アメリカに「G7」の価値再発見が求められる理由(ディクソン藤田茉里奈)


「地経学ブリーフィング」とは、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを精査することを目指し、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)のシニアフェロー・研究員を中心とする執筆陣が、週次で発信するブリーフィング・ノートです(編集長:鈴木一人 地経学研究所長、東京大学公共政策大学院教授)。

本稿は、東洋経済オンラインにも掲載されています。

https://toyokeizai.net/articles/-/663195

「地経学ブリーフィング」No.149

(画像提供:picture alliance/アフロ)

2023年4月3日

アメリカに「G7」の価値再発見が求められる理由 - ロシアと中国からの挑戦に対してどう対処するか

アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)/地経学研究所 研究員補  ディクソン藤田茉里奈

 
 
 
 
 

【特集・G7サミットでのウクライナ支援(第4回)】

2009年のピッツバーグG20サミットで、当時のアメリカ大統領だったバラク・オバマ氏はG7がG20によってとって代わられるだろうと宣言し、それが「国際経済協力における最重要なフォーラム」になると規定した。G20の登場は、国際舞台における首脳間のフォーラムを考えるうえでの重要な歴史的転換点となり、グローバルなレベルでの議題設定において、とりわけ非西洋諸国の新興経済諸国が発言権を持つ機会を提供することになった。

ところが、オバマ氏がG20の重要性に言及した後に、トランプ大統領が登場すると、G7を指して「時代遅れの諸国のグループだ」とののしった。実際に、G7が始まったときに世界経済の70%を占めていたのが、2016年になるとそれが47%まで低下している。トランプ大統領は、NATOの中核的な目標に疑問を抱いていたし、またその後継のバイデン大統領は「民主主義サミット」のようなイニシアティブによって、いくつかのパートナー諸国を疎外してきた。

ここでは、現在の国際環境の中での潮流変化のなかで、アメリカがG7という比較的小規模なネットワークを用いて、いかにして自らの影響力を拡大することができるか、またグローバルなリーダーとしての信頼を回復することができるかを論じていく。
 

G7諸国の内側での分裂

ウクライナ侵攻が喚起した危機認識の増大によって、ロシアに対してアメリカと西ヨーロッパが結束する必要が急速に拡大している。だが、ウクライナ戦争勃発後のG7諸国の内側でのこのような結束は、必ずしも他の領域での協調の深化につながっていくことはなかった。それはどういうことだろうか。

現実には、NATO加盟国として欧州諸国もロシアの侵略に対抗してウクライナを支援しているものの、物質的な支援は圧倒的にアメリカからのものである。もちろん欧州諸国も、弾薬や、レオパルト2や、榴弾砲などを前線へと提供しているが、しばしばその支援の実施には時間がかかっている。

ポーランドは当初、F16型戦闘機の提供に躊躇を示しており、そもそも提供するには保有数があまりに少ないと弁明した。またドイツは、国防費を1000億ユーロへと増加させるという防衛政策の歴史的な転換を示したものの、新しい防衛大臣はドイツの軍事力を近代化するには50年ほどの時間が必要だと言及せざるをえなかった。

このように、ウクライナ支援にもっとも大きな貢献をしているのはアメリカである。確かにアメリカ議会の議員たちは、議会で支援策を可決させるのは次第に難しくなっていると論じ、いくつかの選挙区ではその必要性が理解されないと嘆いている。これはとりわけ、共和党の場合にあてはまり、昨年3月には80%がそれに賛成だったのが、現在ではその支持が55%にまで低下している。

さらにアメリカ国内では対中強硬派がアメリカの資源をロシアに対してではなく、中国に対して向けるべきだと論じている。太平洋を跨いでロシアと中国とこのように優先順位の差異化を図ることで、アメリカは国内的に可能な範囲でウクライナ支援を継続することが求められながらも、ヨーロッパ諸国がロシアに対して共同してその支援を増大させていくように促している。
 

「攻撃的」「深刻な、対決的な脅威」

このようにヨーロッパのウクライナ支援を増加させる必要があることを前提に、アメリカの大統領には同盟諸国との関係を強化していくことが求められている。だが、対外政策と国内政策との優先順位を調整することに、あまりにも多くの労力を割いているというのが現実だ。

アメリカの有権者たちが国内問題を優先するよう圧力をかけており、バイデン大統領は「中間層のための対外政策」というスローガンのもとで、より保護主義的な政策を強いられている。それは実際にはトランプ大統領の「アメリカ第一主義」のかたちを変えた継続であろう。

現実にそれはインフレ抑制法(IRA)や、国内半導体産業保護のためのCHIPS法へと帰結し、ヨーロッパやアジアにおけるアメリカのパートナー諸国の怒りを誘っている。フランス大統領のエマニュエル・マクロンはインフレ抑制法を「きわめて攻撃的だ」と批判し、またイギリス財務相のジェレミー・ハントはそれを「とても深刻な、対決的な脅威である」と称した。

日本もまたその法律を、日米両国の戦略の共有や、強靱なサプライチェーンの構築という目標とは「整合しない」と批判している。長年の同盟国を疎外するような保護主義的な政策によって、アメリカは依然として、グローバルなリーダーとなるうえで足元がふらついている。

アメリカとヨーロッパの間での分裂がもっとも顕著なのは、対中政策に関してだ。EUの対外貿易担当の欧州委員は、世界第2位の経済大国とデカップリングを進めることは、ヨーロッパにとっては実現可能なオプションではない、と述べた。
 

欧米の足並みがそろわない理由

EUはアメリカを価値あるパートナーと位置づけているが、欧州理事会の事務局の高官によれば、自らはアメリカの「属国」ではないことを明確にしたいと論じている。ヨーロッパが、対中政策をめぐってはアメリカと同調することに消極的であることは、脅威認識をめぐる差異を照射している。すなわち、ヨーロッパにとっては最大の脅威はロシアであるのに対して、アメリカにとってのそれは中国である。したがって、アメリカはヨーロッパで膨大な支援を提供しながらも、中国に対して共同歩調を摸索している。

どのようにして中国に対してリスクを極小化するかについて、議論することは確かに必要だ。だが、そのための実効的な政策のために、相互理解や共通認識こそが不可欠だ。それゆえ、5月の広島G7サミットはアメリカにとってそのような共通認識を形成して、7カ国の間でのリーダーシップを回復するための重要な好機となっている。

アメリカにとって、これらの同盟諸国と意見を調整することは、重要な価値を持つであろう。たとえばウクライナ戦争勃発後、バイデン大統領はオンラインでのG7サミットをホストして、参加国がより頻繁に会合し、ともに議題を設定していくより多くの機会を創り出した。

とはいえ、アメリカ政治は依然として大きな問題を抱えている。世界は、米中関係のみですべてが規定されるわけではない。「グローバルサウス」の諸国とよりいっそう連携していくこともまた、より多極的な世界においては重要となるであろうし、それによってより幅広い連携が可能となる。G7以外では、地域的な安全保障課題に対応するためにも、オーストラリアや韓国といった価値を共有する諸国との戦略的な協力が必要であり、またインドのような大国との協力はこの地域におけるアメリカのリーダーシップを強化することになるだろう。
 

同盟諸国との関係改善へ向けて

同盟諸国との関係を修復して強化するためにも、同盟国の産業を懲罰することになるインフレ抑制法のようなアメリカ国内法を再考する必要がある。また、EU域内の自動車産業に差別的扱いを避けるためにも、アメリカのEV税控除法を修正することを目指すべきだ。

G7はさらに、ウクライナにおいていかなる「出口戦略」を見いだすか、共通の認識を目指すべきだ。ヨーロッパは、どのような帰結となるとも、その地域における安全保障にとってアメリカよりも自らのほうに対してより大きな影響が及ぶことを理解しなければならず、そのような想定をもとに将来の防衛政策を立案していくことが必要だ。

国際社会での信頼の低下というリスクに直面する中、アメリカは同盟国の日本の力を借りることによって、大きな利益が得られるはずだ。日本はこれまで、ルールに従う国から、ルールを形成する国へとその役割を転換させつつある。

たとえば、日本はインドやオーストラリアを包摂して「クアッド」の枠組みを形成し、さらにアメリカ不在の中でもCPTPPを実現させ、この地域での自由貿易を促進してきた。さらには7.5億ドル規模のインフラ投資と経済支援を基礎とした、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」への関与をさらに拡大することにした。

オバマ大統領がG20で重要なイシューについて、開かれた対話を行う必要を論じたことは適切なことであったが、今日では地政学的な課題に向き合ううえでG7もまた有意義なフォーラムとなっている。アメリカにとって、ロシアと中国からの挑戦に対し、適切な対応が可能であることを示すリーダーである姿を回復しなければならない。その意味でも、アメリカがG7の意義を再発見することが、重要な意味を持っているのであろう。
 

(おことわり)地経学ブリーフィングに記された内容や意見は、著者の個人的見解であり、公益財団法人国際文化会館及び地経学研究所(IOG)等、著者の所属する組織の公式見解を必ずしも示すものではないことをご留意ください。
 

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