地経学時代の経済安全保障論(船橋洋一)


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地経学時代の経済安全保障論

FUNABASHI Yoichi © Seiichi Otsuka

アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)理事長 船橋洋一

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いよいよ始まる米・中露「経済安全保障闘争」で、日本企業はどう変わる?
「重要企業 100 社アンケート結果」を全公開(全4回の1)

戦後の「長い平和」が終わった
ロシアのウクライナ侵略は、「一つにして自由な欧州 」という欧州統合に向けてのEU(欧州連合)の理念を木っ端微塵に打ち砕いた。ほとんどの人は忘れているだろうが、EU が2012年にノーベル平和賞を受賞したことが今では不吉な冗談だったように思える。その 2 年後 にロシアのクリミア併合があり、10年後 にウクライナ侵攻が起こったのだから。

法とルールを蔑ろにし、力と勢力圏 赤裸々に押し出す権力政治(レアルポリティーク)が現出しつつある。この点、南シナ海、東シナ海、台湾などのインド太平洋における一方的現状打破攻勢を強める中国も変わらない。2010 年代以降、戦後の国際秩序はロシアと中国 によって根底から揺さぶられてきた。その行き着いた果てがウクライナの悲劇 だった。戦後の「長い平和」はロシアのウクライナ侵略 によって不可逆的に終わった。

ウクライナは徹底抵抗の構えを崩しておらず、欧米は武器支援を行っている。戦争は長期化する可能性が強い。G7 と EU(欧州連合)を中心とする西側はロシアに対して SWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシアの金融機関排除を含む経済 ・金融制裁を発動した。ロシアはガスと石油の供給チョークポイントを絞ることで対抗するだろう。西側の金融 とロシアのエネルギーのそれぞれの武器化による地経学的決闘の形である。

双方のサイバー戦争はすでに始まっている。この中で、中国はロシアのウクライナに対する行動の言い分に「理解」を示し、国連安保理のロシア非難決議に棄権した。西側の対ロ経済制裁が長引けば長引くほど、ロシアの中国経済依存は高まるだろう。戦後の国際秩序に対する修正主義勢力として両国は協商関係へと傾斜しつつある。経済制裁、経済の武器化、機微技術支配権、エネルギー供給・価格操作、サイバー攻撃…米国ブロック(G7・NATO・豪 含む)と中国ブロック(ロシアを含む)の間の経済安全保障をめぐる闘争の時代が幕を開けた。

半導体は「デジタル社会の神経系統」
このような状況の下、日本政府は通常国会に経済安全保障推進法案を提出した。4つの法案は、①サプライ・ チェーンの強靭化 、②基幹インフラの安全性・信頼性の確保、③先端的技術の官民協力 、④特許出願の非公開制度、をそれぞれ目的としている。

日本を取り巻く地政学的かつ地経学的な環境が急速に変化し、日本の経済安全保障にとってリスクが急激に高まってきている。それは、コロナ危機の中も、痛感させられたところである。企業はサプライ・チェーンのグローバル化を進めてきたが、自動車や電機を含む広範な産業分野で経済活動が止まった。サプライ・チェーンの実態を日本政府は十分に把握できていなかったし、調査権限もなかった。

コロナ禍の過程で、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の重要性が明らかになったが、それは半導体の戦略的不可欠性を改めて思い知らせることになった。半導体は産業用途の裾野が格段に広い。それは単なる部品ではない。それはデジタル社会の神経系統である。日米欧とも海外有力半導体の生産拠点を国内に誘致する産業政策を進めようとしている。

政府と企業の「戦略的対話」が必要
コロナ禍の中、船員やエッセンシャル・ワーカーが確保できず、物流が滞った。基幹インフラに対するサイバー攻撃が激増し、サイバー・セキュリティの戦略的重要性を浮き彫りにした。

国々のパワーは「国家サイバー・パワー」によって測られるようになりつつある。半導体、AI、量子コンピューティング、バイオテクノロジーなど第四次産業革命を牽引する技術が明日の国富と国力を生み出し、国々の興亡を決する。政府と企業が連携して経済安全保障体制を強化していく必要がある。その第一歩として、日本政府が、経済安全保障体制構築のための法制度を整備する取り組みに乗り出していることは評価できる。ただ、経済安全保障政策を進めるに当たっては、次のような戦略的課題に正面から応える必要がある。

第一に、経済安全保障政策は、国家の実存への脅威に備える国家安全保障政策、さらには国民の安全・セキュリティ、生命・健康、自由・プライバシーを保証・確保する国民安全保障政策という全体の安全保障政策の一環として、かつ整合性をもって追求する必要がある。それはまた、通商政策や産業政策の理念と在り方の中での位置づけ、さらには対米、対中、対アジア外交の観点からの吟味を必要とするだろう。

第二に、安全保障政策を作成するに当たっては、日本が構造的に巨大な赤字国であり、経済安全保障ではエネルギー・グリーンと戦略的鉱物資源、国民安全保障では「国家サイバー力」と海上輸送、国家安全保障では有事法制の不備、しかも戦後の日本の安定と繁栄の礎となってきた「自由で開かれた国際秩序」が崩壊し始めたことにより、その赤字幅が増加している厳然たる現実を直視することである。

第三に、経済安全保障においては企業が重要な役割を担っている。経済安全保障政策は、企業の経済活動への規制を含むだけに個々の措置の費用対効果の比較考量に止まらず、自由経済やイノベーションとのバランスを担保し、人材、技術、資産、データ、ネットワークなどの国富と国力については「守る」「攻める」「育てる」の三本柱で臨むことが大切である。政策の立案、遂行に当たっては、政府と企業の「戦略的対話」が不可欠である。

米中対立が「最大の地経学的リスク」
私が主催するシンクタンク、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)では、そうした問題意識を踏まえ、日本の経済安全保障にとって重要かつ敏感な企業100社に対して、アンケートを実施した。アンケートは、2021年11月中旬から12月中旬にかけて電子メールで送付、回収し、合わせて28社の企業の経営トップとの聞き取り行った。アンケートの結果、浮かび上がった主要なポイントは、以下の5つである。

第一に、企業は、米中対立を最大の地経学的なリスクととらえている。「経済安全保障への取り組みを行うに当たり、一番の課題は何か」との質問に対して、回答企業の75.0%が「米中関係の不透明性」を挙げた。また、60.8%が米中対立による自社ビジネスへの悪影響が「何らかの形で出ている」と答えている。

具体的には、「アメリカの規制強化(関税含む)によるコスト増」(59.5%)、「サプライヤーの変更」(36.5%)、「中国の規制強化(関税含む)によるコスト増」(33.8%)、「売上減」(29.7%)と続いた(以上複数回答)。「米中の板挟みになったことはあるか」という質問に対しては、12.5%が「ある」と答えている。回答企業のうち売り上げに占める米国の比率「1割以上」としたのが64.0%、中国のそれは48.8%であり、両国市場への依存は高い。

中国リスクは「長期的かつ広範」
第二に、企業は、中国リスクを長期的かつ広範なリスクと見なしている。「中国事業を展開する上での懸念事項」を問いただしたところ、「中国政府の方針変更による事業存続リスク」(76.1%)、「技術情報を含めた情報漏洩」(65.9%)、「地政学リスク」(63.6%)、「中国の競合企業の成長」(62.5%)、「中国政府の外資規制強化による業績影響」(52.3%)、「サイバー攻撃」(52.3%)などとなった。(複数回答)中国側に「技術移転を要求された」ことがある企業は10.7%、そのうち33.3%が「要求に従った」。

実際のところ、企業の多くはすでに経済安全保障措置を導入しており、「ここ数年、生産能力の大幅な増強を国内において行っている。調達先をできるだけ複数化するよう努めている」、「移転検知装置など商品への技術の組み込み、設計情報・来訪者の厳格な管理」、「開発拠点の分散化」、「全社横断でのCFT(テロ資金供与防止対策)設置」などと答えている。このうち、「移転検知装置」の商品への組み込みは、例えば、中国の合弁相手などが日本の製品をひそかに北朝鮮に移転するのを「検知装置」を埋め込むことで抑止しようというものである。

14%の企業が「補助金による国内生産回帰への支援」と「補助金による中国以外の国(東南アジア等)における新たなサプライ・チェーン構築の支援」を求めている。にもかかわらず、全体の売り上げに占める中国の比率の「中長期目標」を「増やす」と回答したのは33.3%、「現状維持」16.7%。「減らす」は一社もなかった。中国市場への依存を減らしたいと考えつつも、生産拠点の日本回帰や第三国への移転を政府の支援の枠組みなしには踏み出せない日本企業の置かれた状況とジレンマをうかがわせている。

当面は、米国の「規制強化」がリスク
第三に、企業は、こうした中国の経済安全保障上のリスクに備えつつも、当面はむしろ、米国の対中政策に伴うリスクの方をより強く感じている。とりわけ「米国の規制強化」への警戒感が強い。先に触れた通り、「米中対立で事業に影響が出ている」と答えた企業のうち、「アメリカの規制強化(関税含む)によるコスト増」(59.5%)が「中国の規制強化(関税含む)によるコスト増」(33.8%)をはるかに上回る。実際、8.2%が、「輸出入や制裁企業との取引などで米国政府から指摘を受けたことがある」と答えている。

「米国事業を展開する上での懸念事項」について質問したところ、「サプライ・チェーンの混乱」(47.7%)、「米国の中国企業排除の激化」(46.6%)、「中長期の対中政策の見通しづらさ」(45.5%)、「地政学リスク」(38.6%)、「サプライ・チェーン再編や生産移管等によるコスト増」(28.4%)などとなった。日本企業は、CFIUS(対米外国投資委員会)による投資規制強化をリスクと感じている。「その他の回答」の中には、規制強化のリスクに対して「米国から日本への生産地移管」を検討するというように同盟国の協力によるサプライ・チェーン強靭化の逆を行く回答もあった。

同じく、自由回答の中には、「米国内の政治の混乱」「政権交代等による米国政府の政策のズレ」「政権交代による環境対応などの方針変更」といった米国の内政の安定性への懸念が表明された。バイデン政権になっても、トランプ時代の米国政治の「大分断」がさらに深まり、米外交は一段と不安定かつ不透明な内政の虜になりつつある。

この間、米中双方とも次々と対外貿易・投資規制を打ち出している。米中双方と取引のある企業は、米国の対中制裁に従うと、中国の反外国制裁法違反となり、中国から制裁される。その逆もまた真という危うい状況に置かれつつある。その中で、当面、米国の制裁措置の方が中国のそれよりより直接的なリスクとなっていると企業は感じているようである。中国の規制は「怖い」が、米国のそれは「痛い」ということなのかもしれない。

経済安全保障は「中長期的な経営課題」
第四に、企業は、経済安全保障を中長期的に重要な経営課題としてとらえている。

72.4%が「今後、日本の経済安全保障関連規制が強化される場合、一番の懸念事項」として「中長期的な事業計画」が作成しにくくなると回答した。これと関連して、「顧客のパートナーとの長期関係性への影響」や「中国企業への投資意欲が減退すること。連結決算のデータ取得に制限がかかること等」を指摘する企業もあった。

すでに、経済安全保障対策費用がかさみ始めている。経済安全保障関連規制の強化による全体の費用増の程度に関しては、58.2%の企業が「5%未満の増加」と回答、「まったく増加していない」と回答した36.3%を大きく上回った。取締役会・役員会などの経営方針を議論する場で、「経済安全保障が議題になる」と答えたのは84.8%に上った。86.9%がすでに「取り組みを行っている」。具体的取り組みとしては、「情報管理の強化」(64.4%)、「サプライヤーの変更や多元化」(50.6%)、「専門部署の設置」(23.0%)が多かった。

不明確な「経済安全保障政策の方向性」
第五に、企業は、日本政府の経済安全保障政策の方向性や対象の範囲が明確でないことに不安を抱いている。「日本政府への期待」を質したところ、47.4%までが「政策の方向性の明示」と答えた。このほか、「企業の利益優先を念頭に置いた政策」(18.6%)、「補助金による国内回帰への支援」(9.3%)、「補助金による中国以外(東南アジア等)への生産移転の支援」(5.2%)などを「最も優先順位が高い」施策に挙げている。

なお、アンケートでは、日本の強みを最大限生かすための最優先の課題を問い質した。回答の上位5位は、「モノづくりの競争力優位の保持」(35.1%)、「国内政治の安定と平和な国際環境の維持」(28.9%)、「アジア太平洋における日本のリーダーシップと信頼」(18.6%)、「日米同盟の維持・強化」(7.2%)となった。このほか、「脱炭素時代に向けての自動車産業の国際競争力の再構築」(3.1%)、「CPTPPの深化・拡大(なかでも、米国と中国の加盟)」(3.1%)、金融資産の運用と拡大(2.1%)などが挙げられた。

 

中国で戦わなければ潰される…
米中対立に振り回される日本企業が「米中経済の切り離し」を進める切実なワケ(全4回の2)

「日本の最大貿易相手国」となった中国
中国は日本の貿易の中で23.9%(2020年)のシェアを占め、最大の貿易相手国である。二位の米国の14.7%(同)を大きく上回る。中国が米国を抜いて日本の最大の貿易相手国となったのは2007年だが、その後、米中の差は広がる一方である。

2021年2月、アラスカ州でブリンケン米国務長官が楊潔チ中国共産党政治局員と会談した時、ブリンケンは直前に日韓両国を訪問し、「同盟国に対する中国の経済的威圧」などの対中懸念を共有したと述べたのに対して、楊は「その2カ国は中国の第二、第三の大きな貿易相手国だ」と反撃した。楊は、日韓とも経済では米国ではなく中国の巨大な市場力に吸引されていることを米国に改めてリマインドさせようとしたのだろう。つまりは習近平中国国家主席の言うところの「磁力場」である。

習は2020年4月、党中央の財政金融委員会で、中国の巨大な市場とグローバル・サプライ・チェーンの「磁力場」に外国を依存させ、経済の抑止力と打撃力を強化せよ、と号令をかけた。経済相互依存はその非対称性故に、より依存度の少ない方がより多い方に対して依存関係を武器化する誘惑を生む。ジョセフ・ナイとロバート・コヘインが説いたこの古典的な地経学的な「影響力効果」を、中国は今、最大限、発揮している*¹。

日中関係においては、この武器化を抑止するプロセスとして「政経分離」が唱えられてきた。日中関係における「政経分離」は戦後、日本が占領期を終えてから1972年の日中正常化までの間、中国と台湾のいわゆる「両岸関係」を管理する際、台湾との政治関係を維持しながら大陸との貿易を拡大するため日本が考案した枠組みであり、池田勇人首相が国会の所信表明演説で初めて使った言葉であるとされる*²‘³。

正常化後、日中の経済関係が深まるにつれ、それは政治的に敏感な問題が経済関係を損なうことのないように、政治と経済を切り離し、司司で処理する意味合いを帯びた。日本の経済力が中国をはるかに凌駕していた時代は、日本の経済力による政治的影響力を封じ込める効果を中国は持たせようとした。天安門事件に対する日本を含むG7の経済制裁は中国にとって大きな脅威であった。

しかし、それから20年後の2010年、中国が日本のGDPを抜いて世界第二の経済大国に躍り出るに至ってその立場は逆転した。現在、中国の経済規模は日本の3倍近い(2020年)。しかも、中国の経済優位は規模だけでなくAI、ドローン、燃料電池、太陽光パネル、デジタル通貨プラットフォーム、データ経済システム、決済システム、そして非自由主義的イノベーションのエコシステムへと広がりつつある。中国はいまや「消費動向のトレンドとイノベーションを発見し、世界のコモディティ価格と資本コストを設定するところであり、規制体制の一つになりつつある」*⁴。

「中国で中国と競争」しなければならない
私が主催するシンクタンク、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)では、日本の経済安全保障にとって重要かつ敏感な企業100社に対して、アンケートを実施した。アンケートは、2021年11月中旬から12月中旬にかけて電子メールで送付、回収し、合わせて28社の企業の経営トップとの聞き取り行った。

このアンケート調査と合わせて実施したトップの聞き取りで経営者の一人は、「今、一番やりたいこと、それは中国の雄安のスマート・シティで事業に参画すること。人権もプライバシーも裁判所も関係なしで、自由にやれるのはあそこだけだから」と言って、笑ったが、実際のところ、巨大なスマート・シティ構想である河北省雄安新区にはすでにパナソニック、日立製作所、トヨタ、日本ペイントなどが中国企業と提携しつつ進出している。

ただ、現時点では、中国は日本の技術と資本をなお必要としている。中国の『科技日報』(2020年9月24日)に、外資がなお競争優位を持つ35の技術とその技術を保有する企業のリストが掲載されたことがある。それらの企業の多くが日本企業だった。

半導体では、フォトレジストで東京応化工業、JSR、三友化学研究所、信越化学工業、ステッパー(露光装置)でニコンとキヤノンが挙げられている。自動車では、コアアルゴリズムでファナックと安川電機、リチウム電池セパレーターで旭化成と東燃化学、燃料電池用重要剤でトヨタ自動車、エボキシ樹脂(炭素繊維複合材料)で東レの名前が載っている。重構造型ガスタービンではGEとともに三菱重工業、超精密研磨技術ではAMATとともに荏原製作所が入っている。

アンケートでは、多くの企業が中国への技術と人材と知的財産の流出への対抗策の強化を訴えている。「半導体先端技術の海外流出防止」、「次世代技術のIPの海外流出をとどめるための施策」、「資源を中心とした重要物資のサプライ・チェーンの強靭化・技術人材の海外流出と流出した場合の尖端技術情報の漏洩防止強化」、「知的財産の保護」などである。中国はビジネスの中長期的展望を激変させるかもしれない大きな地経学的リスクであると企業は痛切に認識している。

同時に、前回記事で紹介したように、33.3%の回答企業が全体の売り上げに占める中国の比率の「中長期目標」を「増やす」と回答している。中国市場で競争していかないとグローバルな国際競争から落後するという切実な危機感を企業は抱いている。

中国が好きだから出るのではない、儲かるからというその一点で進出するのでもない。将来、中国で中国と競争しなければグローバルにも生存できないから出るのである。ある意味で、それはバイデン政権が追求する「競争的共存」の対中政策と通い合う。その本質は、中国との共存は必要である。しかし、ただ共存しようとすれば結局、支配される。競争しなければ共存できない、という地経学的生存本能に近い。

中国が行う「政経融合」
いまでも中国高官は日中関係を管理する上での「政経分離」の効用を口にする。しかし、当の中国は政治的に必要と判断すればそれを無視する。2010年の尖閣ショックの際の対日レアアースの事実上の禁輸、韓国に対するTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)をめぐるロッテへの報復と見せしめ、コロナ危機においてはオーストラリアの国際調査委員会設置提案に対する14の分野での経済制裁、リトアニアの「台湾代表処」開設に対する同国対中輸出品の差し止め措置やリトアニア産の部品を用いたEU諸国の製品の対中輸出規制など枚挙にいとまがない。リトアニア制裁に関しては、EUがこれを「経済的威圧(anti-coercion instrument: ACI)と見なし、法的な措置を含む対抗策を検討している。

中国にとって「政経分離」はあくまで戦術的な便法である。1999年の段階で、中国の戦略家は、「超限戦」の考え方を打ち出している。それは、「あらゆるものが手段となり、あらゆるところに情報が伝わり、あらゆるところが戦場になりうる」、そして「戦争と非戦争、軍事と非軍事というまったく別の世界に横たわっていたすべての境界が打ち破られる」とのグレーゾーン戦略である*⁵。

中国が行っているのは「政経分離」ではなく「政経融合」、さらには「軍民融合」である。中国学者の阿南友亮東北大学教授がつとに指摘したように「経済で結びついていれば、日中関係は安定するという言説は、もはや説得力を失った…これまでの対中政策は、確かに日本に一定の経済的利益をもたらしてきたが、リスクとコストが年々高まっており、日中の平和的共生のサステイナビリティ(持続可能性)を危うくしている」*⁶。

今回のアンケートは、企業が中国の「リスクとコスト」の高まりを十分に認識していることを示している。コロナ危機の過程で激化した米中対立は、中国が単なるリスクを超えてもはやハザードになりつつあるのではないかとの疑問を投げかけている。ナポレオンの言葉を借りれば、リスクは個別の戦闘で負け戦を受け入れる時に起こる。それに対して、ハザードは戦争そのものの敗北を予感する時に起こる。

ジョージ・ソロスは、中国で新たに投資信託事業を開始する許可を中国政府から得た資産運用会社ブラックロックを批判した。それは「専制政治体制に手を貸すことに等しく・・・ブラックロックの顧客のカネを失うことになるだろうし、より重要なことは米国と他の民主主義国の国家安全保障を損なうことになるだろう」と言うのである*⁷。一言でいえば、米中金融デカプリングのススメである。ソロスは、中国はもはやリスクを超えハザードの領域に入ったと見ているのだ。

ただ、100社アンケートに回答した企業は、中国はリスクだがハザードではないと見なしているようである。企業は一方で中国の「磁力場」に吸いつけられ、他方でデカプリングの引力に引き寄せられる、そのような不安定な状態に陥っている形である。

「米中対立の板挟み」にはまる日本企業
多くの企業が米中対立の間でそれこそ“板挟み”にはまっていると感じていることをアンケートは示している。とりわけ米中双方が自らの法律を自国企業だけでなく日本を含む第三国の企業に「域外適用」し、懲罰的な措置を課すことへの警戒感が強い。

経済安全保障担当大臣への「期待」でもこの点に関して、政府に対応を促す声がいくつも寄せられた。「原材料の中国偏在、生産・評価設備の米国偏在と、半導体関連産業は、米中対立激化の場合にはビジネスが成立しない点をご理解いただきたい」、「日本の国益を第一に考えるならば、外交・安全保障政策面では、アメリカと強く連携すべきである一方で、中国との間の経済関係の悪化はできるだけ避けるようバランスを取っていただきたい」、「同盟国と連携を強化しつつも米国の対米政策に振り回されない対応をお願いしたい」といった具合である。

ただ、日本企業も手をこまねいているわけではない。グローバルに事業を展開している製造メーカーのCFOは「2,3年前から米中がきな臭いと感じ、知財をはじめ米中のオペレーションを完全に切り分け、デカプリングを始めてきた」と言った。同社の場合、米中それぞれの市場への出荷数はほぼ同規模である。ただ、問題は部品の扱い。「中国のものを米国に送れるか、その逆はどうか、という問題」に頭を悩ましているという。米中経済のデカプリングが始まる中で、企業も先回りする形で米中デカプリング戦略を取り始めている。

日本の企業が米中の”板挟み“状況を思い知らされたのは、米国の華為技術(ファーウェイ)排斥措置の域外適用圧力にさらされた時だった。それはまた、日本政府が経済安全保障政策策定へと向かうきっかけともなった。

トランプ政権は2018年8月、2019年度国防権限法によって輸出管理改革法(ECRA)と外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)を制定、対中経済安全保障戦略を始動させた。華為技術やハイクビジョンなど中国5社の機器・システム・サービスの政府調達・使用を禁じた。2020年9月、同政権は華為技術への輸出規制を発動し、第三国を経由して華為技術などの特定の中国企業に部品や技術が流出しないように再輸出規制をかけることにした。

同年10月には、中国半導体受託製造大手のSMIC向けの米国製機器や原材料について、米国輸出管理規則(EAR)の制限をかけた。これによりSMICへの輸出には米国商務省産業安全保障局(BIS)への事前許可が必要になった。「買わない、使わない」から「売らない、作らない」へと規制の網を広げたのである。ソニーはスマホやデジカメに使われる半導体「イメージセンサー」の年間2000億円にのぼる同社向け出荷の全面停止に追い込まれた。(同社は米商務省と交渉し、同年11月、一部再取引再開の許可を取り付けた)*⁸ 。

バイデン政権になってからは、サプライ・チェーンに関する大統領令(2021年2月)を発布。半導体・蓄電池・レアアース・医薬品については100日以内に関係省庁がレビュー、大統領に脆弱性リスクの報告と政策勧告を行うことを決めた。(1年以内に防衛、公衆衛生・生物事態対処、情報通信技術、エネルギー、輸送産業、農作物・食料のレビューを予定)。

さらに、米政府は2020年6月、エンティティ・リスト(事実上の禁輸リスト)に人権侵害の企業を追加した。香港や新疆ウイグル自治区などでの人権侵犯に対する対中制裁発動は“新疆綿”を使うグローバル企業への制裁、さらには太陽光パネルに使うシリコンの45%の占有率を誇る“新疆シリコン”を輸入する企業への制裁へと向かった。2021年1月には、ユニクロのシャツが、新疆ウイグルにあるYoungor Textile Holdings社との取引の可能性を指摘され、米税関・国境警備局(CBP)により輸入を差し止められた*⁹。

日本企業の間には戸惑いが広がっている。アンケートでも、「人権問題に対応した貿易制限」に対する日本のより「現実的DD(デュー・ディリジェンス)制度の導入」を求める声があった。人権侵犯だからといって杓子定規に「貿易制限」を課すことのないように柔軟な対応を求めたものだ。ここでは、米国が問題とするサプライ・チェーンにどの中国企業が含まれているかを調査すること自体が政治的に敏感な事柄となる。この面での人権DD(デュー・ディリジェンス)を開始すれば、「調査を進めること自体・・・中国からの報復リスクを招き」(アンケート回答)かねない。

「国体維持」のための「国安法」
一方の中国も次々と対抗策に打って出ている。2020年12月、「国家安全」に関わる戦略物資や技術の輸出を規制する輸出管理法を施行した。中国の「国家安全」は国家安全保障とは異なり、治安・公安の概念であり、究極的には中国共産党の「国体維持」のためのものである。そこには、政治、軍事、経済、文化、社会、情報、資源、生物、宇宙、極地、深海など16の分野が含まれる。それを脅かすものとして米国企業が指定されれば、日本企業が中国からの原材料でつくった製品をその米国企業に輸出する取引も禁じられる。同月、量子暗号など「商用暗号」の技術や製品を規制すると発表。さらに翌2021年1月、レアアースの生産管理を強化する条例案を公表した。

そして、2021年6月、反外国制裁法を制定、施行した。中国に対する差別的措置に関与した「個人・組織」を報復リストに加える(第4条)、中国国内の組織・個人は、関係部門が講じる報復措置を実行しなければならない。これに反すれば活動を規制・禁止する(第11条)、差別的措置を実行・協力した組織・個人に対して中国の公民・組織は人民法院に訴訟を提起し損害賠償を要求できる(第12条)をそれぞれ明記し、米国の中国制裁に”加担“した企業・個人を制裁する体制を整えた。

そもそも、アンケートで提起されたように「サプライ・チェーンにおいて、何次サプライヤーまで遡るのか」と言う問題がある。米アップルの最新サプライヤーリストによれば、中国企業の数は200社中51社で、台湾、日本を抜いて首位である*¹⁰。しかも、米国政府自身のこの面での方針もまだ定まっていないようだ。

昨年12月、世界銀行理事会は人権DDを巡って議論した際、議論が紛糾した。評決の末、「一次サプライヤーまでを規制」するとの方針で妥協したが、米国は棄権した。「一次サプライヤーまで」でよしとするジョン・ケリー地球環境担当特別大使とより厳しい対応を主張するNSC(国家安全保障会議)やUSTR(米通商代表部)、労働省などとの間で意見の調整ができなかったという。

現在、米議会が進めている新疆ウイグル自治州の産品への規制を強化する「ウイグル強制労働予防法案」についても、ケリー特使はナンシー・ペロシ米下院議長に、この法案が太陽光パネルのサプライ・チェーンをかく乱し、米国の再生エネルギー推進にマイナスになるとの懸念を伝達。ウェンディ・シャーマン米国務副長官も法案提を提出したジェフ・マークリー上院議員(民主、オレゴン州)に、この法案が「標的の絞り込みと思慮深さが不十分である」との危惧を表明した。しかし、通商代表部や労働省はこの法案を前向きと受け止めていると報道されている*¹¹。

 

「自衛隊が戦う前に」国民生活に脅威が及ぶ…
米国が「日本のサイバー・セキュリティの弱さ」を強く懸念するこれだけの理由(全4回の3)

かつて日本は「国家安全保障の黒字国」だったが…
経済安全保障政策を考える場合、最初に認識しておかなければならないことは、日本が、経済安全保障においては巨大な赤字国である、という冷厳な事実である。

国家安全保障においては、それぞれの国が黒字か赤字か、という視点がある。米国は国境を接している国が南北のメキシコとカナダの2カ国しかなく、東西は大西洋と太平洋の2つの大洋に囲まれており、世界屈指の安全保障黒字国(security surplus)とみなされている。ドイツ統一を成し遂げたビスマルクは「米国は北と南は弱い隣人と国境を接し、東と西は魚に囲まれている。なんと恵まれているんだ」とその潤沢な黒字への羨望を語ったものである。一方、ポーランドは安全保障の赤字国の代表である。7カ国と国境を接し、それもドイツとロシアに挟まれ、3度も領土を分割された挙句、一度は亡国の憂き目にあった。

冷戦後、日本は安全保障の黒字国とみなされてきた。米国の核の傘、前方展開(米軍基地)に守られ、隣国にはソ連以外、直接の軍事的脅威を与える国はなかった。冷戦後、それは大きく変わった。北朝鮮の核・ミサイル保有、中国の軍拡と尖閣諸島をめぐる領土紛争とそれに伴う同盟の「巻き込まれ」から「見捨てられ」のリスク、などいまや日本は安全保障の赤字国へと転落しつつある *¹。

経済安全保障においても、黒字国と赤字国は存在する。基軸通貨のドルを輪転機で刷り、オイルシェールを有し、シリコンバレーを擁し、人口ボーナスを当分の間、享受できる米国はここでも大幅な黒字国である。ドイツも冷戦後、東ドイツの安い労働力、ユーロ採用による貨幣切り下げ効果、中国市場への浸透など経済安全保障の黒字国だったが、いまは「輸出の中国依存、ガスのロシア依存」の構造によって赤字国へと反転しつつある。

一方、日本は人口減が急速に進み、エネルギー源も大きく海外依存している大幅赤字国である。しかも、日本の経済安全保障の赤字要因はフローではなくストックの赤字累積の性格が強く、構造的である。主たるストック面の赤字要因としては、エネルギー・グリーンと戦略的鉱物資源、が挙げられる。

ウクライナ問題が「エネルギー危機の始まり」に
私が主催するシンクタンク、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)では、日本の経済安全保障にとって重要かつ敏感な企業100社に対して、アンケートを実施した。アンケートは、2021年11月中旬から12月中旬にかけて電子メールで送付、回収し、合わせて28社の企業の経営トップとの聞き取り行った。

とりわけ、エネルギー(およびグリーン)の経済安全保障上の脆弱性は、アンケート(「経済安全保障への取り組み」)でも、「我が国へのエネルギー安定供給を意識した事業活動」や「資源エネルギー確保に関する包括的な取り組み」が挙げられるなど、痛切な課題として意識されている。

グローバル企業の中には価格変動ショックを回避するため再生エネルギー確保のための長期協定を結ぶなどエネルギー・電力の自給体制と囲い込みの動きが始まっている*² 。アマゾンは25年までに世界でつかう電力を再生エネに切り替える。フォルクスワーゲンは欧州に複数の太陽光・風力発電所をつくる。テスラは電池に欠かせないリチウムの鉱床を抑えようとしている*³。 化石燃料を卒業し、再生エネルギーへ転換し、脱炭素を進める少なくとも向こう30年間の過渡期(トランジション)に考えられる地経学的リスク――グリーン大動乱(green upheaval)――は、これから日本のおそらく最大の経済安全保障上の赤字要因と見るべきだろう。

2021年の欧州で起こった風力発電の不調によるガス価格の暴騰や中国の石炭火力からの急激な撤退による電力危機は「グリーン大動乱」の予兆であるかもしれない。ウクライナ危機がエネルギー危機を引き起こす引き金になる可能性もある。エネルギー(およびグリーン)をめぐる戦いは、安倍晋三政権の首相首席秘書官を務めた今井尚哉が言うように「あらゆる電源と熱源の総力戦」の様相を強めるだろう*⁴。

いまのままでは、再生可能エネルギー源へと転換すればするほど、そして脱炭素やGXを進めれば進めるほど、鉱物資源、部品・素材、サプライ・チェーンの面で海外、特に中国に依存するリスクが高まることは必至である。現在、日本で使われている太陽光パネルの8割は中国製である。

日本の次の大きな経済安全保障上の赤字要因は、レアアース、コバルト、マンガン、リチウム、ガリウム、インジウム、セレン、プラチナ、ウランなどほとんどの戦略的鉱物資源を海外に依存していることである。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が実施するレアメタル備蓄制度ではレアメタル34鉱種(55元素)を対象範囲としている。

レアアースに関していえば、拙著『地経学とは何か』(「中東は石油、中国はレアアース」、213~218)でも紹介したが、2010年のレアアース危機から7年も経たないうちに日本の高性能磁石企業3社(TDK,信越化学工業、日立金属)は中国に工場を建設し、サプライ・チェーンの中国化をさらに深める結果となった。

高性能磁石は、EV(電気自動車)のモーターでもっとも重要な部品である。日立金属は2016年、中国のネオジム磁石トップメーカーだった中科三環と合弁会社を設立した。中国側は世界最高水準の磁力を持つ同社のネオジム磁石の技術を吸収しようとしたのだ。現在、この合弁会社がテスラのモーターに高性能磁石を供給している*⁵。

「サイバー攻撃力、監視力、情報統率力、諜報力」全てが脆弱…
経済安全保障に止まらず国民の安全、生活、生活インフラを丸ごと脅かす脅威に対する国民安全保障の上での赤字もある。「国家サイバー力」、海上輸送、食糧安定供給などがその代表例である。とりわけ、「国家サイバー力」と海上輸送は脆弱性が著しい。

2021年夏のオリンピック・パラリンピックに当たっては、大会期間中の通信ブロック(サイバー攻撃)の総量が4億5000万回に達したにもかかわらず、大会運営を無事、終えることができた。専門誌、セキュリティ・マガジン誌は「東京オリンピックはサイバー・セキュリティの成功物語である」と高く評価した*⁶。

日本のサイバー・セキュリティの能力は向上してきている。にもかかわらず、日本はサイバー攻撃力、監視力、情報統率力、諜報力などのパワーを総合した「国家サイバー・パワー」は弱い。The National Cyber Security Index(NCSI)によると、日本は「サイバー脅威インテリジェンス」の脆弱性などもあって国家サイバー・セキュリティのランキングで41位に甘んじている。

日本はいまだにデータを富の源泉とするデータ経済に移行できていない。データ量を確保できないため研究開発で後れを取っている。ソフトウェア力を欠いているため、米中のソフトウェアへの依存を深めている。5G時代のサイバー・セキュリティはソフトウェア・サプライチェーン・セキュリティが一段と重要になるが、日本はここが弱いとされている。

それから、日本政府は、有事の際の基幹インフラ、それもデジタル化しつつあるそれらのインフラを防護する体制も脆弱である。発電所、変電所、原子力発電所、石油コンビナート等の産業中枢、金融中枢、大規模ダム、高速鉄道、航空機、水道、大規模病院などの基幹インフラがサイバー攻撃を受ければ、経済活動全体が麻痺する。

国民のデータやデータセンターなどデジタル・インフラの防護体制も貧弱である。すでにDXの進展に伴い、基幹インフラを含むあらゆる領域がサイバー攻撃の対象となっている。基幹インフラでは一度システムを導入した後にリスクを排除することは難しい。被害を防止するためには、設備の導入の際、事前にリスクを排除しなければならないが、そこが不十分である。

中国は「相手を殺傷せずに攻撃」してくる
また、電気も通信も、サイバー兵器を用いなくとも、強力な電磁波を出す兵器(EMP)によって機能を喪失する。さらに、宇宙のC4SIR(指揮:Command、統制:Control、通信:Communication、コンピューター:Computerと、情報:Intelligence、監視:Surveillance、偵察:Reconnaissanceの情報を統合的に活用して軍事活動を行うこと)、地上の兵器システム高度化、ドローン作戦のいずれにとっても不可欠になってきているのに、安全保障上の取り組みが遅れている。

松村五郎元陸将は、「中国が目指しているとされる超限戦は、宇宙やサイバー、電磁波を使って、相手を殺傷せずに脅迫し、自分たちの目的を達成する戦い方だ。今のままでは、自衛隊が戦う前に国民生活に脅威が及び、相手に屈せざるを得なくなってしまう恐れさえある」と警告を発している*⁷。

インターネットが個人と社会の巨大なエンパワーメントという恩恵をもたらす一方で、プライバシーと人格とセキュリティを根底から脅かす凶器ともなったことは、エマテク(新興技術)全体にセキュリティとプライバシーのディー・ディリジェンスを強化し、国際的ルールをつくらなければならないことを告げている。AI、バイオ、ドローン、いずれもそうである。

オバマ政権の大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたトム・ドニロンは、ドローンを野放しにして置くことの危険を警告し、次のように述べている。「エマテク(新興技術)の安全保障上の課題を十分に考慮しなかった失敗がまさにインターネットだった。1970年代と80年代、インターネットを開発した技術者たちはエンクリプトンとプライバシーの代わりにスピードと成長のみを追求した。我々は今、そのツケを払っている」

ドニロンはそう指摘し、インターネットの先駆けであるARPANETプロトコルの生みの親の一人で、インターネット殿堂入りしたスティーブ・クロッカーの反省の弁を引用している。「最初にセキュリティのリスクをもっと考え抜いておくべきだった。我々は、いずれ起こるだろう問題への対応ではなく、いまそこにある問題への対応だけをやっていた」*⁸

エマテク(新興技術)を社会実装する際に、セキュリティとプライバシーを後回しにする社会的、国家的コストは極めて大きい。セキュリティ意識が希薄な日本の場合、それは命取りになりかねない。インターネット学者の村井純が指摘するように日本のサイバー空間は「民間任せ」「タコツボ状態」、そして「理念・ドクトリン不在」のままスプロール化してきた 。DXの遅れを挽回するため、デジタル庁を発足させたのはいいが、その過程でデータとデジタルのインフラのセキュリティに関する政策議論は積み残された。

日本の「国家サイバー力」の弱さについては、米政府もかねてから「このままでは同盟の相互運用性(interoperability)に差し支える」との懸念を表明してきた。米政府高官は私に「米国は日本をファイブ・アイズに入ってほしいと思っているが、最大の障壁は日本のサイバー・セキュリティの弱さだ」と述べたことがある*⁹。

台湾有事の際、日本の海上輸送は危機的状況に
そして何よりも、海上ロジスティックスの赤字構造がある。日本の貿易量における海上輸送の割合は99・6%である。主な資源の対外依存度は、鉄鋼100%、石炭100%、原油100%、天然ガス98%、綿花100 %、大豆94 %、木材68 %。

トップ聞き取りでは、日本の造船産業に関して、将来への深刻な疑問が聞かれた。「日本はLNG(液化天然ガス)を年間8000万トン輸入している。世界トップクラスだ。それなのに日本はもはやLNG専用船をつくれない。韓国、中国に追い上げられ、価格面でかなわず、やめてしまった。食糧運搬船でもオイル・タンカーでも日本の造船はどんどん衰退していく」

ペルシャ湾、南シナ海、台湾海峡といった地域で戦争が起こった時、シーレーンの確保が日本の安全保障上の死活的課題となる。一般に中東産原油への依存度を「ホルムズ海峡依存度」と呼ぶが、日本の依存度は90%近くに達する。

2019年6月、安倍晋三首相のイラン訪問のさなかにサウジアラビアからメタノールを積んだ日本関連船舶のケミカル・タンカーが何者かの攻撃を受けた。後に、米国は(ドイツ統一を成し遂げたビスマルクは「米国は東と西は魚と国境を接している」とその潤沢な黒字への羨望を語ったものである)この船舶から不発だったリムペット・マイン(吸着機雷)を何者かが回収するビデオを公開し、この攻撃がイランの革命防護隊によるものだったとイランを非難した。かつてイラン・イラク戦争の際の「タンカー戦争」のように、イランは必要と見なせばホルムズ海峡の封鎖や船舶の無差別攻撃に訴えたこともある*¹³。

ペルシャ湾はなお日本のシーレーンのもっとも脆弱な急所であることに変わりはない。しかし、台湾有事の際、日本のシーレーン防衛はより直接、脅威を受ける。

日本の原油輸入の9割、天然ガスの6割がバシー海峡を通過する。米外交評議会の報告書は、台湾有事にあたって「米国は中国あるいは米国内の中国国籍の人々が所有するすべての資産を凍結する」ことや「中国とのビジネス取引やドル取引を切断するか極めて厳格に管理する」ことを提案している*¹⁰。

もし、台湾有事となった場合、そしてもし、万が一米国が中国の資産凍結に踏み切った場合、中国は日本の南シナ海から台湾にかけてのシーレーンを切断する動きに出る可能性が高い。その時、日本の海上輸送は一気に危機的状況に陥るだろう。

日本経済は「その日暮らし」状態
今日の日本政府・自衛隊には、有事の商船隊防護の準備がない。その点は、戦前と変わらない。兼原信克前国家安全保障局次長が言うように、「戦前の日本軍は戦闘重視で、後方軽視、情報軽視、民間軽視であった。それは国民を軽視した戦争だった」*¹²。

実際、エネルギーと資源と海上輸送は、戦前の日本の国家戦略の上での最大の“アキレス腱”だった。戦前の陸軍は「船舶輸送問題」を解決できないまま、日中戦争の間、7回にわたって中国へ派遣軍を送り、太平洋戦争では南太平洋の島嶼防衛に派兵した。船舶輸送に動員されたのは海軍ではなく民間の船舶会社だった。太平洋戦争中に撃沈された輸送船は小型船まで含めると7200隻以上に上る。

戦死者の比率は陸軍20%、海軍16%、動員船員43%。民間の船員が最大の犠牲を強いられたのである。広島県宇品港の陸軍船舶輸送司令部基地に光を当て、戦前の船舶輸送の失敗、すなわち「ロジスティックス敗戦」の本質を鋭く描写したのが、堀川恵子著『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』(講談社、2021年)である。

この構造的な脆弱性は、戦後直後、日本を訪れた米国の戦略爆撃調査団が著した『日本戦争経済の崩壊』でも次のように指摘されたところである。「要するに日本という国は本質的には小国で、輸入原料に依存する産業構造を持つ貧弱な国であって、あらゆる型の近代的攻撃に対して無防備だった。手から口への、まったくその日暮らしの日本経済には余力というものがなく、緊急事態に処する術がなかった」*¹³。

日本経済は、「その日暮らし」のフローでしかなく、「余力」、つまりストックがない。その点も基本的に今も変わらない。

 

中国に技術を盗まれるうちが花…
「守りに入る日本企業」が、世界に置いていかれる前に「今すぐ着手すべきコト」(全4回の4)

露わになった「日本の外的環境への脆弱さ」
国家安全保障、経済安全保障、国民安全保障に共通する課題は、有事に備える上での制度上、法制上の不具合の克服である。経済安全保障に絞ってみても、死活的に重要な産業、企業、製品、部品、素材、インフラ、ネットワーク、データなどを守るための法整備がきわめて不十分である。

例えば、電気通信事業法では、外国企業が自由に日本市場に参入できる。中国企業、ロシア企業、北朝鮮企業は自由に日本で通信業務を開始し、営業することができる。現に、チャイナ・テレコムは、日本で通信事業を開始している。電気事業法にも、外国企業の日本市場参入を阻止する条項はない。日本の事業関連法のほとんどに、外国企業の日本市場参入を規制する条項はない。従って、政府が安全保障の観点から行う民間経済活動の規制は外為法に限られている。

外国人の土地購入に対する規制もない。自衛隊基地、米軍基地、重要インフラ施設周辺を、国家安全保障上、リスクのある外国の政府や機関が取得し、偵察、監視、通信傍受などの情報収集の拠点として利用しても、規制できないし、事実さえ、把握できていないのが現状である。米国のCFIUS(対米外国投資委員会)は、外国人の土地購入を規制する権限を与えられているが、日本の外為法には、土地に対する対内直接投資を規制する条項がない*¹。

経済安全保障上の構造的な赤字が悪化しつつあることに加えて、これまで黒字として貢献してきた要因が急速に赤字化しつつあることも日本の経済安全保障をさらに脆弱にしている。これは先に述べた日本の国家安全保障上の黒字から赤字への転換とも関連している。

これまでの最大の黒字要因は、米国主導で戦後作り上げてきた「自由で開かれた国際秩序」である。往々にして、一国が台頭する時、その発展は勤勉な国民や賢明な指導者といった国内要因によるものであると人々は考えるものである。しかし、ある国の発展にとって最も重要なことは、その国が置かれている外的環境とその国が組み込まれている国際秩序のありようである。

過去70年間、日本は米国主導の自由で開かれた国際秩序から最も利益を得てきた国の一つであった。日本の戦後の繁栄は、「ユーザー・フレンドリー」な米国主導の国際秩序とルール・規範・標準、そして、この秩序を支えた日米同盟の存在によって可能になった*²。

この間、1970年代初頭、この日本の最大の黒字要因が大きく揺らいだことがある。1971年夏のニクソン・ショック――米国の対中接近とドルと金の交換性の停止――である。その直後、国際政治学者のズビグネフ・ブレジンスキーコロンビア大学教授は『ひよわな花日本――日本大国論批判』(1972年)を著し、次のように記した。

「日本に滞在するうち、日本の成功は・・・本質的に自らがつくりだせず、コントロールが及ばない外部的な状況に依存していることを強く感じざるを得なかった。私の報告書の題名が示唆するように、私は日本の突然の開花は何かとてもひ弱であるということに気がつかされた」

「日本のコントロールの及ばない外部的状況」への「依存」の脆弱性が再び、露わになりつつある。なかでも、「自由で開かれた国際秩序」の要である自由貿易体制の揺らぎである。米国が自由貿易の内政的支持基盤を失ってしまった。その傾向はオバマ政権から始まり、トランプ時代に加速し、バイデン政権になっても、変わらない。

オバマ政権はみずから主導したTPPを議会で承認させることに失敗した。バイデン政権は、「中産階級のための外交政策」の旗印の下、一段と保護主義に傾斜している。トランプ政権時代、離脱したTPP(CPTPP)にバイデン政権が復帰する可能性はほぼない。民主党左派やホワイトハウスの内政担当部局は、自由貿易や多角的交渉に強い拒否感を抱いている。

そこで、バイデン政権は、貿易交渉ではなく「経済的枠組み」という用語を用いてアジアとの新たな関与プロセスを構築しようと試みようとしている。アジア外交を担う米政府要人は、「我々は貿易という言葉ではなくサプライ・チェーンと呼ぶことにしている。貿易取引はサプライチェーン・レジリエンスと言い表す。クリーンエネルギー技術やインフラ投資などのサプライチェーン・レジリエンスが今後の有望分野となるだろう」と期待を表明する*³。

ただ、インド太平洋戦略を推進するカート・キャンベル大統領副補佐官(インド太平洋政策調整官)らは、内政的制約で貿易政策、さらにはアジア政策が十分に展開できないことに強い苛立ちを抱いているようだ。昨年11月、シンクタンクでのイベントに招かれたキャンベルはモダレーターが「手を一本、二本と後ろ手で縛られていて大変ですね」と述べたのに対して「手だけじゃない。足まで後ろに縛られているのかも」と冗談めかしつつ歎いて見せた*⁴。

日本は「自立し、自助努力をする同盟国」となれるのか
私が主催するシンクタンク、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)では、日本の経済安全保障にとって重要かつ敏感な企業100社に対して、アンケートを実施した。アンケートは、2021年11月中旬から12月中旬にかけて電子メールで送付、回収し、合わせて28社の企業の経営トップとの聞き取り行った。

アンケートでは、この国際秩序とルールの揺らぎに対して、日本が建設的な役割を果たすことへの期待の声が相次いだ。「安定した製品供給ができるよう、適切な国内生産支援とともに、他国との政策協調による、自由で開かれた通商体制を維持してほしい」、「自由で開かれた経済は日本の国力の大前提であり・・・(その)促進のための政策立案と実施を大きく期待」、「国内を頼り過ぎないでも経済安全保障を確立する国際連携」などだ。

おそらく、この点こそ、日本が最大限、役割を発揮できる分野であるだろう。日本は、米国がTPPを離脱した後、CPTPP交渉をまとめ上げる上で大きな役割を果たした。現在、英国、中国、台湾、エクアドルが加盟を申請し、韓国も加盟申請の準備態勢に入っている。

中国加盟は当分、難しいかもしれないが、「経済的威圧」の抑制や「国家安全」の乱用禁止など経済安全保障上の抑止効果をねらうとともにデジタルや環境などの分野でのルール形成に資する形で中国との政策対話を行い、一定の条件が整えば中国との交渉を開始することも選択肢として考えておくべきだろう。その際、ガット原則にある「安全保障例外」の抜け穴を使い、「国家安全」を盾に「経済的威圧」を発動する余地を中国に与えないためのルールを形成することが経済安全保障上、必要となる。

「政府への期待」の中には、「カーボンニュートラルに関する国際的な秩序作りを行わないと、日本企業の国際競争力と国内産業基盤の喪失につながる可能性が高い。安全保障上重要な産業基盤を国内に維持するため、公平な国際ルール作りを他国に働きかけるとともに、補助金を含めた国の積極的な産業支援策」を求めるとの訴えもあった。国際秩序とルール形成こそが、企業の国際競争力と国内産業基盤の強化につながる、と見るのである。補助金を含めた国の産業支援策も、この秩序とルールを再構築する営みの中で同時に整合的に行わなければならない。

戦後の国際秩序のもう一つの基盤である米国主導の同盟も、トランプ政権の間、「同盟タダ乗り」批判や同盟国に対する関税制裁などで激しくきしんだ。

米国とは同盟関係にあり、東シナ海をはじめ海洋地政学的攻勢を強める中国に対する抑止力を維持する上からも米国との関係強化を図らなければならない。日米同盟の抑止力をいかに維持するか、日本がどのようにより自立的な防衛を強化できるか、が問われている。より自立し、自助努力をする同盟国がより信頼できる同盟国となる。日米同盟は、相互運用性(interoperability)だけでなく相互依存性(interdependence)を必要とする局面へと移っていくだろう。その過程で経済安全保障面での協力が不可欠となるだろうし、日本のその面での役割も大きくなるだろう。

思い出される「日米半導体協定の教訓」
しかし、経済安全保障面での協力は同盟国と言えどもそう簡単ではないことを同時に認識しておくべきである。

半導体をめぐる同盟国間協力もその一つである。米政府はサムスン電子、SKハイニックス、TSMCなどのグローバル半導体企業に対し、表向きは「半導体不足問題を打開するため」との理由で、製品別に敏感な営業機密を提出することを要求したが、それがグローバル・サプライ・チェーンの中国“汚染(contamination)”調査を企図したと受け取られ、抵抗に逢っている。

商務省の要求する提出項目には製品別に3つの顧客名簿と顧客別売上比率、主要チップの技術段階まで含まれていた。また、自発的提出としながらも、非協力的な企業には強制的に収集する手段があると匂わしたとの反発を買った。左派系のハンギョレ新聞は、「米国は現在、半導体設計企業であるインテルに莫大な補助金まで与え、米国内に製造施設を拡充するよう誘導している。こうした状況で、サムスン電子の機密情報がインテルのようなところへ渡らないと誰が保証できるか」と批判し、米国に今回の要求の取り消しを求めている*⁵。

同じような要請は日本の半導体・部品製造メーカーにも行われたが、トップ聞き取りで、経営者の一人は、「日本政府のしかるべきところに対応で助言を求めたが、明確な返答はなかった。そちらの判断でやってほしい、とのニュアンスだった」と打ち明ける。

別の経営者は、1980年代から90年代にかけての日米貿易摩擦、なかでも日米半導体協定の事例に言及した。「あの数量協定によって日本は半導体の価格設定権を喪失させられ、それがその後の日本の半導体の凋落につながった。同盟国といっても企業はライバルでもある」。さらにもう一人の経営者は「2年前、ある米企業を買収しようとしたら、CFIUSで止められた。審査に時間を取られている間に、米国のPE(プライベート・エクイティ)ファンドに買われてしまった。米国が経済安全保障を強めれば強めるほど、日本もその反動で標的となる可能性もある。80年代のあの教訓を学び直す必要がある」と語った。

米国をはじめ同盟国・同志国との協調のもう一つの難しさは、それらの国々が対中経済安全保障政策を志向しながらビジネスの実態では中国への依存度をなお強めていることである。そして、この点は日本も変わらない。

今回、アンケートを実施したフロンテオは、AIを用いたリーガル・テック企業だが、物と技術のグローバル・サプライ・チェーンにおける「チョークポイント」と「制裁企業とのつながりの可視化」の解析、および持ち株比率による「影の実効支配者」分析を行っている。

同社の調査によると、新疆ウイグル自治区のYoungor Textile Holdingsからのサプライチェーン(下流/カスタマー)における米国企業へのパス(物品の流通経路)にはCalvin Klein、Ralph Lauren、NAUTICAをはじめ24社がつながっていた。米政府はユニクロが同社の”新疆綿“を使っているとして同社の製品の輸入差し止め措置を行ったが、はるかに多くの米企業が同社の”新疆綿“を使用しているのが実態である。

また、日本とファイブ・アイズ5カ国の企業に対する中国政府の持ち株比率に基づく実効支配力の増大調査(2016年から2021年の間の増加分)では、米国:151社→525社(3.5倍)、英国:120社→366社(3.1倍)、カナダ:36社→152社(4.2倍)、オーストラリア:263社→452社(1.7倍)、ニュージーランド:19社→91社(4.8倍)とそれぞれ増加していることが判明した。トランプ政権とほぼ重なるこの時期、ファイブ・アイズの国々の企業は中国政府への資本依存度を高めてきたのである。因みに日本はこの間、29社→60社(2.1倍)である*⁶。

中国に対抗するための米国の地経学的攻勢に、日本の企業は「巻き込まれ」のリスクを感じている。日米の政府間の経済安全保障政策対話を一刻も早く始動させ、地経学的リスクの評価と管理に関する政策調整に踏み出すべきである。

「モノづくり」は時代遅れではない
しかし、政府は経済安全保障政策の目標も対象もアプローチもなお明確に示していない。岸田政権が設置した経済安全保障担当大臣に「何を一番期待しますか」の問いに、企業(83社回答)は次のように回答している。「経済安全保障政策についての方向性を明確に発信してほしい」、「日本政府の方針の明確化(人権対応方針を含む)」、「安全保障と経済活動の両立の観点から、機微技術・情報の範囲の明確化」、「経済安全保障と安全保障、産業競争力強化の鼎立に向けた戦略の具体化」などだ。

トップ聞き取りでも、何人もがこの点を指摘した。そのうちの一人はこう言った。「政府が方針を出しくれないと、中国政府は、「個社の判断」で輸出規制をしているとみなす恐れがある。そうなると長期間にわたるリスクを背負いこむことになりかねない。アメリカの企業はアメリカの法律で線引きはっきりしている。日本ははっきりしていない」

米中双方に対する外交政策、貿易政策と環境政策、対外経済政策とアジア太平洋政策と産業政策・科学技術政策をどのように関連付け、整合的に打ち出すのか。すなわち、経済の発展と安定、国家安全保障と国民安全保障、バランス・オブ・パワーと国際秩序・ルールの維持・構築、をいかにして統合的に経済安全保障戦略として打ち出せるか、が問われている。

その際、日本の強み、つまりは経済安全保障上の黒字をどのように見据えるかが重要である。アンケートでは35・1%の企業が日本の強みとして「モノづくりの競争力優位の保持」を挙げた。経済大国の中でGDPに占める製造業比率が高いのは、中国(28%)、日本(21%)、ドイツ(20%)の三か国である。日本は依然として世界三大製造業立国に位置している。

デジタル・プラットフォーム全盛の時代、モノづくりは一見、時代遅れのように見えるが、決してそうではない。

『地経学とは何か』でも述べたところだが、第四次産業革命の新技術は社会実装の段階に入ると、先端部素材をはじめ精緻なものづくりを必要とし、データとの融合を必然とする。

韓国のサムスンバイオは米モデルナと新型コロナ向けmRNAワクチンの受託製造契約を締結し、昨年10月に韓国でワクチンの出荷を開始した。米国が開発し、韓国が製造するmRNAワクチンはいずれアジアのブースター接種需要を支えるかもしれない。製薬産業も、インテルのようなデザインハウスとTSMCみたいなファウンドリーへとビジネス分化が起こりつつあるのだ。

半導体で起こったことが合成バイオや量子コンピューティングでも起こる可能性がある。そうした時代に、日本の半導体産業が犯した“日の丸自前主義”の失敗を繰り返してはならない。国境のないオープンイノベーション型の研究開発にもっと果敢に取り組む必要がある。mRNAワクチンは、まさにオープンイノベーションの勝利を物語っている。繰り返しになるが、国家安全保障政策と異なり、経済安全保障政策においては企業が重要なプレーヤーである。日本の経済安全保障政策に最も不足しているのは、その点の認識ではないか。

日本企業は「安全保障のリテラシーが低い」?
私はかつて著した『経済安全保障論――地球経済時代のパワー・エコノミックス』(東洋経済新報社、1978年)で経済安全保障政策の要諦は、官民連携であるとして以下のように述べた。「官民の連携は国家の経済パワーをとらえる際、最も重要な要素である。私企業は利益を求め、利潤を極大化するように行動する。この行動様式はいまの富の極大化を指向するのが常態であるが故に、国家の政治の要請から来る政策目標と矛盾することもありうる。私企業の無方向のダイナミズムを統括し、方向づけ、それを国家の経済パワー行使に役立てる能力が経済連けいの基幹である」*⁷

政府は、明確な政策目標と政策手段を提示する。それによって企業の事業展開や投資判断にできるだけ「予見可能性」を与える。それが政府の責任である。政府は政策遂行において恣意的な運用をしてはならない。政府の諸官庁の間の縄張り(権限争い)とタコツボ(局所最適解と専門バカ)を克服し、明確な優先順位を示すことが最低限、その恣意性を封じ込め、予見可能性を高めることに資する。ここは政治指導力が一番、求められるところである。

経済安全保障政策は規制の強化であり、政府の市場介入である。それは自由経済を制約することであり、企業活動のコストを上げることにもなる。下手すれば、企業と経済を痛めつけ、国富と国力を傷つけることになりかねない。政府、なかでも外務省、防衛省などの伝統的安全保障を担当する部局はこの点を明確に認識すべきである。一方で、企業の方も、政府の経済安全保障強化を自由と私権の侵害の観点からのみとらえるべきではなく、また、単なるコスト増加要因ととらえるべきでもない。

海外の専門家の間からは、日本の企業の地経学と安全保障とに関する「リテラシーの弱さ(semi-illiteracy)」が効果的な経済安全保障を進める上で障壁となるのではないか、との疑問が聞かれる。「政府と企業の連携の弱さが中国に対する日本の戦略的劣位をもたらしている」と見るのである*⁸。

経済安全保障は、政府と企業の機微情報の共有を要する。場合によっては同盟国との共有をも必要とする。その際、民間人がそうした情報へのアクセスを許されるセキュリティ・クリアラス(適格性評価)の制度が求められる。

この点に関しては、「経済安全保障法制に関する有識者会議」の場において産業界側からは「『国家公務員に求められるものと同等の守秘義務』に関しては馴染みがなく・・・曖昧かつ広範に守秘義務を完全に順守することになると、事実上社内での仕事が不可能になり、特にエース級のエンジニアを参加させることに対して慎重になる」といった慎重論が表明された。公明党も人権上の配慮から慎重姿勢とされ、今回の法案に盛り込むことが見送られたと言われる。政府がこうした懸念に丁寧に応えるのは当然のことである。

しかし、企業は世界のルールと規範をよりよく守るために自らも戦うことが、自らの技術、知的財産、人材資源、機会、利益を守ることにもなるし、ひいては国家の安全保障もよりよく守ることができることを認識するべきである。

すでにサイバー・セキュリティでは内閣官房のNISC(内閣サイバーセキュリティ・センター)が運営する官民のサイバー・セキュリティ協議会の民間企業参加者に対する信用調査が行われている。経済界にも米国との共同研究開発に携わる通信情報企業をはじめセキュリティ・クリアランス制度の確立を求める声も高まっている。経済同友会も経済安全保障に関する報告書の中で「ルール形成とその背景にある戦略に関する官民の深いレベルの議論の場とセキュリティ・クリアランス制度の確立」を提言している*⁹。政府は、対象とするセキュリティの範囲を厳格に明確にした上で、セキュリティ・クリアランス制度の確立を法制化するべきである。

トップ聞き取りでは、次のような発言もあった。「収益極大化をめざすのは企業として当然だ。しかし、その企業もそのビジネス生存圏の外にはもっと大きな川が流れている、その外枠のもっと大きなリスクを政府に管理してもらい、企業はそれに協力しなければならない。企業はその認識をもっと持つべきだ」。安全保障は経済合理性の「外枠」に位置する。経済安全保障政策を追求するにあたって重要なのはこの「外枠」をも使った企業活動の活性化と資産の確保・保全、さらには国富と国力の探求である。

繰り返しになるが、経済安全保障においては企業が主体である。そして安全保障上重要かつ不可欠な企業は規模の大小を問わずにその機微技術や資産や人材を守らなければならない。基幹インフラ役務の安定的供給の設備や役務の事前審査で中小企業を“特別扱い”するとか、負担増やコスト増を理由に中小企業のセキュリティの備えに“配慮”するようなことがあってはならない。よく言われるように「セキュリティは一番弱いところのセキュリティしか確保できない(security is only good as the weakest link)。

アダム・スミスが『国富論』で記したように、「どの国家も政治経済の最大の目的は、その国の国富と国力を増大させることである」。そして、「主権国家の最初の義務は、暴力と他国からの侵略から社会を守ることである」。畢竟、「防衛は豊かさより重要なのである」。

日本はWTO(世界貿易機関)でも認められている安全保障条項を外交の道具として上手に使って来なかった。そのいわば”安保の穴“を利用する地経学的発想は希薄で、外交も臆病だった。たしかに、この”安保の穴“を乱用すれば中国のような国際秩序をかく乱する側に立つ。そこは慎重に進める必要がある。しかし、死活的な事例においてはそのような外交力に訴える局面もありうる。トップ聞き取りでも、「政府への期待は、インフラ整備、規制改革、国際交渉の3つ」との指摘があった。ルールと規範と標準の面での外交力を企業は政府に求めている。

経済安全保障には、死活的な資源・資本・データ・ネットワーク・インフラを最低限、自ら守ることができる「戦略的自立性」と外からの「経済的威圧」を抑止し、交渉上のカードにもなりうる資産を有し、動かせる「戦略的不可欠性」が求められるが、これに加えて、もう一つ政府と企業の意思疎通を密にし、国家安全保障をともに強化する官民の「戦略的対話」が要る。国家を守ることが企業利益を守ることでもあり、企業を守ることが国家を守ることでもあるという「啓発された自己利益(enlightened self-interest)」を政府と企業が共有することが大切である。

「守る」「攻める」「育てる」の三拍子で進めよ
日本の経済安全保障政策論議は、あたかも日本が「持てる国」であるかのような前提で議論が行われているきらいがある。それも日本の虎の子の技術を中国に盗まれないように、マネされないように、不等価交換されないようにと身構えた論調になりやすい。

面談の際、ある経営トップがいみじくも言ったように「盗まれないようにしないといけないが、盗まれるうちがまだ花という気もする。日本はもっと先の技術革新を目指さなければいけない。それほど中国の技術革新のスピードは速い」のが現実である。別の経営者は「日本のこの種の対応は何が何でも守るだけになりがちだ。何を守るか、そのリストをつくるだけで2,3年かかる。それに対して世界は、2~3か月ごとに変化する」と語った。

経済安全保障を「守る」視点だけでとらえてはならない。「攻める」、そして何よりも「育てる」視点へと視野を広げる必要がある。経済安全保障政策は、「守る」「攻める」「育てる」の三本柱で進めるべきである。日本の生産性と国際競争力を再び向上させ、持続的に日本の国力と国富を増大させることを考えなければならない。

ここでの最大の課題は、科学技術と研究開発、そしてイノベーションを振興させることである。アンケートでも、「基幹的な研究技術開発(R&D)強化のための政策支援、政策の方向性の明示」「長期的な視点で日本企業の国際競争力を高められる方向にリードいただき、基盤整備や研究開発の後押しを期待」といった声が寄せられた。

日本の研究機関における人材・リソース不足から基礎研究分野は明らかに先細り傾向にある。米国では国防総省予算約80兆円のうち、10兆円程度が技術開発に向けられている。それに比べて、日本の場合、科学技術予算約4・1兆円のうち、防衛省への配分は1100億円にすぎない。

経済同友会は先の報告書の中で、政府、とりわけ規制官庁の「反イノベーションバイアス」と「不作為のリスク」の克服を求めるとともに、「安全保障を担う防衛省と学術界、産業界の関係が必ずしも密接でなく、安全保障の観点からのイノベーションや機微技術が生まれにくい」と問題を提起。「新型コロナワクチン開発における日本の遅れは、こうした状況が招く国難の事例」と指摘している*¹⁰。

日本には最先端の技術革新の種(シード)は数多く撒かれている。大学の研究水準もなお高い。トップ聞き取りでも「量子コンピューティングを用いた超高性能計算力とバイオテクノロジーは大きな潜在力を秘めているのではないか」との声が聞かれた。

バイオ、なかでも合成生物学は、2021年のクアッド首脳会議でも「我々は、バイオ技術に始まり、未来の重要・新興技術の動向のモニタリングを実施しており、関連する技術の機会の特定を進めている」(首脳声明)ことが謳われた。「バイオ技術」のくだりは、この面での中国の躍進に危機感を抱く米政府の強い要請で挿入されたという。バイオ技術は、CO2を”食う“微生物の活用など地球温暖化に向けての新たな切り札となるとの指摘があり、岸田首相も2022年1月のバイオ関連11団体へのメッセージでそうした期待を表明している。

ただ、日本の場合、技術はあっても、そしてシードは存在しても、それを商業化、産業化し、社会実装するのに手間取り、結局はイノベーションにつながらず、世界に広がらず、標準化できない”ガラパゴス・フール“に終わる事例も多い*¹¹。

経済安全保障の「守る」場面では規制を強化することになる。しかし「攻める」と「育てる」場面では規制を改革する必要が生まれる。「経済安全保障法制に関する有識者会議」でもワクチンに代表されるように国産の医薬品メーカーが国内生産から撤退していった理由の一つとして「日本における法律に基づく認証のハードルやコストが高く、(医薬品メーカーは)海外臨床に取り組まざるを得ない」として、認証規制の改革を求める声が聞かれた。安全保障の観点から日本の経済法制と規制の在り方を見直すとともに、特に規制に関しては「強化」と「改革」の双方の面から精査するときである。

国家的危機には「大きな政府」と「大きなビジネス」が必要だ
最後になるが、日本の安全保障上(とりわけ危機管理を含む国民安全保障)の赤字として、国の安全保障の向上のための技術革新とイノベーションを進める体制が欠如していることを挙げたい。4兆円の研究開発予算を計上しながら、防災、防疫、交通安全、治安、防衛といった国民安全保障のためにはほとんど役立てていない*¹²。

AIとサイバー能力の面で先頭を走ることができれば、その国が核保有国であるか否か、通常兵力の観点で軍事大国かどうかに関係なく、小国であっても影響力を格段に増大させることができる*¹³。必ずしも友好国とは言えない複数の核保有国に囲まれた非核国の日本が用いる非対称的なレバレッジとしてもAIパワーと「国家サイバー・パワー」を飛躍的に強めるべきである。科学技術の研究開発を国民安全保障のために本格的に振り向けるときである。

健康安全保障、エネルギー安全保障、食糧安全保障、技術安全保障、そして国民安全保障のいずれも、安全保障と危機管理の面から政府と企業の協力関係を構築する必要がある。

危機にあっては、政府は持てる資源と手段を出し惜しみしない「大きな政府」でなければならない。米政府はファイザーのmRNA戦略に対して同社と協定を結び、⒚億5000万ドルの事前買い取りを行った。危機に備える際、政府の仕事は企業にリスクマネーを出すことである。その時、「大きな政府」は「大きなビジネス」を必要とし、その逆もまた真である、それがコロナ危機の教訓だったとニューヨーク・タイムズ紙は論じた*¹⁴。

アンケートは、コロナ危機のさなかに行われた。コロナ危機では、それに対する政府の”泥縄“対応と有事に対する日本の国家としての備えの不十分さが浮かび上がった。

それに関する次のようなコメントもあった。「今回新型コロナウイルスによるパンデミックを契機に明らかになった、国家安全保障の観点から、国民の安心・安全に直結する製品のサプライ・チェーンの整備などに期待したい」「社会インフラ的な位置づけの医薬品、医療機器・材料の安定供給確保に向けた対応は、今後コロナが収束したとしても、最優先で取り組んでいきたい」

危機に直面しても、のど元過ぎれば忘れる日本の健忘症への戒めと受け止めるべきであろう。


参考文献

(第4回の2)
*¹ Robert O Keohane and Joseph S. Nye, Power and Interdependence: World Politics in Transition, Little,Brown,1977

*² 「わが国と共産圏諸国との貿易も近時着実な発展を見つつあります。中国大陸との間にも、昨年来正常な民間貿易が進展しつつありますが、これは、あくまでも政経分離の原則に立つものであります。もとより、わが国と正常な外交関係にある国民政府との関係に改変を加えようとするものでないことはもちろん、今後国民政府との関係を一そう緊密にいたしたいと存じているのであります。」(池田勇人、「第44回臨時国会における所信表明演説」、1963年10月18日)

*³ 張啓雄・葉長城・訳出=渡辺直士「『政経分離』対『政経一体』の『名実論』的分析:戦後日本の両岸政策の形成と転換(1952-1972)」,『人文学報』、第95号、2007年3月;同著は、その前に吉田茂首相が述べた「外交は外交、商売は商売」との答弁にその”雛形“を見出すことができると指摘している

*⁴ “Dealing with China”, the Economist, March 20, 2021

*⁵ 喬良・王湘徳『超限戦』、1999年

*⁶ 『中国はなぜ軍拡を続けるのか』、新潮選書、2017年、338

*⁷ George Soros, “BlackRock’s China Blunder”, Wall Street Journal, September 6, 2021.

*⁸ 朝日新聞「経済安保 揺さぶられる日本 問われる対中バランス」、2021年3月28日

*⁹ ファーストリテイリングは、2021年8月17日、次のような声明(「新疆ウイグル自治区に関連する報道等について」)を発表している。

「ファーストリテイリンググループは、いかなる人権侵害も容認しないという方針の下、あらゆる形態の強制労働を厳格に禁止し、サプライチェーンのすべての企業にその順守を求めています。国際労働機関(ILO)などの国際機関が定める基準に沿って2004年に制定した「生産パートナー向けのコードオブコンダクト」でもこの方針を明示し、生産パートナーには、業務の再委託や原材料の調達に際しても、この内容に準拠した企業とのみ取引を行うことを求めています。

中国新疆ウイグル自治区の人権問題を懸念する各種報告書や報道については認識しています。ファーストリテイリンググループの主力ブランドであるユニクロが製品の生産を委託する縫製工場で新疆ウイグル自治区に立地するものはなく、同地区で生産されている製品はありません。また、ユニクロ製品向けの生地や糸を供給する素材工場や紡績工場で、同地区に立地するものもありません。本年3月、「オーストラリア戦略政策研究所(Australian Strategic Policy Institute:ASPI)」が発表した報告書で、ユニクロと関連付けられたYoungor Textile Holdings Co. Ltd、およびQingdao Jifa Huajin Garment Co. Ltdについては、ユニクロとの間に取引はないことを確認しています」

*¹⁰ 日本経済新聞、2021年8月21日

*¹¹ “Xingjiang supply chains under scrutiny, A new U.S. law compels companies to prove they do not rely on forced labor,” The New York Times, December 27, 2021.

(第4回の3)
*¹ James Schoff, “US Reassurance and Japanese Defense Reforms Can Improve Security in East Asia – Carnegie Endowment for International Peace”, Carnegie Endowment for International Peace, 2014. https://carnegieendowment.org/2014/03/13/u.s.-reassurance-and-japanese-defense-reforms-can-improve-security-in-east-asia-pub-55340

*² ”Green Power Purchases Shielded Some Companies From Energy Crunch,” Wall Street Journal, December 2, 2021.

*³ 松尾博文、「脱炭素時代、争奪戦は続く」、日本経済新聞、2021年12月30日

*⁴ 今井尚哉、「一世紀を見据えたエネルギー戦略を」、キャノングローバル戦略研究所、2021年9月15日

*⁵ ”Why rare earth permanent magnets are vital to the global climate economy,?” Quarts, May 14, 2021

*⁶ Dr. Brian Gant, “The Tokyo Olympics are a cybersecurity success story”,

https://www.securitymagazine.com/article/95880-the-tokyo-olympics-are-a-cyber-security-success-story

*⁷ 「防衛白書が特集した「サイバー攻撃」自衛隊元幹部が語る、日本に必要な備え」、朝日新聞GLOBE+、2021年8月4日

*⁸ Tom Donilon, “The Drone Threat Comes Home Time to Wake Up to a Growing Domestic Danger”, Foreign Affairs, January 28, 2022.

*⁹ 村井純、「日本のサイバー防衛が心もとなさすぎる3つの訳:経済安全保障の核となる領域の体制整備を急げ」、API地経学ブリーフィング、東洋経済オンライン、2021年12月27日

*¹⁰ 筆者の米政府高官との会話、2021年8月19日

*¹¹ 斎藤貢『イランは脅威か ホルムズ海峡の大国と日本外交』、岩波書店、2022年、59~60,218)

*¹² Council on Foreign Relations, ”The United States, China, and Taiwan: A Strategy to Prevent War,” February 2021.

*¹³ 兼原信克『安全保障戦略』、日経BP,2021年、72~73 [1] アメリカ合衆国戦略爆撃調査団『日本戦争経済の崩壊』、正木冬彦訳、日本評論社、1967年

(第4回の4)
*¹ 兼原信克『安全保障戦略』、日経BP,2021年、312~313、332

*² 船橋洋一・G・ジョン・アイケンベリー編著『自由主義の危機 国際秩序と日本』、東洋経済新報社、2020年、序章

*³ 筆者の米政府高官との会話

*⁴ “Biden’s Asia plans to shape China rivalry,” Japan Times, December 12, 2021.

*⁵ 米国の「半導体機密情報」要求、政府はより積極的な対応をするべき) 『ハンギョレ』、2021年10月18日;https://www.hani.co.kr/arti/opinion/editorial/1015650.html#csidx61e10a8de530f75ab8451a42fb65a1b

*⁶ フロンテオに対する聞き取り、2021年11月19日

*⁷ 船橋洋一『経済安全保障論 地球経済時代のパワー・エコノミックス』、東洋経済新報社、1978年、270

*⁸ (Yuka Koshino and Robert Ward,Japan’s effectiveness as a geo-economic actor,Adlephi paper,2022)

*⁹(「強靭な経済安全保障の確立に向けてーー地経学の時代に日本が取るべき針路とはーー」、2021年4月21日)

*¹⁰ 経済同友会「強靭な経済安全保障の確立に向けて――地経学の時代に日本が取るべき針路とは――」、2020年4月

*¹¹ ”ガラパゴス・フール“と”ガラパゴス・クール”の概念については、『ガラパゴス・クール』、東洋経済新報社、2017年)を参照

*¹² 兼原信克『安全保障戦略』、日経BP,2021年、323

*¹³ Henry A.Kissinger,Eric Schmidt,Daniel Huttenlocher, The Age of AI And Our Human Future, John Murray, 2021, 163~164

*¹⁴ ”Capitalism is amazing! (It’ also inadequate), the pandemic is showing why we need big business and also big government”, New York Times, November 19, 2021.