性がある危険な化学物質として知られており、映画にもなった。しかし、日本ではほとんど知られておらず、主要メディアも大きく取り上げてこなかった。今回対象となった記事では、専門家の調査結果とともに、PFOAを使用している企業の担当者ならびに地方自治体担当者への取材インタビューをし、さらに情報公開請求などでより詳しい情報を入手しながら、高濃度土壌汚染が放置されている状況について詳述している。環境省、自治体、そして企業の責任を問う姿勢はジャーナリズムの古典的機能である権力監視を着実に実践しており、審査員全員が調査報道として高く評価。今年度の「PEPジャーナリズム大賞」とした。

「検証部門」では、インターネット時代の諸課題に切り込む毎日新聞の連載「オシント新時代 荒れる情報の海」を受賞作とした。「オシント(OSINT)」とは、open-source intelligenceの略語で、一般に公開されアクセス可能な情報を収集、分析しながら課題解決を図る手法で、デジタル情報が氾濫する現代社会においてさまざまな主体が様々な目的で運用している。このシリーズはその現状と行方を多角的に分析している。なかでも、「ロシアと中国におけるサプライチェーンの動態を取材した「隠れ株主「中国」を可視化せよ AI駆使し10次取引先までチェック」(12/31)および「ロシア政府系メディア、ヤフコメ改ざん転載か 専門家『工作の一環』」(1/1)の両記事は、激動する国際社会におけるデジタルテクノロジーがもたらす可能性および弊害の最前線を描いた意欲作だ。

「オピニオン部門」には、オミクロン株の広がりの中、今年2月に政府が宣言した「まん延防止延長」に反対を唱え、その理由を自身のnoteをはじめ、ネット媒体を活用してわかりやすく説明、情報発信を続けた大竹文雄氏に贈る。専門家という立場から冷静に状況を解説し、毅然とした態度でEBPM(証拠に基づく政策形成)の必要性を説く姿勢は、まさに本賞にふさわしいと審査員の意見が一致した。

上記受賞作以外にも、「課題発見部門」と「検証部門」でそれぞれ「特別賞」を1作品ずつ選んだ。柳原三佳氏の「交通事故で息子が寝たきりに――介護を続ける親の苦悩と、『親なき後』への不安」は、交通事故に遭った子どもの介護をする家族の苦悩に光を当て、さらに受け皿となる障害者施設が絶対的に不足しているこという「課題」を明るみに出した。もう一つの作品は、木野龍逸氏による「不思議な裁判官人事」である。裁判官のエリート度合いという評価軸について、アカデミックにみると疑問があるという評価もあったものの、一般にはほとんど知られていない裁判官人事を丁寧に検証しており、執念の取材を評価して特別賞とした。

このほかにも多数の力作・佳作があったことから、賞の選考にも、多くのエネルギーを要した。今回も未だ見えにくい社会の側面に光を当て、検証し、将来の変革の糸口になるような作品の応募を多数いただいたことに感謝したい。そして、今後もこうした作品が多く世に出て、暮らしやすく多様性が尊重される民主主義社会にジャーナリズムが貢献していくことを、審査員一同、心から願っている。

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「PEPジャーナリズム大賞」とは

自由で開かれた社会において、市民が公共の事柄に関心を持ち、当事者意識を持ってそれに参画する「政策起業力」。その発揮には、確かな情報を伝え、判断材料を提供し、またアジェンダを形成するジャーナリズムの力が決定的に重要です。インターネット空間の力強いジャーナリズムが、多様にして包容力と活力のある自由主義と民主主義を育てる上で重要な役割を果たし、日本の政策起業力を高めることに繋がる。我々、政策起業家プラットフォームPEPはそう信じ、2021年にこの賞を創設致しました。

(1)選考委員会
林香里 (委員長) 東京大学大学院情報学環教授
治部れんげ ジャーナリスト/東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授
竹中治堅 政策研究大学院大学教授
西田亮介 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授
山脇岳志 スマートニュース メディア研究所 所長
船橋洋一 国際文化会館グローバルカウンシルチェアマン 兼 アジア・パシフィック・イニシアティブ創設者

(2)対象記事の条件
インターネット上に公開された記事であること。
筆者(または筆者のグループ)につき1つの記事(但し、同じテーマの企画・連載は1つと見做す)を対象とします。尚、連載が3つ以上の記事にわたる場合には、代表的な3つの記事のみを対象に審査致します。
インターネット上で公開されている/された報道。雑誌・月刊誌も含まれます。但し、放送法の規定による「放送事業者」によるオンライン記事は除きます。また、動画は審査対象から除外します。
フリーランス・個人による報道、組織・チームによる報道であるかは問いません。但し、筆者、あるいは筆者のグループは、報道を主な生業としていることが条件となります。オピニオン部門については、研究者による論考など含め広く募集しますのでこの限りではありません。
言語は日本語とします。
自薦、若しくは、報道機関等メディアや個人による他薦を受け付けます。

※過去の受賞作についてはこちらをご覧ください。
https://peplatform.org/jaward/2021/

政策起業家プラットフォームPEPとは

「政策起業家プラットフォーム(Policy Entrepreneur’s Platform:PEP)」は、2019年10月に一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブが立ち上げた日本初の政策起業家コミュニティです。公のための課題意識のもと、専門性・現場知・新しい視点を持って課題の政策アジェンダ化に尽力し、その政策の実装に影響力を与える「政策起業家」を支援し、公共政策のプロセスへの国民一人一人の参画を促し、より政策本位の政治熟議を生み出すことを目指しています。
https://peplatform.org

※ 政策起業家プラットフォームPEPを運営する一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブは、2022年7月1日をもちまして公益財団法人国際文化会館と合併いたしました。合併後の名称は「公益財団法人国際文化会館」となります。また、「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の名称は、(1) 国際関係・地域研究・地政学、(2) 社会システム・ガバナンス・イノベーション、の二つの事業領域のプログラム・ブランド名として引き続き使用されます。合併後の法人は、両財団の権利義務すべてを継承いたします。