国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学の時代」には、国家安全保障政策において、軍事的手段のみならず経済的手段も重要な政策ツールとなっています。我が国の経済活動に不可欠な基盤をどう確保したらよいのか。我が国の存在が国際社会にとって不可欠な分野をどう拡大すればよいのか。経済的なパワー・抑止力と国際的な秩序で、我が国の経済安全保障を確保するためには、日本のとるべき政策は何か。同盟国・同志国とどう協力すべきなのか。政府と企業はどう連携したらよいのか。
2021年10月に成立した岸田内閣は、「経済安全保障」を政権の正面に据え、経済安全保障担当大臣を設けるとともに、2013年に策定された国家安全保障戦略についても経済安全保障を織り込む形で改定する方針を表明しています。当時、「民間版国家安全保障戦略」として「静かな抑止力」の強化を提言したAPIは、今般の政府による国家安全保障戦略の見直しに合わせ、日本の経済安全保障戦略はどうあるべきかについて検討します。また、経済安全保障にとってきわめて重要な官民の協力を推進するために、国家としての「全体最適解」を探求するべく、政・官・民・学の集う経済安全保障政策コミュニティの構築を目指します。
AI や自立走行車など、次々と開発されてくるデジタルを中心とした先端技術を、どのように現実の社会に組み込み役立てていくべきなのでしょうか。今、第四次産業革命によって、多くの先端技術が複雑に絡み合い、高度なシステムとして機能する中、それらを実生活に実装する際には社会や人々の生活のあり方までを大きく変えていく可能性が高くなっています。生活の便利さだけでなく、実社会の行動変容を必要とするようなこうした社会実装においては、賛否両論あり、議論が絶えません。そもそも「社会実装」とは何なのか。なぜ私たちは社会実装に苦労しているのか。テクノロジーの社会実装プロジェクトでは、このような基礎的な疑問から調査を始めていき、日本で社会実装をよりよく進めていくためのフレームワークを検討しました。その研究結果を、座長の馬田隆明氏の著書『未来を実装する』(英治出版/2021年1月24日発売)という形で纏め、発表いたしました。
2021年3月、我が国は福島第一原発事故発災後10年の節目を迎えました。この10年間で、戦後日本史上空前の危機から私たちは何を教訓として学び、「国のかたち」はいかに変わったでしょうか。2011年の民間事故調の理念を継承し、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)は、2019年6月に「福島原発事故後10年の検証(第二民間事故調)」プロジェクトを立ち上げ、2021年2月に報告書を出版しました。
本プロジェクトの目的は、原子力安全規制から復興政策に至るまで、各分野への実務家・有識者へのヒアリング調査等を通じ、事故・震災後10年間の「学び」を検証することです。政府の原子力安全規制、東京電力を始めとした電力事業者のガバナンス、官邸の危機管理、自衛隊・警察・消防等の実働部隊の連携や、デマ・風評被害に向き合うリスク・コミュニケーション等、事故後の民間、国会、政府等の様々な事故調査委員会で指摘された課題や、廃炉・復興など事故後時間が経るにつれて明らかになった課題から、この10年間、日本政府・社会は何を学ぶことができたか―あるいは、何を学べなかったか―を検証しました。
「新型コロナ対応・民間臨時調査会」(小林喜光委員長=コロナ民間臨調)は、日本の新型コロナウイルス感染症に対する対応を検証するために、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が2020年7月に発足させたプロジェクトです。日本政府の取り組みを中心に検証してきました。
コロナ民間臨調は、高い専門知識と見識を有する各界の指導的立場にある識者4名で構成する委員会のもと、個別の分野の専門家19名によって構成されるワーキング・グループを設置。委員会の指導の下、ワーキング・グループメンバーが安倍晋三首相(当時)、菅義偉官房長官(当時)、加藤勝信厚生労働相(当時)、西村康稔新型コロナウイルス感染症対策担当相、萩生田光一文部科学相はじめ政府の責任者など83名を対象に延べ101回のヒアリングとインタビューを実施、原稿を執筆、報告書を作成しました。行政官と専門家会議関係者等へのヒアリングとインタビューは、すべてお名前を出さないバックグランド・ブリーフィングの形で行いました。
福島原発事故の検証プロセスで見えてきた問題のひとつは、日本の現在の危機管理体制の甘さでした。人的・物的リソース、意思決定、情報伝達・共有、危機コミュニケーション、マニュアルの整備・トレーニング、専門家の活用方法など、危機の際のマネジメントについて改めて多角的に考える必要があります。福島第一原発事故の教訓を生かしながら、今後起こりうる危機としては、首都直下型地震を一例とする自然災害から原子力災害、サイバーテロ、軍事衝突、エネルギー危機など多岐にわたります。起こりうる国家的危機に際してのシミュレーションを通じて問題点や課題を抽出し、危機対応体制のあり方を検証し、「備え力(レジリエンス)」のあり方や危機管理体制の青写真を提示してきました。
バブル崩壊後の20年間、日本はなぜ停滞から抜け出せないのでしょうか。このプロジェクトでは、国内外のエキスパートに参画頂き、国際情勢、人口構造、労働形態、女性の生き方、世代間格差、国の財政、技術革新などの切り口から、「失われた20年」の課題と日本再建のための方策を探ります。また、日本が直面する社会的・経済的問題の多くは諸外国にも共通の課題です。こうした解決策のモデルを日本から提示することで、世界における日本の存在感を示すと共に、グローバルな課題解決への貢献を目指します。本プロジェクトは、2015年春に日英両言語で書籍を出版しました。また、2016年春まで世界各地で国際シンポジウムを開催しました。
人口民間臨調は、急速に少子高齢化が進行し、人口衰退とも言える状況に突入した日本において、その人口動態が社会構造にどのような影響を及ぼすのかを有識者委員会メンバーが議論をつくし、報告書『人口蒸発「5000万人国家」日本の衝撃』を新潮社から2015年6月に出版しました。また英語版も2017年12月に出しました。
日本再建イニシアティブでは、2015年1月より「日本再発見」シリーズの第1弾として「住環境プロジェクト」を開始しました。このプロジェクトでは、日本の伝統的な住まい方の工夫や知恵にもういちど習うとともに、最新技術を活用することで、それらを現代の生活にどのように生かせるのかを考えます。また、過剰な住宅ストック、少子高齢化や人口減少により今後加速する空き家問題、将来のエネルギー不足への備えといった諸外国にも共通する課題の解決へ向けて、現在どのような取り組みが行われているのかを調査し、活用できそうな技術やアイディアを世界と共有することを目的としています。
建築家や建設関連の実務家、研究者へヒアリングし、先進的な住まい方を実践されている方々などへの現地取材を行いました。そのなかから、今後の私たちの暮らしや社会全体に意義をもつと思われる事例を6つ選び、記事やレポートの形で成果をまとめました。
グローバリゼーションにより世界が画一的なものになっていくなかで、日本のもつ豊かな独自性が世界から注目されています。日本のブランドやデザインの人気が高まり、日本への旅行がブームとなっていますが、その可能性は開花しきってはいません。日本が世界に貢献できる方法はまだまだあるはずです。
これまでなかば自嘲気味に使われてきた「ガラパゴス」という概念を私たちはひっくり返し、弱点と見られていた現象を、日本の強みを生み出す源泉へと変えていきたいと考えています。「ユニークであることは、強みになりうる」。このアイディアを出発点として、当プロジェクトでは日本にある隠れた価値をより深く掘り起こし、この国の魅力をさらに高めていく道筋を探っていきます。
国際環境の激変の下、日米関係は歴史的な挑戦に直面しています。これらの挑戦に日米が共同で立ち向かい、課題を解決していくことが求められています。そうした共通の取り組みによって日米関係を強化し、また日米関係を強化することでこれらの共通の課題により効果的に取り組むことができるのです。それは一言でいえば、日米の新戦略を探求することです。本プロジェクトでは、当シンクタンクの特別招聘スカラーであるカート・キャンベル前米国務次官補及びマイケル・グリーン戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長/アジア・日本部長と共に、未来のための新たな日米戦略ビジョンを提唱します。
日本と米国の同盟関係は60年以上にわたり、世界の平和と繁栄の原動力となってきました。日米安全保障条約・第2条が「締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する」としているように、経済は最初から日米関係の中心的な課題になってきました。インド太平洋地域は、日米両国が戦略的利益をいちばん共有している地域です。両国とも地域の安全保障と安定を確保し、貿易をはじめとした経済的関係を拡大し、そして普遍的な民主主義の価値を維持し広めようと努めてきました。両国は、アジア開発銀行やアジア太平洋経済協力会議(APEC)などの機関を通じて、この地域の経済ルールや規範を形成すべく、数十年間にわたって協力しています。
2009年9月に民主党政権が誕生したとき、日本に二大政党時代が訪れたと多くの国民が期待を抱きました。しかし、その後の政策の様々なつまずき、3/11の国家的危機、そして消費税引上げを巡る多くの党員の離反を経て、3年後の総選挙で民主党は壊滅的敗北を喫しました。
本プロジェクトは、2009年9月から2012年12月までの民主党政権を、政策、統治、政党運営などの様々な観点から検証し、日本の政党政治における民主党政権の意義、失敗の理由と今後の日本の政党デモクラシーに必要な教訓を探りました。
首相経験者、党首経験者を含む民主党幹部、関係者の方々のヒアリングと民主党現職衆議院議員全員を対象としたアンケート調査を実施し、国内外の有識者が検証報告を執筆しました。検証報告書は『民主党政権 失敗の検証 日本政治は何を活かすか』と題し、2013年9月25日に中公新書(中央公論新社)より出版されました。また英語版『The Democratic Party of Japan in Power: Challenges and Failures』は2016年9月にRoutledgeから刊行されました。
アンケート回答は当サイトにおいてのみ、その完全版をご覧になることができます。
日政党政治検証プロジェクト第2弾として「検証 日本の中道保守」を2014年10月に立ち上げました。戦後長きに渡り、宏池会などの「保守本流」として知られ、かつて自民党で重きを成していた分厚い「中道保守」を土台とする「戦後保守」が痩せ細り、日本政治のバランスが揺らぎはじめています。保守全体が先鋭化し、観念的になり、幅広い「国民政党」としてあった過去から変わりつつあります。「中道保守」の空洞化の原因や背景を解明し、今日における「中道保守」再生の条件を考察し、健全な政党政治実現への提言を盛り込んだ報告書『「戦後保守」は終わったのか 自民党政治の危機 』を、角川新書として2015年11月に出版しました。
2011年3月11日の東日本大震災に端を発した東京電力・福島第一原子力発電所の原子力災害の原因究明と事故対応の経緯について検証を行いました。日本を代表する科学者、法律家、エネルギーの専門家など6名の有識者委員会の指導の下、約30名の若手・中堅の研究者・ジャーナリスト・弁護士が実際のヒアリング調査やデータ分析に携わりました。事故の直接的な原因だけでなく、その背景や構造的な問題点を民間・独立の立場かつ国民の一人という目線で検証し、半年間にわたる検証結果を2012年2月28日に記者発表しました。報告書の内容は大きな社会的反響を呼び、3月11日より一般書籍として市販されています。