第3回API地経学オンラインサロンを開催~「台湾半導体産業の地経学」


当日の録画動画は こちら

一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(所在地:東京都港区、理事長:船橋洋一、以下API)は、2021年8月14日(土)午前10時~11時に、第3回「API地経学オンラインサロン」を開催いたします。詳細については、下記 をご参照ください。
[本イベントは終了しました]
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開催報告

APIは、2021年8月14日(土)午前10時~11時に第3回目となる地経学オンラインサロンを開催しました。

今回はゲストに川上桃子アジア経済研究所地域研究センター長をお招きし、「台湾半導体産業の地経学」と題して、API地経学研究所所長代行・上席研究員である鈴木一人東京大学公共政策大学院教授との対談をお送りいたしました。当日の主な議論を以下にご紹介します。事務局作成のサマリーですので、正確な内容についてはぜひ動画をご視聴ください。

(本サマリー及び動画の内容はイベント実施時点での情報に基づいています)


TSMCはグローバルな企業だが、その強みには台湾的な特徴が見て取れる
第3回目の地経学オンラインサロンは台湾・半導体産業の専門家である川上氏をゲストにお迎えし、地経学の核心となりつつある半導体と、その中心的企業であるTSMCを軸に議論を展開しました。川上氏は冒頭、なぜTSMCがこれほどまでに競争力の高い企業に成長したのか、4つの要因を挙げて説明しました。それは第1に、TSMCはピュア・ファウンドリーとしてシリコンウェハー加工に特化した莫大な投資を行い、徹底的に技術力を磨き上げてきたこと。第2に、TSMCはチップの設計資産を蓄積しており、顧客が作りたいチップの設計を強力にサポートできるため、このサポート力をもって一流の顧客をロックインし、同時に顧客である一流企業の技術や情報を共有してもらって自らの設計資産を高めるサイクルを繰り返していること。第3に、半導体産業はその特性上、人材の力が重要であるところ、TSMCには台湾や世界のベスト・アンド・ブライテストの人材が集まっており、上述のサポート力を担っていること。第4に、TSMCは米国との繋がりが深く、米国を中心とする半導体のグローバルなエコシステムの最重要な位置を占めていることに加え、人の繋がりを背景に、米国の市場や技術動向との深い繋がりを持っていること。これらの見解に対し、鈴木・川上両氏は特に第2点目のサポート力がTSMCの強みの核心にあり、かつサポート力は台湾企業の文化によって育まれた、台湾的な特徴だという見解で一致しました。

ここ数ヶ月でTSMCにとっての海外進出の意味が変わった
ここで、鈴木氏からは台湾的な特徴を持つTSMCが海外進出を行う意義について、TSMC自身がどう捉えているのかという問いがなされました。川上氏からは、TSMCにとって最も効率的なのは、人材・サプライヤーの強みを活かせ、政府の支援もある台湾での一極集中型生産であり、台湾からの海外進出はコストが伴うものだという指摘がなされました。一方で、台湾への一極集中は半導体生産に必要な水・電気の不足というリスクがある他、ここ数ヶ月で米国の補助金を受けて競合のインテルやサムスン電子が米国でのファウンドリー事業を強化しており、TSMCにとって顧客の7割を占める米国で顧客を長期的に確保することの重要性が上昇したことが、TSMCにとっての海外進出の意味を変えたという解説がなされました。

日本の半導体産業を強化する2つのシナリオと地経学
議論は日本の半導体産業にも及び、川上氏からは日本の半導体産業は生産設備や素材に強みがあり、これらの強みを維持、強化するにはファウンドリーとの協業が鍵で、それには2つのシナリオがあるとの見方が示されました。そのシナリオとは、第1にファウンドリーに日本に来てもらうというシナリオであり、第2にファウンドリーの本丸、例えばTSMCであれば台湾に、日本の設備・素材メーカーが進出し、TSMCやその周りの企業と協業することで強みを磨くというシナリオです。川上氏は続けて、これらのシナリオは相互排他的ではないものの、日本に生産能力を持つことを重視するのか、日本企業のグローバルな競争力を後押しすることを重視するのかによって異なる力点を置くことになると述べました。

これに対し、鈴木氏からは、川上氏が提示した半導体産業の2つのシナリオは地経学における国家と市場との関係を象徴しているとの見解が示されました。すなわち、国家の経済安全保障を優先すると第1のシナリオのように国内に生産拠点があることが重視され、市場における競争力を優先すると、第2のシナリオのように国家の枠組みに囚われないグローバルな国際分業の中で強みを養うことが重視されるという、半導体産業の方向性に反映される地経学的構造が解説されました。

当日はこの他にTSMCの海外進出と米中対立、TSMCの熊本への進出の意図、TSMCが行ってきた巨額設備投資の背景、TSMCの知的財産管理、TSMCの人材流出策と台湾による規制、米国の半導体産業政策の転換がTSMC等の台湾の半導体企業へ与える影響についても議論がなされました。

当日の模様は以下よりご覧になれます。

<お問い合せ先>
一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)
API地経学研究所

API地経学オンラインサロン

1.日時
2021年8月14日(土)10:00 ‒ 11:00(JST)(9:50開場)

2.開催方式
オンライン視聴(ZOOMウェビナー)

3.主催
一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)

4.テーマ
「台湾半導体産業の地経学」

5.登壇者
ゲスト:川上 桃子 アジア経済研究所地域研究センター長

ホスト:鈴木 一人 API地経学研究所所長代行・上席研究員 / 東京大学公共政策大学院教授

6.ゲスト(川上桃子氏)の略歴
1991年、東京大学経済学部を卒業し、アジア経済研究所に入所。2011年、経済学博士号(東京大学)取得。1995-97年、2012-13年に台湾、カリフォルニアで在外研究を行う。専門は台湾を中心とする東アジアの経済発展。台湾半導体産業に関する最近の論考に「米中ハイテク覇権競争と台湾半導体産業――『二つの磁場』のもとで」(川島真・森聡編『アフターコロナ時代の米中関係と世界秩序』東京大学出版会、2020年、に所収)がある。

(おことわり)
API地経学オンラインサロンで表明された内容や意見は、講演者やパネリストの個人的見解であり、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)やAPI地経学研究所等、スピーカーの所属する組織の公式見解を必ずしも示すものではないことをご留意ください。