日本再建イニシアティブ × 東京大学理学系・工学系研究科 シンポジウム


「日本再建のための危機管理 ~復元力ある社会を目指して~」

主 催 日本再建イニシアティブ、東京大学
後 援 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン
日 時 2012年6月9日(土)  13:00~18:00
会 場 東京大学 本郷キャンパス 伊藤謝恩ホール

『日本再建のための危機管理』シンポジウム(69日)へのご来場、ありがとうございました。

約400名の方々にご来場頂き、講演や会場参加型アンケートなどを通じて原発問題のみならず危機管理全般についてお考え頂きました。

テーマ

「日本再建のための危機管理 ~復元力ある社会を目指して~」

東日本大震災や福島原発事故で浮き彫りとなった日本の危機管理の脆弱性はいかにしたら克服できるのか。自然災害やテロなど今後起こりうる危機への対応に向けて、今何を考え準備すべきか。平時からのリスク意識醸成、リスクを最小化するためのマネジメント、危機が起こってしまった時の意思決定構造、情報の共有方法・伝達手段、専門家・政府・企業・自治体・メディア・アカデミアの連携など、様々な角度から危機管理を考える。

プログラム

司会: 横山広美 東京大学 理学系研究科准教授
13:00-13:05 ●ご挨拶
相原博昭 東京大学 理学系研究科長
13:05-13:35 ●基調講演
北澤宏一 福島原発事故独立検証委員会委員長、科学技術振興機構前理事長
「福島原発事故対応に見る危機管理の本質 ムラと“空気の読み合い”」
13:35-14:00 ●特別講演
福山哲郎 参議院議員、前内閣官房副長官
14:00-15:00 ●対談セッション「絶対安全神話:なぜ危機は語られないのか」
【モデレータ】山田孝男  毎日新聞 編集委員
鈴木一人  北海道大学 公共政策大学院教授
松本三和夫 東京大学 人文社会系研究科教授
15:00-15:10 休 憩
15:10-16:10 ●対談セッション「リスクコミュニケーション:情報の伝え方・受け止め方」
【モデレータ】高橋万見子 朝日新聞 論説委員兼GLOBE記者
塩崎彰久  弁護士
大塚孝治  東京大学 理学系研究科教授
16:10-16:20 休 憩
16:20-17:30 ●パネルセッション「今後のリスク・ガバナンスはどうあるべきか」
【モデレータ】小野由美子 Wall Street Journal 日本支局長
問題提起  谷口武俊  東京大学 政策ビジョン研究センター教授
ディスカッション
鈴木教授、松本教授、塩崎氏、大塚教授、谷口教授、北澤氏
17:30-17:40 ●総 括 「復元力(レジリエンス)」
北澤宏一 福島原発事故独立検証委員会委員長

発表資料

北澤宏一 (福島原発事故独立検証委員会・委員長) 発表資料
福山哲郎 (参議院議員 前内閣官房副長官) 発表資料
鈴木一人 (北海道大学公共政策大学院教授、福島原発事故独立検証委員会・ワーキンググループリーダー) 発表資料
松本三和夫 (東京大学人文社会系研究科教授) 発表資料
塩崎彰久 (弁護士、福島原発事故独立検証委員会・ワーキンググループメンバー) 発表資料
大塚孝治 (東京大学理学系研究科原子核科学研究センター長) 発表資料
谷口武俊 (東京大学政策ビジョン研究センター長) 発表資料

シンポジウム参加者のご意見

<組織のあり方について>

事故対応マニュアルというものが完璧であればあるほど「想定外」の事態に対応しにくく、しかし想定外の事故というものは常に起こりうる。また緊急時を想定した組織づくりをしても、実際に危機が発生すると、迅速な対応を担保するためにはある程度その体制を超越した臨機応変な判断が必要になる。しかし、そうした臨機応変な対応は、法的根拠が希薄になる可能性が高い。その兼ね合いについてはどのように考えればいいのか。

危機対応における「現場」の役割と責任はどの程度認められるべきか。福島原発事故の当初対応では、上からの指示に従っていると報告しながらも実際は現場責任者の判断で指示に反した対応を行っていた例がある。専門知識のない上層部からの指示よりも現場の責任者の考える対処のほうが適切かもしれないが、そうした現場の判断の重みや判断に伴う責任をどの程度負わせるべきなのか。

福島原発事故以前にも、津波の危険性について警告していた者はいたが、彼らの声は学会では「アカデミック過ぎる」として取り上げられなかった。多数決の意思決定構造では、「多くの人が賛成するわかりやすい危機」のみにしか対策がとられない傾向がある。少数意見を汲み上げるにはどのような組織的対策が有効か

国の危機管理という観点からすると、全ての機能が東京一極に集中するのではなく、アメリカやドイツのような分散化を進めるべき。

危機管理は、属人的であるほうが、円滑に進むのか?行政の防災計画では、組織で役割分担が決まっているが、3.11を経験した後では、その実務者を軸として、組織したほうが良いと感じる。

国家的危機に対応しうる危機管理の専門家を集めた専任組織(常設)が必要ではないか。しかしこうしたスペシャリスト組織を、ジェネラリストをベースとした現行の公務員制度の中で構築できるのか。また、その際、専門性を持たない政治家との役割分担はどうあるべきか。現在目の前に起きていないリスクに関して、手間とコストを掛けてでも対策するかどうかの価値判断は誰が担うのか。

現在の組織の弱点は、責任所在が明確でないところだと思う。責任が曖昧なままでは、今後の対策はとれない。

専門家だけで構築する危機管理システムには、中央集権を強めるという別の危険性が出てくる恐れがある。産官学に加え、NPO部門の役割にも期待したい。

<危機対応>

自然災害やテロなどの危機時は迅速な政策判断が必要とされ、その政策判断の基になる情報の質が極めて重要。今回も震災発生初期における情報収集・伝達の遅れが指摘されている。情報の収集、集約、伝達、分析、対策実施のどこに欠陥があったのか。

福島原発事故の事故対応の最大の問題点はスピード感の欠如であった。処置、再発防止、リスクコミュニケーションのいずれも対応が遅く後手に回った印象がある。危機管理における「時間軸」の評価を取り入れるべき。

危機時には「公益」の維持・確保のためにどの程度「私益」を制限できるのか、前もって法律などで規定する必要はないのか。

<リスクの考え方>

ビジネスの世界では一般的に「損失×発生確率」によってリスク評価がなされる。これは分かりやすいが、時間ファクターや、受益者・リスク負担者の断絶など多様な側面を捨象し過ぎている。そのため、巨大損失、微小発生確率は見積もり誤差が大きくなりがち。新たなリスク評価方法が必要だと思う。

危機が発生してからの「クライシスコミュニケーション」と、平時の「リスクコミュニケーション」は区別して考えるべきだ。「クライシスコミュニケーション」の改善はまだしも容易だと思うが、「リスクコミュニケーション」を真に充実させるには、情報の受け手側のリテラシーを上げるところから始めなければならない。リスクが存在するということ、それぞれの発生確率、緊急時にどう対応すべきかの訓練といったことについて、国民自身も冷静に考えることが必要。

コンセンサス会議の開催など、科学者、一般市民、行政関係者などさまざまなステークホルダーの「対話」を進めるべき。

フォトギャラリー

映像