第10回API地経学オンラインサロンを開催~「ロシア・ウクライナ問題を地経学で読み解く」


当日の録画動画は こちら

一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(所在地:東京都港区、理事長:船橋洋一、以下API)は、2022年3月12日(土)午前10時~11時に、第10回「API地経学オンラインサロン」を開催いたします。詳細については、下記をご参照ください。
[本イベントは終了しました]
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開催報告

APIは、2022年3月12日(土)に第10回目となる地経学オンラインサロンを開催しました。今回はゲストに、ロシア・旧ソ連諸国の軍事・安全保障政策問題を専門とする東京大学先端科学研究センター専任講師の小泉悠氏をお招きし、「ロシア・ウクライナ問題を地経学で読み解く」と題して、API地経学研究所所長代行・上席研究員である鈴木一人東京大学公共政策大学院教授との対談をお送りいたしました。当日の主な議論を以下にご紹介します。事務局作成のサマリーですので、正確な内容についてはぜひ動画をご視聴ください。

(本サマリー及び動画の内容はイベント実施時点での情報に基づいています)


プーチンの狙いは、冷戦時の鉄のカーテンまでロシアの勢力圏を復活させること
冒頭、「プーチンの本当の狙いはどこにあるのか」との問いに対し、小泉氏は、「冷戦後の欧州の安全保障秩序を書き換えたいのだろう。具体的には、1997年にNATOとロシアが調印した基本文書以前の状態に戻したい。すなわち、旧ソ連諸国はこれ以上NATOに入らない。NATOに入った旧東欧諸国からは米軍を撤退させる。本来ロシアと一体の存在であるウクライナ は、西側と手を切ってロシアに戻ってくる。それにより、鉄のカーテンまではロシアの勢力圏であることを認めさせたいのだろう。」と説明しました。ただ、このような大ロシア主義的な考えを達成するにあたり、なぜ今回突然武力を用いるまで至ったかについては、小泉氏はこう説明しました。「もともとプーチンは、2012年には旧ソ連版EUというような経済同盟を作ろうという論文を書いていたが、2014年には、ヤヌコビッチ失墜により頓挫、クリミア半島では軍隊を使って鮮やかに成功したという、間違ったトラウマと間違った成功体験があった。そこに、コロナ禍でプーチン氏が感染を恐れて引きこもって独裁化を強め理性的な判断をするinstitutionが働かなかったことと、アメリカのバイデン政権のやや弱腰な外交姿勢などの影響も相まったのではないか。」

ウクライナをなめていたロシア。今後は暴力がエスカレーションか
続いて議論は、長引く軍事侵攻の背景にあるロシア軍の軍事作戦の稚拙さに移りました。小泉氏は、「ウクライナは旧ソ連第2の大国。軍隊も開戦前時点で20万人の兵力を擁していた。親露派との実戦経験も積んでおり、今回予備役も招集したので、数だけでいうとロシア軍を上回る。米軍が湾岸戦争で用いた『制空権を取って抵抗できなくしてから地上軍を侵攻させる』というshock and aweではなく、初日からいきなり地上部隊を派遣したのは、完全にウクライナをなめていたからだろう。8年前の弱いウクライナ軍のイメージで、ドアを一発蹴ったら崩れる『腐った納屋』と思っていたのではないか。だが、ウクライナ軍も8年間で軍改革を進めたほか、今回西側の支援も入っており、劣勢ながらよく頑張っている。」と解説しました。
続いて、今後の侵攻の帰結に関する話題に移りました。小泉氏は、「意図的にライフライン・学校・病院を攻撃し、現地の人が心理的に耐えられない状況を作るのは、ロシア軍の都市攻略の常道。精密誘導兵器でなるべく民間人の被害を出さないという発想は無い。ただ、これをやると、ウクライナ人のロシアに対する敵愾心は未来永劫となる。国際社会や相手国の国民に支持されず、戦闘には勝てるかもしれないが、戦争には勝てない。ゼレンスキーを排除すればウクライナ国民がついてくるくらいの気持ちで始めたが、こうなるとウクライナ国民の抵抗・不服従の激しさは想像もつかないほど。考えられる出口は、①プーチンが、国内の反戦運動・新興財閥の突き上げ・国際社会からの制裁を受け、しぶしぶ撤退するか、②宮廷革命が起きるか。KGBの後継組織であるFSBの高官も昨晩何人か逮捕された。だが、プーチンは、どんな暴力的手段を用いてでも戦争を完遂する気のようであり、戦術核の限定使用まで含めたもっと恐ろしい暴力まで展開する恐れもある。軍事的に決定的な勝利がつかめないほど、生物・化学兵器を使う可能性も高まってくる。」との危機感を示しました。

国際社会ができること。プーチンの「終わりの始まり」か
そして、「生物・化学・核兵器を使用した際に、国際社会がどう反応し、どのような報いを与えるかは重要。ほかの権威主義指導者に影響を与えるので、最大限厳しく応じるのが、後々我々のためだと思う。」と強調します。
その後、各国による対ロ経済制裁の効果について話題になりました。小泉氏は、「今回の制裁はこれまでとは性質が異なる。2014年のクリミア占拠の際の制裁は、一つのリミットを示すに過ぎなかったが、今回はロシアが『読めない国』として企業が自発的にどんどん撤退している。プーチンは引き揚げた企業の資産の接収まで示唆しており、自ら海外からの投資を排除する『セルフ経済制裁』を行っている。力でギリギリ締め上げることしか頭になく、いつまでも持たないのではないか。プーチンの国内基盤が崩れて、権力が持ちこたえられず、2024年の大統領選が実施できず、今の政体が持たない可能性もある。」と指摘しました。
最後に、プーチン後のロシアについて、小泉氏は、「ロシア史を振り返ると、①スターリンの死後は、一瞬の粛清の後、フルシチョフによる集団指導体制が確立した、②皇帝殺しの後には革命が起きた。また、③いかなる権力も確立できずバラバラになる可能性も残る。」と発言したのを受け、ホストの鈴木氏が、「プーチンの後継者は育っていない。軍に実力が無く、プーチンの取り巻きの政治家による集団指導体制も分かりにくく、きわめて不透明な状況。経済制裁でプーチン政権が揺らいでいった場合には、国際社会の側も責任をもって注意してみていかないと。」と締めくくりました。

当日の模様は以下よりご覧になれます。


<お問い合せ先>
一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)
API地経学研究所

API地経学オンラインサロン

1.日時
2022年3月12日(土)10:00 ‒ 11:00(JST)(9:50開場)

2.開催方式
オンライン視聴(ZOOMウェビナー)

3.主催
一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)

4.テーマ
「ロシア・ウクライナ問題を地経学で読み解く」

5.登壇者
ゲスト:小泉悠 東京大学先端技術研究センター専任講師(グローバルセキュリティ・宗教分野)

ホスト:鈴木一人 API地経学研究所所長代行・上席研究員 / 東京大学公共政策大学院教授

6.ゲスト(小泉悠氏)の略歴
東京大学先端科学技術研究センター専任講師(グローバルセキュリティ・宗教分野)、新領域セキュリティの諸課題に関する分科会座長、中国・権威主義体制に関する分科会委員(ロシア班・班長)。

民間企業、外務省専門分析員等を経て、2009年、未来工学研究所に入所。2017年に特別研究員となり、2019年2月まで勤務。この間、外務省若手研究者派遣フェローシップを得てロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所に滞在したほか(2010-2011年)、国立国会図書館立法及び考査局でロシアの立法動向の調査に従事した(2011-2018年)。2019年3月、東京大学先端科学技術研究センター特任助教。2022年1月より現職。専門は安全保障論、国際関係論、ロシア・旧ソ連諸国の軍事・安全保障政策。

(おことわり)
API地経学オンラインサロンで表明された内容や意見は、講演者やパネリストの個人的見解であり、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)やAPI地経学研究所等、スピーカーの所属する組織の公式見解を必ずしも示すものではないことをご留意ください。