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国際政治論壇レビュー(2020年9月)

2020年9月2日

 

国際政治論壇レビュー(20209月)

API 研究主幹・慶應義塾大学法学部教授 細谷雄一

 

【概観】

2020年8月の国際論壇では、アメリカ大統領選挙に関連した論文や記事であふれていた。8月には、民主党と共和党の二大政党のいずれにおいても、大統領候補および副大統領候補が正式に指名される。共和党は、現職のドナルド・トランプ大統領とマイク・ペンス副大統領のコンビが継続してそのまま指名された。他方で、民主党の側は予備選挙で多数の候補が乱立しながら、最終的にオバマ政権の副大統領であったジョー・バイデンが大統領候補として指名された。

今回の国際論壇レビューでは、アメリカ大統領選挙をめぐり論壇でどのような議論が展開されているかを、概観していきたい。

 

1.アメリカ大統領選挙の動向 ―民主党陣営

英語メディアを中心とする国際論壇では全体的に、バイデン民主党候補を支持する論調が強く、他方で現職のトランプ大統領を支持する論考は少ない。このことは、4年前にトランプ候補が大統領選挙に勝利をしたときよりも、よりいっそう顕著となっているのではないだろうか。

民主党の大統領候補である自らが選挙で勝利するためにも、バイデンは自らの弱さを補ってより多くの票を獲得できるような副大統領候補を選定することが不可欠であった。それだけではない。大統領就任時に78歳となるバイデン候補は、勝利を収めた場合に、アメリカの歴史上最も高齢で大統領に就任する人物となる。それゆえ不測の事態が起こったときに、大統領職を継いでそのまま円滑な政権運営を行えるような副大統領が必要であろう。それゆえ、はたして誰が副大統領候補となるのか、通例以上に民主党党大会でのその指名が注目された。結果としてバイデンがパートナーに選んだのが、カリフォルニア州選出のカマラ・ハリス上院議員であった。

8月17日から中西部ウィスコンシン州のミルウォーキーではじまった民主党の党大会は、多くの党員を集めた集会を行うことはせずに、20日までオンラインで行われた。そこで発表された民主党綱領では、同盟国との「関係を強化する」方針を明らかにして、トランプ政権との違いを強調しようとしている(1-①)。また、バイデン候補自らの外交方針については、『フォーリン・アフェアーズ』誌の3月・4月号に掲載されている。

この民主党党大会で最初にスピーチを行ったのが、民主党の予備選挙でバイデン候補と戦った、党内左派のバーニー・サンダーズであった。4年前の前回の大統領選挙の際には、最後までヒラリー・クリントン候補と指名を争っていた。結局、2016年11月の投票日に、サンダーズ支持層の党内左派の有権者たちの多くがクリントン候補に投票しなかったことが、民主党が勝利できなかった敗因とも言われている。それゆえ、今回の大統領選では、トランプ再選を阻止するという共通の目標のもとに幅広く結集して、幅広い票を獲得することが必要であった。

他方で、バイデン民主党候補への支持は、民主党内からのみにとどまるものではない。ジョージ・W・ブッシュ政権で、国家安全保障会議(NSC)においてアジア担当上級部長を務めたマイク・グリーン戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長をはじめ、共和党から数多くの安全保障専門家がバイデン民主党候補支持をすでに明言した。それが記されているのが、①-④の共同書簡であり、その意図として1-③でグリーンとジョージタウン大学における彼の同僚のヴィクター・チャの二人で、バイデン候補を支持する理由を書いている。換言すれば、バイデン候補は大統領選挙に勝利した際に、左のサンダーズから右のグリーン教授まで、幅広い支持層の期待に応えねばならず、均衡のとれた政権運営をする必要が生じる。

副大統領候補に指名されたカマラ・ハリスは、ジャマイカ移民であるアフリカ系アメリカ人の父親と、インド移民である南アジア系アメリカ人の母親との間に生まれた。選挙に勝利すれば、はじめての女性副大統領というだけではなく、アフリカ系およびアジア系の血を引くはじめての副大統領ともなる。おそらくは幅広い有権者へのアピールが期待されているのだろうが、同時に左派から右派まで幅広い支持層の期待に応えられる中道的な政治姿勢を示してきたことも重要であろう。そのようなこともあり、ハリス副大統領候補について論じた記事も数多く見られるようになった(1-⑤、⑥、⑦)。概して、ハリス上院議員を選出したことについては、比較的好意的な評価が多く見られた。

 

2. アメリカ大統領選挙の動向 ―共和党陣営

民主党党大会やその政策綱領については好意的な報道が多く見られたが、他方でトランプ陣営の共和党については批判的な論調の記事が多く見られた(2-②、③、④、⑤)。そのなかには、かつてのブッシュ大統領のスピーチライターであったデイヴィッド・フラムも含まれている(2-①)。ワシントンポスト紙が現在では、もっとも厳しくトランプ大統領を批判するアメリカ主要紙となっている。

今年の共和党全国大会は8月24日から27日までのスケジュールで、米南部のノースカロライナ州シャーロットで開催された。8月24日の初日に正式に共和党大統領候補に指名されたトランプ大統領は、最終日の27日にホワイトハウスで指名受諾演説を行った。共和党も、民主党と同様にオンラインをベースとした党大会しながらも、300名程度の代議員が集まった。なお、今回の共和党全国大会では、共和党は新たな政策綱領を発表しておらず、2016年のそれを引き続き使用することとなった。これについても、上述のフラムや、アニー・ローリーなどがその論考のなかで厳しく批判している(2―①、②、③)。

 

3. 混沌とするアメリカ政治

コロナ禍の感染拡大が高いレベルで続いているアメリカで、このような大統領選挙がこれから本格化することへの懸念も見られている。

たとえば、ドイツのメルケル内閣で外務大臣や経済エネルギー担当大臣を歴任したジグマール・ガブリエルは、今回の大統領選挙は単にアメリカ国内だけではなく、世界全体にかつてないほど巨大な影響を及ぼすであろうと予期している(3-②)。というのも、接戦となった場合に双方が敗北を認めずに、治安部隊が出動する可能性も懸念され、さらには感染拡大を理由に投票日や開票作業の延期を求める可能性もあるからだ。さらには、ワシントンポスト紙では、デイヴィッド・ナカムラ記者らが、選挙戦で劣勢になったトランプ陣営が、よりいっそう中国への攻撃的な姿勢を示す可能性があると論ずる。そのようなポピュリズムとナショナリズムを結合させたトランプ大統領の言動が、米中対立、さらには世界秩序全体をさらに不安定化させるであろう(3-③)。

他方で、イギリスのフィナンシャルタイムズ紙のコラムニストであるギデオン・ラクマンは、依然としてトランプが勝利する可能性が十分にあり、民主党が楽観視できない理由をいくつか挙げている(1-⑭)。いずれにせよ、今回のアメリカ大統領選挙は、単にその行方が見通しにくいというだけではなくて、コロナ禍によるパンデミックの危機の中で実施される故に、その手続きや開票後の集計作業、さらにはそれを受けた勝者の確定という段階まで、数多くの不確定要因があることが指摘されている。さまざまな理由から、2020年のアメリカ大統領選挙は、歴史を画する機会となるかもしれない。

 

【主な論文・記事】

1.アメリカ大統領選挙の動向 ―民主党陣営

Democratic Party, 2020 Democratic Party Platform, July 31, 2020.
https://www.demconvention.com/wp-content/uploads/2020/08/2020-07-31-Democratic-Party-Platform-For-Distribution.pdf
Joseph R. Biden, Jr., “Why America Must Lead Again”, Foreign Affairs, March/April 2020.
https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2020-01-23/why-america-must-lead-again
Michael J. Green & Victor Cha, “Why We Joined Over 70 Former Republican National Security Officials to Support Biden”, Foreign Policy, August 20, 2020.
https://foreignpolicy.com/2020/08/20/republicans-for-biden/
Statement by former Republican National Security Officials, “Defending Democracy Together”,
https://www.defendingdemocracytogether.org/national-security/.
Jason L.Riley, “Will the Real Kamala Harris Please Stand Up?“, The Wall Street Journal, 2020/08/18,
https://www.wsj.com/articles/will-the-real-kamala-harris-please-stand-up-11597792447?mod=opinion_featst_pos2.
Marc A. Thiessen, “Kamala Harris a moderate? Not even close. Welcome to the leftist Trojan horse operation”, Washington Post, August 15, 2020.
https://www.washingtonpost.com/opinions/2020/08/14/kamala-harris-moderate-not-even-close-welcome-leftist-trojan-horse-operation/
James Traub, “Biden Picks Harris for Veep—and Bush Sr. for Himself”, Foreign Policy, August 12, 2020.
https://foreignpolicy.com/2020/08/12/biden-picks-harris-for-veep-and-bush-sr-for-himself/
Ronald Brownstein, “The Democratic Convention Is a Reality Check for Trump”, The Atlantic, August 19, 2020.
https://www.theatlantic.com/politics/archive/2020/08/trump-biden-and-battle-between-red-and-blue-america/615403/
Julio Ricardo Varela, “What Biden Can Learn from Sanders About the Young Latino Vote”, The Atlantic. August 18, 2020.
https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2020/08/what-biden-can-learn-sanders-about-young-latino-vote/615343/
Aaron Blake, “4 takeaways from the third night of the Democratic National Convention”, Washington Post, August 20, 2020.
https://www.washingtonpost.com/politics/2020/08/19/takeaways-democratic-convention-night-2/
Chuck Rocha, “Joe Biden’s Secret Untapped Weapon”, New York Times, 2020/08/18.
https://www.nytimes.com/2020/08/18/opinion/joe-biden-kamala-harris-latino-vote.html
William A. Galston, “Democrats Move Left, but the Center Holds,” Wall Street Journal, August 14, 2020.
https://www.wsj.com/articles/democrats-move-left-but-the-center-holds-11597429469?mod=searchresults&page=1&pos=1
Emma Ashford, “Biden Wants to Return to a ‘Normal’ Foreign Policy. That’s the Problem”, New York Times, August 25, 2020.
https://www.nytimes.com/2020/08/25/opinion/biden-foreign-policy.html
Gideon Rachman, “Democrats cannot rule out Trump victory,” Financial Times, August 24, 2020.
https://www.ft.com/content/78e01581-65e4-4229-ab65-30958a091a94.

 

2.アメリカ大統領選挙の動向 ―共和党陣営

David Frum, “The Platform the GOP Is Too Scared to Publish”, The Atlantic, August 25, 2020.
https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2020/08/new-gop-platform-authoritarianism/615640/
Annie Lowrey, “The Party of No Content”, The Atlantic, August 24, 2020.
https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2020/08/party-no-content/615607/
Michael Hirsh, “The Republican National Convention Is Already Over”, Foreign Policy, August 24, 2020.
https://foreignpolicy.com/2020/08/24/the-republican-national-convention-is-already-over/
Jennifer Rubin, “The Republican Party has become a smash-and-grab operation”, Washington Post, 2020/08/21.
https://www.washingtonpost.com/opinions/2020/08/20/republican-party-has-become-smash-and-grab-operation/
Edward Luce, “Donald Trump’s Orwellian Jamboree”, Financial Times, August 27, 2020.
https://www.ft.com/content/593edb26-f117-4fab-942e-c2e704567582
David Byler, “The flaw in Trump’s suburban strategy”, Washington Post, 2020/08/21.
https://www.washingtonpost.com/opinions/2020/08/20/flaw-trumps-suburban-strategy/
Mathieu Bock-Côté, “Pourquoi Trump peut gagner”(なぜトランプは勝てる可能性があるのか),  Le Figaro, August 14, 2020.
https://www.lefigaro.fr/vox/monde/mathieu-bock-cote-pourquoi-trump-peut-gagner-20200813

 

3.混沌とするアメリカ政治

Daniel W. Drezner, “The numbing necrosis of Mike Pompeo’s leadership”, Washington Post, August 24, 2020.
https://www.washingtonpost.com/outlook/2020/08/24/numbing-necrosis-mike-pompeos-leadership/
Sigmar Gabriel, “The Global Risk of the US Election”, Project Syndicate, August 26, 2020.
https://www.project-syndicate.org/commentary/us-election-risk-to-the-world-by-sigmar-gabriel-2020-08
David Nakamura and Carol Morello, “Amid blame game on coronavirus, Trump White House pursues broader campaign to punish China on other issues”, Washington Post, July 24, 2020.
https://www.washingtonpost.com/politics/amid-blame-game-on-coronavirus-trump-white-house-pursues-broader-campaign-to-punish-china-on-other-issues/2020/07/23/ec1585a4-cd01-11ea-bc6a-6841b28d9093_story.html

 

4.その他の重要な論考

Michael R. Pompeo, “Announcing the Expansion of the Clean Network to Safeguard America’s Assets”, U.S. Department of States, August 5, 2020.
https://www.state.gov/announcing-the-expansion-of-the-clean-network-to-safeguard-americas-assets/
Kevin Rudd, “Beware the Guns of August—in Asia” Foreign Affairs, August 3, 2020.
https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2020-08-03/beware-guns-august-asia
Michael Hirsh, “The Republican National Convention Is Already Over”, Foreign Policy, August 24, 2020.
https://www.washingtonpost.com/opinions/when-it-comes-to-the-internet-trump-prefers-the-chinese-model/2020/08/06/a9298236-d823-11ea-9c3b-dfc394c03988_story.html?hpid=hp_save-opinions-float-right-4-0_opinion-card-e-right%3Ahomepage%2Fstory-ans
Walter Russel Mead, “The Mideast Pudding Loses Its Theme”, Wall Street Journal, July 29th, 2020.
https://www.wsj.com/articles/the-mideast-pudding-loses-its-theme-11596061729?mod=opinion_featst_pos1
Anja Manuel and Kathleen Hicks, “Can China’s Military Win the Tech War?”, Foreign Affairs, 2020, July29th.
https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2020-07-29/can-chinas-military-win-tech-war
Jan-Werner Muller, “The pandemic will strengthen smart populists,” Financial Times, July 19, 2020.
https://www.ft.com/content/b9aca858-c17b-4c5f-8ce2-36b982489d95.

 


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