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国際政治論壇レビュー(2021年5月)

2021年5月20日

 

国際政治論壇レビュー(20215月)

API 研究主幹・慶應義塾大学法学部教授 細谷雄一

 

【概観】

4月16日にワシントンDCで行われた日米首脳会談は、よりいっそう深刻化した米中対立と、大陸からの軍事的圧力の増す台湾の安全保障問題を背景として、画期的ないくつかの成果を含む日米首脳共同声明と、二つの別添文書に帰結した。これはまた、インド太平洋地域において日米同盟がその中核に位置することを示すものでもあった。

そのような成功には、いくつかの理由がある。まず、バイデン新政権が、それまで日本が促進してきた「自由で開かれたインド太平洋」構想への力強い支持を行ったことによって、両者が同じ目的を共有するようになったことは大きな意義がある。だがそれ以上に重要なのは、おそらく日米首脳会談での第2の別添文書、すなわち「日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ」で示されているような、日本や他の同盟諸国およびパートナー諸国との提携を通じて、アメリカの技術力、競争力を回復することが目指されていることであろう。アメリカは、米中対立における重要な領域として先端技術をめぐる競争を意識して、アメリカのこの分野の競争力回復が国内経済的にも、また国際社会における米中対立における優位性を確立するためにも、不可欠であると考えているのであろう。

このような、日米首脳会談の成功と、とりわけ台湾問題をめぐる米中対立の熾烈化は連動している。というのも、今回の日米首脳会談の共同声明で、「台湾海峡の平和と安全」という文言が含まれているからである。はたして、日本は日米同盟を強化することによって、中国との対立の側面が増していき、経済的なデカップリングも進むのであろうか。あるいは、中国との良好な経済関係を維持したまま、安全保障の領域でアメリカとの一体化を進めることは可能なのだろうか。これらの問題をめぐり、この一ヵ月の間に見られた国際論壇における主要な論考を、以下で見ていくことにしたい。

 

1.成功に終わった日米首脳会談

2021年4月16日に行われた日米首脳会談は、米中対立の構図がより明瞭になるなかで、自由民主主義諸国が結束し、インド太平洋地域の国際秩序に日米同盟を位置づけることを企図した共同声明を発表した。この日米首脳会談の成果は、日米両国にとっては同盟を強化して、台頭する中国に対する抑止力を構築しようとする上で歓迎すべきものといえるが、他方で中国からすれば日本が日中協力から離れて、台湾問題に介入しようとする好ましからざる、そして警戒すべき動きである。

菅義偉首相は昨年9月の首相就任以後、基本的に安倍政権の外交路線を踏襲することを繰り返し明言し、「自由で開かれたインド太平洋」構想を促進する政策を継続してきた。今年1月28日の日米電話首脳会談でバイデン大統領は、日米同盟強化について深く関与する姿勢を示し、日本政府の方針に同調して「自由で開かれたインド太平洋」構想への強い支持を示すことになった。それまでバイデン政権は、この構想がトランプ大統領の構想であるとみなし、この用語をあえて使わずに、「安定して繁栄したインド太平洋」というような独自のフレーズを用いていた。だが、バイデン大統領は日本政府の要望を受けて、この日本政府の重要な外交イニシアティブを支える方針へと転換した。

3月にオンラインで行われた、はじめてとなる日米豪印四ヵ国によるクアッド首脳会談(オンライン)や、東京で行われた対面での外務・防衛「2+2」の日米安全保障協議委員会を通じて、バイデン新政権はそれまで以上に日米同盟に大きな比重を置いている。そのことは、対面で最初となる首脳会談の相手を、日本の菅首相に選定したことにも示されている。仏戦略財団でアジア担当ディレクターをしているヴァレリー・ニケは、バイデン政権が日本を重視したインド太平洋政策を展開している理由として、「共通価値」を重視した外交である特徴を指摘する(1-①)。菅政権もまた、そのように日本とアメリカが「共通価値」を擁する同盟であることを宣言する重要性を認識している。そのような価値の重視、そして米中間での体制間競争を行っている現実が、インド太平洋における日本の戦略的価値を高めたのである。

この日米首脳会談は、通訳のみを挟んだ非公開のテタテ(1対1会合)を含めて、友好的な雰囲気が満ちていた。このことは、従来の安倍=トランプ時代の「トップダウン」の政策決定から、外務省や国務省が主導する外交へと転換しつつあることの証左であろう。いわば、外交のプロフェッショナルの間で事前に十分に調整を行い、周到な準備を行った首脳会談であった。それゆえ『フォーリン・ポリシー』誌副編集長のマイケル・ハーシュは、この日米首脳会談を、「失敗できない会談」と呼んだ(1-②)。

実際に、今回の菅=バイデン会談について、欧米のメディアでは好意的にそれを評価する論調が色濃かった。たとえば、ブルッキングス研究所シニア・フェローの、アメリカを代表する日本外交専門家の一人であるミレア・ソリスは、「やればできる精神(‘can-do’ spirit)」という言葉を用いて、困難な米中対立の構造の中で、日米同盟が想定されている以上に大きな役割を担うことができるという楽観的な視座を提示している(1-③)。また、ランド研究所の日米安全保障関係の専門家、ジェフリー・ホーナンも、バイデン政権の対外政策において日本が、「ナンバー・ワン」の優先準備を占めるようになったことはいわば必然であると述べ、「自由で開かれたインド太平洋」構想も、あるいはバイデン政権が強く推進する「クアッド」の協調も、安倍晋三前首相の長年の指導力の帰結であると評価する(1-④)。インド太平洋地域においていまや日本は、国際政治のダイナミズムを創りだす存在となった。さらに外交専門家でありコラムニストであるウォルター・ラッセル・ミードも、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙でのコラムで、日本外交が重要な役割を担っていることを強調している(1-⑤)。

菅義偉首相自ら、米紙の『ウォール・ストリート・ジャーナル』に寄稿した「インド太平洋での成長と安定へ向けた日本の進路」と題する原稿のなかで、現在日本はグリーン・ディールとデジタル戦略という二つの政策領域において、積極的に改革を行い、前進をしていると説明する。そして、保護主義が強まるなかで、日本こそが自由貿易を擁護する旗手として、これからも指導的な役割を担うだろうと、自らの強い意欲を語っている(1-⑥)。とはいえ、今回の日米首脳会談を実際に支配した議題は、環境問題でもデジタル政策でもなく、米中対立の中での台湾の安全をめぐる問題であった。ビル・パウウェルによる『ニューズウィーク』誌での菅義偉首相へのインタビュー記事は、そのような台湾の問題にも触れた興味深い内容となっている(1-⑦)。菅首相訪米時の独占インタビューをもとにしたこの記事では、日本を「同盟国の長(Ally-in-Chief)」と位置づけ、さらには表紙に菅義偉首相の顔を載せている。日本の首相の顔が『ニューズウィーク』誌の表紙となるのは、吉田茂首相以来ともいわれる。そのことは、アメリカの対外政策において日本の占める地位が大きくなったことの一つの帰結ともいえる。

一方で、中国の側から見れば、米中対立の構図の中で日本が一線を越えてアメリカと一体化していることを意味する。日米首脳会談の翌日、4月17日付の『環球時報』の社説では、「日米同盟はアジア太平洋の平和に危害を加える軸となった」というタイトルで、日本がアメリカに迎合してよりいっそう対中強硬路線をとるようになったことに警告を発する(1-⑧)。とりわけ台湾問題に対して、日本は自らの国益を考えてそこに関与することがないように、強い論調で警鐘を鳴らしている。依然として中国からみると、日本が中国市場へと経済的に依存しており、また軍事衝突に巻き込まれることを国民が嫌悪していることからも、日本政府が引き続き台湾問題に関与することがないことを期待しているのであろう。

日本がはたして、どのようにして、対米戦略と対中戦略を整合させるのか、これから日本外交の真価が問われる。

 

2.台湾海峡をめぐり対立を深める米中関係

現在、現在の国際社会での不安定の源泉となっているのが、台湾をめぐる米中の政策の軋轢である。はたして中国は、台湾への武力侵攻と、力による国家統一をいずれ実現するのか。あるいは、抑止力を強化することで、そのような現状変更の試みを日米同盟を通じて阻止することはできるのか。

英『エコノミスト』誌では5月1日号では、「地球上で最も危険な場所」というタイトルの社説を載せている(2-①)。すなわち台湾である。このタイトルがこの週の冊子の表紙となっており、また記事それ自体も多くの紙幅を割いてこの問題を詳述しており、台湾をめぐる緊張がいかに危険な水準に到達しているのか、そしてそれがいかに国際的に注目されているかが分かる。確かに、中国の人民解放軍が直接台湾本島へと武力侵攻する可能性は現在ではそれほど大きくはないであろう。だが、中国が台湾に対して軍事的圧力をかける頻度と烈度は着実に高まっていることが、国際的な危機感を高める背景となっている。日米首脳会談が行われた4月16日の社説で、フランスの『ルモンド』紙が社説で台湾問題をとりあげているのも、そのような認識が背後にあるのではないか(2-②)。そしてそこでは日米両国、さらにはEUが、中国を挑発することなくしかしながら毅然たる態度で中国の行動に対峙する必要があることを指摘している。フランスの新聞の社説で、これほどまで切迫感を以て台湾問題がとりあげられるということ自体、この問題がグローバルなレベルでの安全保障問題として注目されていることの証左であろう。

他方で、中国からみれば、アメリカが外部から「中国の国内問題」である台湾問題に介入して、国家分裂を背後で煽っている構図となっている。そのことは中国の反国家分裂法に正面から抵触するような、到底容認できない挑発とみられている。4月12日付の『環球時報』紙の社説では、アメリカが「サラミをスライスし続ける」ことによって、事実上、台湾の独立を背後で推進しようとしていると、アメリカ政策の台湾政策を厳しく批判する(2-③)。またそこでは、中国という国家を分裂させることに対して、必要な場合には中国は軍事力を行使せざるをえなくなる場合があると論じている。中国国内においても、台湾独立による国家分裂を阻止するためにも、台湾海峡での米中間の武力衝突が将来的に不可避であると感じさせる論調が強まっているのかもしれない。

アメリカ国内において、台湾問題をめぐりアメリカが距離をとる必要を主張し、より抑制的な政策を求めているのが、ジョージ・ワシントン大学教授の国際政治学者、チャールズ・グレイザーである(2-④)。グレイザーは防御的リアリズムの国際政治理論に基づいて、米中間の戦争を防ぐためにも、またアメリカ自らの国益のためにも、アメリカの東アジア戦略を見直して過度な台湾への関与に慎重であるべきだと主張する。台湾防衛のために無限にアメリカの関与を拡大し、そして防衛費を拡大し続けることは、アメリカの国益にはそぐわない。中国との協調的関係を維持するためにも、このような台湾関与からの後退を求める議論は従来からアメリカ国内で見られるものであり、2014年にはネオ・リアリズムの代表的な国際政治学者であるジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授が「台湾に別れを告げよ」と題する『ナショナル・インタレスト』誌に掲載した論文で主張した内容とも重なる。

米中協調を復元させるために、過度に中国を脅威として位置づけるような現在の政策を見直すことを求めるのは、クインジー研究所の中国専門家、マイケル・スウェインである。スウェインは『フォーリン・ポリシー』誌に「中国はアメリカにとっての実存的な脅威ではない」と題する論文を寄せて、アメリカが中国と共存するかたちで、より穏健なアジア政策を立案することを主張する(2-⑤)。ただし、かつてオバマ政権では幅広く見られたこのような米中協調を求める論調は、現状の中国の攻撃的な軍事行動を前提にする限り、アメリカ国内で一定以上の同意を求めるのは難しいかも知れない。しかし、そのような介入主義批判、対中強硬政策批判が、アメリカの専門家の間でも根強く存在していることは留意すべきだ。

より抑制的な論調で同様な主張を行っているのが、ジェレミー・シャピロが『フォーリン・アフェアーズ』誌に掲載した論文である(2-⑥)。すなわち、バイデン政権が「中間層のための対外政策」を推進するのであれば、現在のようにアメリカがグローバル・リーダーとしてインド太平洋に深く関与するような政策は、それとは両立不可能だとシャピロは論じる。バイデン政権は、より限定的で抑制的な対外関与を求める民主党内左派支持層の声を十分に留意せねばならない。現在のバイデン大統領や、ブリンケン国務長官、サリバン大統領補佐官らが進める、より積極的で躍動的な対外政策は、いずれは大きな壁に突きあたるであろう。

そもそも、中国が求めている世界秩序を、本当に国際社会は拒絶しているのであろうか。むしろ、世界の多数の諸国は、国家主権を重視して、国内問題への過度な干渉主義を嫌い、アメリカが覇権的な地位を有する秩序ではなくより水平的で多極的な秩序を求めているのではないか。ハーバード大学教授のスティーブン・ウォルトは、世界は必ずしも中国がアピールするルールを否定しているわけではないのではないかと、冷静に米中対立の構図を位置づけている(2-⑦)。

同様に、ジャーナリストであり、また現在はジョージタウン大学で教鞭を執るアナトール・リーヴェンは、気候変動問題を重視してそれに優先的に対応していくことがバイデン政権の政策であるべきだと論じる(2-⑧)。そうだとすれば、冷戦的な中国に対する対決路線をとるべきではない。シカゴ外交問題評議会の昨年の調査では、民主党支持層は、アメリカにとっての最大の脅威は気候変動問題だとみなしている。いずれそのような民主党支持層の圧力を受けて、バイデン政権はより不介入主義の方向へと対外政策の基軸を移していくことになるかもしれない。

ストックホルム国際平和研究所のプレスリリースによると、パンデミックに世界が苦しんだ2020年において、世界でのGDPの合計が4.4%縮小した一方で、軍事費は2.6%増大している(2-⑨)。この結果として、世界でのGDPの合計に占める軍事費の比率が、平均で2.4%となり、これは前年よりも大きく拡大したことを意味する。コロナ禍による経済的な困難にも拘わらず、米中対立に象徴されるように国際的な緊張は高まっており、それを受けて主要国は軍事費を増大させているのだ。このことは、日本の防衛政策にも示唆的である。

はたしてこのまま米中対立は深刻化して、最終的にはこの二つの大国の間で軍事衝突に帰結するのであろうか。それを考慮する上で、興味深い一つの文章が4月15日付のマカオの新聞に静かに掲載された。温家宝前首相による、亡き母親への手紙である(2-⑩)。これが現在の習近平体制に対する批判ではないかと噂され、急速に拡散していったこの温家宝前首相の新聞への寄稿は、間もなくして中国国内では閲覧不可能となった。4回連載で書かれたこの前首相の手紙は、最初の3回分は比較的落ち着いた論調で、母親への愛情を語り、そして母親が自らに語った言葉を紹介する。ところが4回目になると、突然現体制への批判であるかのように、中国で誠実さ、質素さ、善良な心が偽造されて、失われていることを憂う言葉を並べる。そして母親の愛情や恩情を回顧して、貧しい人に同情し、いじめと圧迫には反対することが必要なことだと語った母の言葉を引用している。自らの心、目の中の中国は、公平であり、正義に満ちあふれた国家であるべきだと述べて、自らの思いを吐露している。はたしてどのような意図で温家宝前首相がこの文章を書いたのかは、推測するほかないが、それでも中国国内からこのような声が聞こえてくるのは注目に値する。

 

3.地政学的課題としての気候変動問題

台湾をめぐる米中関係が軍事的緊張を高める結果となっている一方で、気候変動問題をめぐる主要国の協力が必要であるという認識もまた、一定程度広がっている。バイデン政権は気候変動問題も重視して、自らのイニシアティブで4月22日にはオンライでの気候変動サミットを開催した。この問題にどのように対応するかということが、気候変動問題という政策領域を越えた、重要な地政学的な動向とも連動している。

EUのジョセップ・ボレル外務安全保障政策上級代表は、欧州グリーン・ディール担当のフランス・ティメルマンス欧州委員会副委員長との共著の論文で、2050年までにカーボン・ニュートラルを達成する強い意志を示している(3-①)。またそのことが、欧州の経済成長にも貢献することを指摘する。バイデン政権が成立する以前からEUはグリーン・ディールにおいて強力なイニシアティブを示し、国際社会でその動きを牽引してきた。日本や中国も、そのようなEUやアメリカの動きに同調し、国際社会での大きな潮流となった帰結がこの気候変動サミットでもある。いわば、気候変動問題が、国際的な連携を促す地政学的なダイナミズムを生み出している。

イェンス・ストルテンベルグNATO事務局長もまた、気候変動問題を地政学的な観点から捉える論考を寄せている(3-②)。従来であれば、NATOの事務総長が気候変動問題の重要性を指摘する論文を書くことは、考えにくいことであった。だが、たとえば気候変動に伴う海面の水位上昇が、NATOの軍事施設にも必然的に影響を及ぼすようになるだろう。また、北極海が重要なシーレーンとなることからも、気候変動問題は安全保障問題と連動している。それゆえ、「NATO2020」の報告書でも触れられているように、気候変動に左右されないような持続可能な戦略をNATOが考案することが求められている。

EUは4月19日に、独自のインド太平洋戦略の策定に着手すると発表した。すでに、フランス、ドイツ、オランダなどの諸国が、国別でのインド太平洋戦略を発表しているが、27ヵ国が加盟するEUとして、日本との緊密な連絡のもとで、よりいっそう深くインド太平洋に関与する意義は大きい。仏戦略研究財団のエヴァ・ペショーヴァは、現在EUの閣僚理事会が「インド太平洋における協力のための戦略」を策定する上での「10のポイント」を簡潔に解説している(3-③)。EUは、中国との緊密な経済的な関係を維持しながらも、従来よりも踏み込んで少数民族ウイグル族の人権問題や、南シナ海における法の支配に関して中国に厳しい態度を示している。

他方でスペイン元外相のアナ・パラシオは、EUのインド太平洋戦略が依然としてソフトパワーを重視した限定的な影響力を行使する範囲に限られており、地政学的な視点を欠いていることを批判的に指摘する(3-④)。2020年における世界全体での軍事費支出が拡大し、軍事的緊張が高まる中で、EUの非軍事的な手段を中核としたアプローチでは、大きな役割を果たすことはできないであろう。気候変動やジェンダー問題、人権問題を中心にして、インド太平洋での関与を拡大しようとするEUは、米中対立が深刻化するインド太平洋地域では限定的な影響力しか行使できないという批判が、EUの内側からも表出している。

気候変動問題について、中国政府はそれ自体に対処する重要性を認識しながらも、むしろそれを政治的な道具として対米関係を安定化させるために利用したいという意向が透けてみる。たとえば、ジョン・ケリー気候変動担当大統領特使が訪中した直後の4月21日付の『環境時報』の社説では、中国のような途上国とは異なり先諸進国がよりいっそう大きな責任を負って気候変動問題対処する必要があると論じる(3-⑤)。この問題に対処するためには、米中両国が一定程度歩み寄り、協力する必要性がある。またケリー訪中前の4月14日の同紙の社説では、米中関係を改善させるための政策領域として気候変動問題をより積極的に位置づけようとする論調が見られた(3-⑥)。だが、実際の米中会談での対話の閉塞状況を見た後には、その論調が多少トーンダウンしている。というのも、気候変動問題をめぐる米中両国間の対話が、必ずしも台湾問題をめぐる緊張の緩和、さらにはアメリカ国内での中国に対する信頼回復には結びついていないからだ。他方で、中国人民対外友好協会会長で、中米人民友好協会副会長も務める李小林は、『環球時報』のコラムで、一部の誤った中国に関する過度に批判的な認識を乗り越えて、米中両国が協力関係を回復する意義を説いている。李小林は、元国家副主席の李千念の娘であり、対米協調を求める声が依然として中国のメディアで残存している様子が分かる。

気候変動対策、そしてカーボン・ニュートラルの実現へ向けた政策は、いまや国内政治と国際政治が複雑に連動する重要な政策領域となっている。EU、アメリカ、中国がそれぞれ、この問題を外交問題と結びつけて積極的に対外行動を展開する中で、日本もまたこの問題を多面的かつ総合的に捉えて、賢明な戦略を示すことが必要となるであろう。

 

 

【主な論文・記事】
1.成功に終わった日米首脳会談

Valérie Niquet, “Washington attend davantage de Tokyo que des déclarations de principe sur les “valeurs communes” (ワシントンは、東京が「共通の価値」の理念を宣言することを今まで以上に待っている)”, Le Monde, April 16, 2021, https://www.lemonde.fr/idees/article/2021/04/16/washington-attend-davantage-de-tokyo-que-des-declarations-de-principe-sur-les-valeurs-communes_6076974_3232.html
Michael Hirsh, “The Summit That Can’t Fail(失敗できない会談)”, Foreign Policy, April 14, 2021, https://foreignpolicy.com/2021/04/14/japan-us-summit-biden-suga-china/
Mireya Solís, “Suga-Biden summit to rekindle ‘can-do’ spirit of the US-Japan alli-ance(菅-バイデン首脳会談は日米同盟の「やればできる」スピリッツを再び燃え上がらせる)”, The Brookings Institution, April 13, 2021, https://www.brookings.edu/blog/order-from-chaos/2021/04/13/suga-biden-summit-to-rekindle-can-do-spirit-of-the-us-japan-alliance/
Jeffrey W. Hornung, “Biden puts Japan at the center of US policy in Asia”(バイデン大統領は日本をアジア政策の中心に据えた), NIKKEI Asia, April 11, 2021, https://asia.nikkei.com/Opinion/Biden-puts-Japan-at-the-center-of-US-policy-in-Asia
Walter Russell Mead, “Tokyo Flexes Its Talons(日本はまだ爪を立てている)”, The Wall Street Journal, April 19, 2021, https://www.wsj.com/articles/tokyo-flexes-its-talons-11618871351
Yoshihide Suga, “Japan’s Path to Growth and Stability in the Pacific(インド太平洋での成長と安定へ向けた日本の進路)”, The Wall Street Journal, April 14, 2021, https://www.wsj.com/articles/japans-path-to-growth-and-stability-in-the-pacific-11618437391
Bill Powell, “Japanese Prime Minister Yoshihide Suga, Biden’s First Foreign Visitor, on the Challenge of China(バイデン大統領にとって最初の外国からの訪問者である日本の首相菅義偉氏、中国の挑戦について語る)”, Newsweek, April 18, 2021, https://www.newsweek.com/2021/05/07/exclusive-japanese-prime-minister-yoshihide-suga-bidens-first-foreign-visitor-containing-china-1584538.html
「美日同盟正成为危害亚太和平的轴心(日米同盟はアジア太平洋の平和に危害を加える軸となった)」『环球网』、2021年4月17日、https://opinion.huanqiu.com/article/42kyvP41B0A

 

2.台湾海峡をめぐる米中関係

Leaders, “The most dangerous place on Earth (地球上で最も危険な場所) ”, The Economist, May 1st, 2021, https://www.economist.com/leaders/2021/05/01/the-most-dangerous-place-on-earth
Editorial, “Taïwan : rester ferme avec la Chine sans la provoquer (台湾:中国を挑発せず、それでもなお毅然と立ち向かう)”, Le Monde, April 16, 2021, https://www.lemonde.fr/idees/article/2021/04/16/taiwan-rester-ferme-avec-la-chine-sans-la-provoquer_6077007_3232.html
「美台情报战舆论战对大陆都不管用(米台の情報戦、世論戦は大陸に対しては役に立たない。)」『环球网』、2021年4月12日、https://opinion.huanqiu.com/article/42gxSQcoP5p
Charles Glaser, “Washington Is Avoiding the Tough Questions on Taiwan and China: The Case for Reconsidering U.S. Commitments in East Asia(ワシントンは中台関係の難しい問題に答えようとしていない:東アジアでのコミットメントの見直すべき理由)” , Foreign Affairs, April 28, 2021, https://www.foreignaffairs.com/articles/asia/2021-04-28/washington-avoiding-tough-questions-taiwan-and-china
Michael D. Swaine, “China Doesn’t Pose an Existential Threat for America(中国はアメリカにとっての実存的な脅威ではない)”, Foreign Policy, April 21, 2021, https://foreignpolicy.com/2021/04/21/china-existential-threat-america/
Jeremy Shapiro, “Biden’s Everything Doctrine The Mantle of Global Leadership Doesn’t Fit a Foreign Policy for the Middle Class(バイデンの贅沢なドクトリン:グローバル・リーダーであり続けることと中間層のための外交は両立できない)”, Foreign Affairs, April 22, 2021, https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2021-04-22/bidens-everything-doctrine
Stephen M. Walt, ” The World Might Want China’s Rules (世界は中国のルールを望んでいるのかもしれない)”, Foreign Policy, May 4, 2021, https://foreignpolicy.com/2021/05/04/the-world-might-want-chinas-rules/
Anatol Lieven, “If climate change is a ‘priority,’ Biden must shed the cold war approach to China(気候変動が「プライオリティ」なのだとしたら、バイデン政権は中国に対する冷戦的なアプローチを止めなければならない)”, Quincy Institute for Responsible Statecraft, April 21, 2021, https://responsiblestatecraft.org/2021/04/21/to-make-climate-change-a-priority-biden-should-ditch-the-cold-war-approach-to-china/
Stockholm International Peace Research Institute, “World military spending rises to almost $2 trillion in 2020(2020年の世界の軍事支出は2兆ドルに迫っている)”, Stockholm International Peace Research Institute, April 26, 2021, https://sipri.org/media/press-release/2021/world-military-spending-rises-almost-2-trillion-2020
温家宝(Wen Jiabao)「【清明追憶】我的母親(四)(清明節の追憶:私の母親)」『澳門導報』、2021年4月15日、http://www.am-zm.com/news2/2277.html

 

3.地政学的課題としての気候変動問題

Josep Borrell/Frans Timmermans, “The Geopolitics of Climate Change(気候変動の地政学)”, Project Syndicate, April 26, 2021, https://www.project-syndicate.org/commentary/eu-geopolitics-of-climate-change-by-frans-timmermans-1-and-josep-borrell-2021-04
Jens Stoltenberg, “Jens Stoltenberg: NATO’s climate challenge(イェンス・ストルテンベルグ:NATOにとっての気候変動の挑戦)”, Politico, April 22, 2021, https://www.politico.eu/article/jens-stoltenberg-nato-climate-change-challenge/
Eva Pejsova, “The EU’s Indo-Pacific Strategy in 10 Points(EUのインド太平洋戦略で注目すべき10のポイント)”, The Diplomat, April 20, 2021, https://thediplomat.com/2021/04/the-eus-indo-pacific-strategy-in-10-points/?fbclid=IwAR2hjm1HxwFPHAoeNn59hIgZUPZNKfh9RhNub6nAnd2O05n9XcVyCZKiVA4
Ana Palacio, “Europe’s Latest Strategic Letdown(欧州の最新の戦略的失敗) ”, Project Syndicate, April 29, 2021, https://www.project-syndicate.org/commentary/eu-strategy-for-indo-pacific-cooperation-lacks-substance-by-ana-palacio-2021-04
「气候峰会要成功,华盛顿须有真正担当(気候変動サミットを成功させるならば、ワシントンは真に責任を負わなければならない)」『环球网』、2021年4月21日、https://opinion.huanqiu.com/article/42oPV7vno0t
「克里访华,中美气候合作的环境太恶劣(ケリーが訪中した。米中の気候領域での協力の環境は悪すぎる)」『环球网』、2021年4月14日、https://opinion.huanqiu.com/article/42iaVe7jAJJ
李小林(Li Xiaolin)「中美关系剪不断,理还乱,终向前(米中関係は切っても切れず、整えては乱れるが、最後には前を向く)」『环球网』、2021年4月21日、https://opinion.huanqiu.com/article/42o2N7qfGYA

 

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