福島原発事故10周年の検証(第二民間事故調)

プロジェクト概要

2021年3月、我が国は福島第一原発事故発災後10年の節目を迎えました。この10年間で、戦後日本史上空前の危機から私たちは何を教訓として学び、「国のかたち」はいかに変わったでしょうか。2011年の民間事故調の理念を継承し、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)は、2019年6月に「福島原発事故後10年の検証(第二民間事故調)」プロジェクトを立ち上げ、2021年2月に報告書を出版しました。

本プロジェクトの目的は、原子力安全規制から復興政策に至るまで、各分野への実務家・有識者へのヒアリング調査等を通じ、事故・震災後10年間の「学び」を検証することです。政府の原子力安全規制、東京電力を始めとした電力事業者のガバナンス、官邸の危機管理、自衛隊・警察・消防等の実働部隊の連携や、デマ・風評被害に向き合うリスク・コミュニケーション等、事故後の民間、国会、政府等の様々な事故調査委員会で指摘された課題や、廃炉・復興など事故後時間が経るにつれて明らかになった課題から、この10年間、日本政府・社会は何を学ぶことができたか―あるいは、何を学べなかったか―を検証しました。

2020年以降、新型コロナウイルスという新たなリスクをめぐる政府・自治体の危機管理が再び焦眉の急となっており、国家的危機を巡るガバナンス、公共政策の在り方を再考することは、日本のみならず世界的にもますます重要性を増しています。こうした情勢において、過去の重大事故から得られた教訓を真摯に検証し、その成果を日本と世界に発信していくことは、我々APIの社会的使命であると考えています。

プロジェクトのアプローチ

プロジェクトでは福島原発事故後10年の課題と学びを、大きく7つの視角で整理し、各分野の第一人者である研究者・実務家を委員による共同執筆形式の報告書を刊行しました。座長は、鈴木一人 東京大学公共政策大学院教授、編集は船橋洋一が務めました。

  • 原子力安全規制 担当:久郷明秀
  • 東京電力の政治学 担当:奥山俊宏
  • 官邸危機管理 担当:千々和泰明
  • リスク・コミュニケーション 担当:関谷直也
  • 原子力災害対応のロジスティクス 担当:小林祐喜
  • ファーストリスポンダー 担当:磯部晃一
  • 復興 担当:開沼博

(※ 各委員のプロフィールは、本ページ末尾をご覧ください。)

報告書

 2021年2月19日に『福島原発事故10年検証委員会 民間事故調最終報告書』を株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンから刊行しました。英訳版はこちらからPDF形式でダウンロードすることができます

序章 第二次民間事故調の課題:「いつものパターン」は許さない

第1章 安全規制─不確かさへのアプローチ─

コラム1 消防車による原子炉注水

第2章 東京電力の政治学

コラム2 なぜ、米政府は4号機燃料プールに水はないと誤認したのか

第3章 放射線災害のリスク・コミュニケーション

コラム3 “過剰避難”は過剰だったのか

第4章 官邸の危機管理

コラム4 福島第二・女川・東海第二原発

コラム5 原子力安全・保安院とは何だったのか

第5章 原子力緊急事態に対応するロジスティクス体制

コラム6 日本版「FEMA」の是非

コラム7 求められるエネルギー政策の国民的議論

第6章 ファーストリスポンダーと米軍の支援リスポンダー

コラム8 2つの「最悪のシナリオ」

コラム9 「Fukushima50」─逆輸入された英雄たち

第7章 原災復興フロンティア

コラム10 行き場のない“汚染水”

コラム11 免震重要棟

終章 「この国の形」をつくる

発売日:2021年2月19日
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN:978-4-7993-2719-7

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ディスカヴァー・トゥエンティワン

日本原子力学会・社会環境部会 優秀発表賞受賞

APIは2022年3月18日、日本原子力学会・社会環境部会より、第18回社会・環境部会賞優秀発表賞を受賞しました。

受賞理由は、APIが2021年2月に刊行した『福島原発事故10年検証委員会 民間事故調最終報告書』の発刊を通じて、原子力の社会的側面の分野において重要なる貢献をしたとのことです。

鈴木一人座長(API上席研究員・東京大学公共政策大学院教授)
「日本では政策や事業を始めるまでは厳しい審査がありますが、検証作業が行われることは稀です。福島原発事故では民間事故調も含め複数の検証がなされましたが、その『検証の検証』をすることの大切さを御評価いただいたことを大変うれしく思います。」

ニュースリリース

ヒアリングの模様

田中俊一
初代原子力規制委員長へのヒアリング

ジョージ・アポストラキス
元米国原子力規制委員会委員へのヒアリング

細野豪志
元環境大臣へのヒアリング

美浜原子力緊急事態支援センターへの視察

プロジェクト委員・事務局スタッフ一覧(肩書は当時)

鈴木 一人 (すずき かずと)

東京大学 公共政策大学院 教授

専門は国際政治経済学、EU 研究など。2012 年、『宇宙開発と国際政治』で第34 回サントリー学芸賞受賞。国連安保理イラン制裁委員会決議専門家パネルメンバー。民間事故調では第3 部のワーキンググループ・リーダー。


久郷 明秀(くごう あきひで)

株式会社三菱総合研究所 主席専門研究員

専門は原子力安全工学、リスク・コミュニケーションなど。東京大学工学部機械工学科卒。英国リーズ大学大学院国際研究科修士課程修了。京都大学博士(エネルギー科学)。1978年関西電力(株)入社。2012年原子力安全推進協会理事に就任、2016年から20年まで同協会執行役員を務めた。主著に『環境社会学の視点と論点』(山海堂)。原子力安全推進協会 執行役員 国際連携室長を経て現職。


奥山 俊宏(おくやま としひろ)

朝日新聞 編集委員

東京大学工学部原子力工学科卒。1989 年、朝日新聞社入社。水戸支局、福島支局、社会部、特別報道部などで記者。著書『秘密解除 ロッキード事件―田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店)で第21回司馬遼太郎賞を受賞。福島第一原発事故やパナマ文書の報道により、2018年度日本記者クラブ賞を受賞。


関谷 直也(せきや なおや)

東京大学大学院情報学環 総合防災情報研究センター 准教授

専門は災害社会学、災害情報論、社会心理学。東京大学大学院人文社会系研究科社会情報学専門分野博士課程単位取得退学。自然災害、原子力災害などにおける災害時の心理、避難、災害時の情報伝達などを社会心理学の視点から研究。政府事故調政策・技術調査参事、内閣官房 東京電力福島第一原子力発電所事故における避難実態調査委員会委員などを歴任。


開沼 博(かいぬま ひろし)

立命館大学衣笠総合研究機構 准教授

専門は社会学。福島県いわき市出身、東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府博士課程単位取得満期退学。著書『「フクシマ」論―原子力ムラはなぜ生まれたのか』で第65回毎日出版文化賞(人文・社会部門)、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞受賞。民間事故調WGメンバー、復興庁東日本大震災生活復興プロジェクト委員などを歴任。


小林 祐喜(こばやし ゆうき)

公益財団法人 笹川平和財団 安全保障研究グループ 研究員

専門はエネルギー安全保障。1997年、河北新報社入社。2019年、パリ国立高等鉱業学校において博士号取得。研究業績に“Étude de la relation entre les leaders politiques et techniques dans la gestion de l’accident de Fukushima Dai Ichi entre le 11 et 15 mars 2011”(“Study of the relationship between political and technical leaders in the management of the Fukushima Daiichi accident between march 11th and 15th 2011”)などがある。


磯部 晃一(いそべ こういち)

一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ シニアフェロー

2015年8月、陸上自衛隊東部方面総監(陸将)を最後に退官。現在、川崎重工業(株)ストラテジック・アドバイザー。1980年3月、防衛大学校(国際関係論専攻)卒業。ヘリ・パイロット。1989年8月、外務省北米局安全保障課出向、湾岸危機時に対米支援に従事。中央即応集団副司令官等を経て、東日本大震災時には統幕防衛計画部長としてトモダチ作戦日米調整に従事。その後、第7師団長、統合幕僚副長を歴任。1996年米海兵隊大学で軍事学修士を、2003年米国防大学で国家資源戦略修士を取得。2017年7月から2019年6月までハーバード大学アジアセンター上席研究員。


千々和 泰明(ちぢわ やすあき)

防衛省防衛研究所 戦史研究センター安全保障政策史研究室 主任研究官 博士 (国際公共政策)

広島大学法学部卒業。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士前期課程修了。同博士後期課程修了。博士(国際公共政策)。ジョージ・ワシントン大学国際関係大学院アジア研究センター留学、京都大学大学院法学研究科COE研究員、同公共政策大学院日本学術振興会特別研究員(PD)、防衛省防衛研究所戦史部教官、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)付主査などを経て、2013年より現職。


船橋 洋一 (ふなばし よういち)

一般財団法人 アジア・パシフィック・イニシアティブ 理事長

東京大学教養学部卒。1968 年、朝日新聞社入社。米ハーバード大学ニーメンフェロー、朝日新聞社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長を経て2007 年から10 年12 月まで朝日新聞社主筆。2011年9月に日本再建イニシアティブ(現アジア・パシフィック・イニシアティブ)を設立。2016年ショレンスタイン・ジャーナリズム賞受賞。


柴田なるみ

柴田なるみ(しばた なるみ)
一般財団法人 アジア・パシフィック・イニシアティブ 研究員

青山学院大学国際政治経済学部国際政治学科卒業、スウェーデン王国・ストックホルム大学政治学部修士課程。専門は、紛争解決理論、中東政治など。紛争下の民衆のナラティブを研究。民間企業、非営利団体で勤務後、在イスラエル日本大使館政務班でのインターンを経て、APIに参画。


ヒアリングにご協力いただいた実務家・有識者の御所属機関(元職・現職含む)

米国原子力規制委員会

東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府事故調)

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)

原子力規制委員会・規制庁

東京電力ホールディングス

原子力損害賠償・廃炉等支援機構

衆議院

復興庁

電力中央研究所原子力リスク研究センター

経済産業省

旧原子力委員会

自由民主党

東京電力改革・1F問題委員会

東京電機大学

消防防災科学センター

内閣官房

旧原子力安全・保安院

福島県警察

内閣府原子力防災担当

美浜原子力緊急事態支援センター

総務省消防庁

警察庁

海上保安庁

環境省

陸上自衛隊

国立研究開発法人 水産研究・教育機構

国立保健医療科学院

公益財団法人 放射線影響研究所 他

過去の関連プロジェクト(新着順)

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福島原発事故に見る日米同盟連携の教訓

本プロジェクトでは、その経験に加え、日米両政府の関係者らへのインタビュー等に基づき、日米両国がいかに共同連携して危機に立ち向かったかを、詳細に明らかにしています。その上で、この「トモダチ作戦」遂行の過程で浮かび上がった教訓と課題から、我が国のあるべき安全保障・危機管理体制と同盟メカニズムの姿を提言しています。


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医療機関の危機管理と避難

記憶が風化する前に福島原発危機当時の危機対応の課題を整理し教訓を引き出すため、このプロジェクトでは、福島第一原発から20km-30km圏内の「屋内退避地域」にある6つの病院や薬局、老人施設、行政機関へのヒアリングを通じて、危機時の医療体制や病院そのものの避難について調査しました。


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吉田調書に見る福島原発危機

東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故から約4年が経とうとする今、日本はどこまで福島の教訓を学べたのか。2014年9月に故吉田昌郎・福島第一原子力発電所前所長のヒアリング調書という新しい情報が公表されたことを契機に、民間事故調(2012年2月に報告書発表)の当時のワーキンググループメンバー有志がこの4年間を振り返りました。


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福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)

「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」は、APIの前身である日本再建イニシアティブの最初のプロジェクトです。2011年9月の発足以来、東京電力・福島第一原子力発電所における事故の原因や被害の状況、事故の直接的な原因だけでなく、その背景や構造的な問題点について、民間の純粋に独立した立場かつ国民の一人という目線で検証しました。

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