世界的な経済・経済のバランスや地域秩序の変化によって、アメリカが冷戦後築き上げてきたモデルは揺さぶられ、もはや不動のものではなくなりました。次の確固たるモデルが何かわからない21世紀の今は、日本にとって政治・経済・文化の各面でグローバルなリーダーシップを発揮する機会になりえるのでしょうか?
バブル崩壊後、日本は停滞を続け、「失われた20年」にあえぎました。日本の目覚ましい経済成長はすっかり過去の産物となり、世界の日本への驚きも関心も低下してきました。それとともに、日本の世界への関心と関与も以前に比べ希薄になってきたことは否めません。しかしながら近年、世界各地で起きている混乱によって日本は再び、存在感を取り戻しつつあります。世界の平和と安定と繁栄にとって欠かせない自由で開放的な国際協調体制の担い手としてより積極的に世界に関与し、世界とともに秩序、ルール、標準、規範をつくっていく姿勢を明確にし始めました。
日本再建イニシアティブは2015年10月にこのプロジェクトの第1ステージとなる「Why Japan Matters」をスタートさせました。このプロジェクトでは、日本がどのように世界に貢献しているのか、日本の何が世界に求められているのか、また、その潜在力はどこにあるのか、などといった日本の価値を発見、または、再発見することを目指し、その潜在力が十分に発揮されていないとしたら、発揮するうえで制約となっているのは何か、一体、どうすればそれを発揮できるのかを分析し、建設的な分析と革新的な提言をまとめました。そして第1ステージの活動の成果の一つとして、報告書である『ガラパゴス・クール』(東洋経済新報社)を出版しました。英語版も近日中に出版予定です。第1ステージについての詳細については、Why Japan Mattersのページをご覧ください。
2017年4月より、私たちはプロジェクト名を新たにガラパゴス・クールとし、第2ステージの活動を開始しました。
第2ステージ:ガラパゴス・クール
「ガラパゴス・クール」という名前は、プロジェクト第1弾を進めていく中で浮かび上がってきたものです。ここには「ユニークであることは、強みになりうる」という意味が込められています。
日本はその独自性については事欠きません。いわゆる「失われた20年」のあいだ、「ガラパゴス」という言葉がグローバルマーケットから孤立した内向きな日本、または日本国内だけで独自に発展した製品や技術を指して、なかば自嘲気味に使われてきたことは、そのことをよく表しています。この「ガラパゴス現象」はとりわけ携帯電話において顕著でした。当時の日本の携帯電話は他国の製品よりも洗練され高機能であったにもかかわらず、日本以外では使うことができなかったのです。
― もし日本がこの独自性を世界に関わっていくために使うことができれば、このユニークさは日本をアピールする資源になる ― 「ガラパゴス・クール」という言葉の背景には、こんな思いがあります。
ニューデリーにもニューヨークにも同じブランドの店が立ち並ぶグローバリゼーションが世界を画一的なものにしつつある今日において、斬新であることや創造的であることにはこれまで以上に価値があります。
“The Atlas of Economic Complexity”という調査では、日本は第1位でした。ガラパゴス製品だけではない、日本独自の経験や価値など、世界に提供できるものが日本にはたくさんあります。蓄積された豊かさがあるのです。すでに世界では日本のブランドやデザインの人気が高まり、海外からの旅行者が日本を旅することがブームとなっています。ですが日本の可能性はまだ完全には開花しきっていません。日本が世界に意義ある貢献をできる方法がまだあるはずです。
私たちは「ガラパゴス」という概念をひっくり返して、弱点と見られていた現象を日本の強みを生み出す源泉へと変えていきたいと考えています。プロジェクト第2弾ではこのアイディアを出発点として、日本にあるまだ隠れた価値をより深く掘り起こし、この国の魅力をさらに高めていく道筋を探っていきます。
ガラパゴス・クールでは情報発信の第一歩として、ご講演の内容を文章と写真・画像にまとめ、YAHOO! JAPANと「Tokyo Review」の2つのサイトから、日英両言語で同時に発信しております。
YAHOO! JAPAN 専用ページはこちらです。
Tokyo Review に掲載された記事は、2019年8月と2019年7月に掲載されております。
事務局
船橋 洋一 (ふなばし よういち)
アジア・パシフィック・イニシアティブ 理事長
元朝日新聞社主筆
2011年9月に日本再建イニシアティブを設立。2016年、世界の最も優れたアジア報道に対して与えられる米スタンフォード大アジア太平洋研究所(APARC)のショレンスタイン・ジャーナリズム賞を日本人として初めて受賞。
Jonathan Soble (ジョナサン・ソーブル)
アジア・パシフィック・イニシアティブ 客員研究員
瀧野 俊太 (たきの しゅんた)
アジア・パシフィック・イニシアティブ リサーチ・アシスタント
2017年には、日本の学生を21世紀のグローバル・リーダーへ育てる教育プログラム「オックスフォード・九州模擬国連キャンプ」を創設した。
AP Initiativeでは船橋理事長のリサーチ・アシスタントを務め、2つのプロジェクトを担当するほか、英語の評論サイト「Tokyo Review」の編集アシスタントもしている。
Harry Dempsey (ハリー・デンプシー)
アジア・パシフィック・イニシアティブ 前研究員