5月1日(金)、ハーバード大学との共催で、『日本の失われた20年の検証国際シンポジウム~経済、安全保障と歴史問題、社会』を開催しました。


5月1日(金)、ハーバード大学との共催で、『日本の失われた20年の検証国際シンポジウム~経済、安全保障と歴史問題、社会』を開催しました。「失われた20年」プロジェクトの15個のテーマのうち、3つ(経済・日中米関係・社会)にフォーカスしました。
ハーバード大学名誉教授エズラ・ヴォーゲルをはじめ、国内外の著者またハーバード大学の教授による講演とパネルディスカッションが行われました。200名を超える方々に来場頂き、質疑応答を含め、活発な議論が行われました。

共催者:Edwin O. Reischauer Institute of Japanese Studies; Weatherhead Center for International Affairs; Mossavar-Rahmani Center for Business and Government, Harvard Kennedy School; Japan Society of Boston and the Japan Foundation Center for Global Partnership

セッション1|経済(ミクロ・マクロ・アベノミックス)

失われた20年の間に続いた日本経済の停滞の原因、また生産性を上げるために今何が必要かを議論し、ミクロとマクロ経済の両方の観点から提案が出された。

プレゼンター

冨山 和彦
株式会社経営共創基盤(IGPI) 代表取締役CEO

  • 失われた20年=政策の失敗により、生産性の低い中小企業が淘汰されずに生き残ってしまい、そのような企業が多い地域のローカル経済が停滞している状態
  • 背景には、中小企業が政治家の支持基盤として圧倒的な力を持っていることがあり、こうした中小企業への助成金が支払われ続けられる限り地域経済の活性化は困難
  • 今後の政策の方針のポイントは、弱体化している企業を救うことではなく、成長している企業の雇用増加を支援すること
  • 非正規雇用から正規雇用に移りやすい労働市場を整備したり、一つの企業への終身雇用という労働者側のマインドセットを変えたりする必要がある

祝迫 得夫
一橋大学 経済研究所 教授

  • アベノミクスについては一部評価
  • 生産性の低い企業やセクターが自然になくなることを待つだけでは経済の停滞が進むばかりで、早く政策を打ち出す必要がある
  • Womenomicsなど女性の活躍を通して経済成長を促進させても効果が見られるまでには時間がかかる
  • 今経済成長を促すための選択肢としては、企業の生産性を上げること、または賃金を上げることが現実的

ディスカッサント

デール・ジョルゲンソン 
ハーバード大学 名誉教授

  • 地方経済の停滞を阻止するための一つの解決策として、各地域の地元企業を守るために設けられている規制の緩和を提案
  • 例えば、現在は企業が各地域でビジネスを行うために、その地域特定の許可証を取得する必要があるため、営業可能の範囲を広げることに対して細かいハードルが存在しており、各地域の競争率がある程度低い位置に維持されて、地元企業が守られている
  • 規制緩和をすることによって、どの地域でも企業の参入を容易にし、競争率を高めることによって、生産性の低い企業が次第に消えて行くことを提案した

モデレーター

リチャード・クーパー
ハーバード大学 教授、元米国財務次官

セッション2|日中米関係、安全保障と歴史問題

今回のイベントは、4月末の安倍総理のワシントンD.C.、ハーバード大学訪問後のタイミングに開催されたため、日本とアジアの歴史問題が米国メディアで大いに取り上げられ会場の来客者との質疑応答で活発な議論が行われた。特に、従軍慰安婦問題と靖国神社参拝が話題になっており、安倍総理が米国議会での演説で、従軍慰安婦問題について謝罪はしなかったことが注目されていた。

プレゼンター

船橋 洋一
日本再建イニシアティブ 理事長、元朝日新聞社主筆

  • 日本は今後のアジアにおける「中国に対する抑止力」的存在になるべき
  • 中国の反日感情とナショナリズムを刺激することを避けるために、従来の「パワー」ではなく「秩序を保つための抑止力」になることを提案
  • 今後の対アジア関係は米国に頼るばかりではなく、日本独自の戦略が必要

東郷 和彦
京都産業大学 教授、同大学世界問題研究所 所長

  • 靖国神社参拝問題に関する二つの解決方法の提案
    1.中立的な第二次世界大戦のメモリアルの建設
    2.靖国神社からA級戦犯を取り除く
  • 米国や国際社会がこれら日本の行動を評価することになれば、中国の首脳や外交官も協調的な姿勢を取る可能性はあると解説した

ディスカッサント

エズラ・ヴォーゲル 
ハーバード大学 名誉教授

  • 1990年代以降に日中関係が悪化した理由を中国の戦略的外交の観点から解説
    1.天安門事件に対する海外からの経済制裁が解除され、日本への依存度が低下した
    2.天安門事件以降、中国当局は国内の若者の不満の矛先をそらすために、ナショナリズムをかき立てようとして反日感情を高めた
    3.日本国内で政権交代が行われ、民主党政権は外務省と強い繋がりがなかったため外交力が弱かった
  • また、これからのアジア地域では米国が dominant power ではなくなるため、米国も今後の対アジア戦略を見直すべきだと主張

モデレーター

バラック・クシュナー 
ケンブリッジ大学アジア・中東学部日本学科 准教授

セッション3|社会(教育、労働市場)

セッション3では、労働市場や教育の在り方がどのように日本の社会システムに影響を及ぼしているのか、包括的な視点から議論が行われた。セッション1で議論の俎上に上った「日本の雇用形態の問題点」とも関連が深い。

プレゼンター

アンドリュー・ゴードン
ハーバード大学歴史学部 教授

  • 「失われた20年」に見られた雇用形態の変化の主な問題点は、非正規雇用者の増加ではなく、非正規雇用から正規雇用への移行の難しさ
  • 男女差が見られ、男性はこの10年間で非正規雇用から正規雇用に移るケースが増えているが、女性のケースはほとんど増えておらず、むしろ労働状況は悪化している

苅谷 剛彦
オックスフォード大学 社会学科および現代日本研究所 教授

  • 教育政策の失敗により、グローバル労働市場で競争出来る人材を育成できなかった
  • 教育も雇用も「村社会」に所属することが基本的なメンタリティーになっている
  • (セッション1富山氏)日本の経済の復活のために、生産性の低い中小企業が消滅し、職を失った人は生産性の高い企業に移る流れが必要
    実際は、失業者がこのような生産性の高いグローバル企業に移れない。日本の一般教育では、グローバル企業が求めているスキルや能力を今まで重視していなかったため、競争率の高いグローバル労働市場で日本人が雇用を見つけることは非常に困難

ディスカッサント

メアリー・ブリントン
ハーバード大学ライシャワー日本研究所教授

  • 日本国内の特殊な人材需要に合わせるのではなく、世界の労働市場で必要とされているスキル(ポータブル・スキル)を見に付け柔軟な対応ができる人材教育・育成制度が必要と主張

モデレーター

下田 啓
早稲田大学法学部 准教授