東日本大震災3周年国際シンポジウム

~リスク・ガバナンス・リーダーシップ~

国際シンポジウムは終了いたしました。 多くの方にご来場いただき、ありがとうございました。

開催報告

3月11日(火)、東京大学政策ビジョン研究センターとの共催で、『東日本大震災3周年国際シンポジウム ~リスク・ガバナンス・リーダーシップ~』を開催しました。菅直人元総理をはじめ300名を超える方々に来場いただき、会場は熱気に包まれました。 小野由美子ウォール・ストリート・ジャーナル日本版編集長の総合司会の下、グレゴリー・ヤツコ米NRC前委員長、新浪剛史株式会社ローソン代表取締役CEOのお二人による基調講演の他、ヤツコ氏、北澤宏一民間事故調委員長、伊藤哲朗前内閣危機管理監らによる「日本の危機対応について」、新浪氏、リー・ハウエル世界経済フォーラムマネジング・ディレクター、船橋洋一日本再建イニシアティブ理事長による「不確実性とビジネス」、塩崎彰久長島・大野・常松法律事務所パートナー、蛭間芳樹日本政策投資銀行BCM格付主幹ら若手専門家による「実務におけるリスク意識」など、東日本大震災発災3年を踏まえ、多岐に渡るテーマでパネル・ディスカッションを行いました。パネリストからの質問に選択方式で回答するインタラクティブなスタイルをとり、参加者の方々にもセッションにご参加いただきました。 テレビ、新聞、雑誌等、国内外のメディアからの関心も高く、多くのメディアが詰めかけ、取材を行いました。

シンポジウム要旨

基調講演(1) 「3・11 海外から見た日本の危機対応”」

スピーカー: グレゴリー・ヤツコ氏(前米国NRC委員長)

ヤツコ氏は”3.11 海外から見た日本の危機の対応”をテーマに、自らの福島第一原発事故後の対応の経験を踏まえ、危機管理や危機時のリーダーシップについて講演を行った。

同氏は危機時には「社会による情報の渇望」と、「正確な情報が欠如する中であらゆる決断を下す」という二つのプレッシャーに直面すると指摘。危機時の判断は常に不安を伴い、時にその判断は撤回や変更を必要とするが、その判断は迅速に行われるべきだとした。また、想定外の問題を対処する上で危機対応の訓練が極めて重要であると述べた。

また、リスク・コミュニケーションの重要性についても触れ、福島第一原発事故後に4号機の使用済み燃料プールが枯渇しているとNRCが予測した例を挙げて、最終的に間違っていたとしても、最悪のケースを予想し、それを公表し社会と共有することは非常に大事であると主張した。間違いを恐れ、そのケースを不透明に隠しておくほうが後になって社会からの不信感を招くからである。

その上でヤツコ氏は、危機を防ぐために全力を尽くすのは当然であるが、さらに一歩踏み込み、非常事態は起こるという前提に立ち、その影響を最小限に抑えるために、幅広な危機対応とクライシス・コミュニケーションを組み込んだ安全・危機管理のシステム構築の必要があると指摘した。


パネルディスカッション(1) 「日本の危機対応について」

コーディネーター: 城山英明氏(東京大学政策ビジョン研究センター センター長)
パネリスト:
グレゴリー・ヤツコ氏(前米国NRC委員長)
伊藤哲朗氏(前内閣危機管理監)
北澤宏一氏(東京都市大学学長、民間事故調委員長)
齋藤ウィリアム浩幸氏(株式会社インテカーCEO、内閣府参与)

本セッションでは、大震災から3年を経た今、福島原発事故を振り返り、危機対応という観点から日本が今後何をすべきかについて、パネリストたちが熱のこもった議論を展開した。
事故の教訓と課題について北澤委員長は、「『文化の問題』として切り捨てず、人事制度や法整備が重要」だとした。

齋藤氏も、危機は人的ミスにより深刻化するとし、機関や制度整備の必要性を示した上で、サイバー危機や先日の大雪被害を例にとり、現実的には日本が今もなお想定される危機に備えようとしていないことを指摘した。それは教育にも起因するとして、失敗を恐れることが原因であることを指摘、失敗をマイナスと捉えず「経験」としてコミュニケーションし共有していく大切さを強調した。

続いて、想定外への備えやクライシスコミュニケーションに重要な組織文化やセイフティーカルチャーを定着させることについてヤツコ氏は、「エンジニアには、技術のみでなく、疑問や批判的視点を持つ姿勢など別のスキルが求められる」と述べ、伊藤氏は、「科学者は不確定なことに基づいて決定を下すのに抵抗感を持つ傾向があるが、危機時の判断や対応には“巧遅より拙速”が求められる」とした。また様々な危機への対応力を持つ人材の育成についてヤツコ氏は、組織としての観点からNRCを例にとり、個人のやりがいを尊重し、多彩なスキルを有する多様な人材を有することや柔軟性に富んでいることが必要であると述べた。齋藤氏も、様々な危機への対応力を持つための組織の“ダイバーシティ”の重要性を訴えた。更に、一旦行動を始めても途中修正や微調整ができるよう、間違ったら変えていいとする意識、「変えられる力」の大切さを強調した。
最後にファシリテーターが、上記の意見を実現していくためには、セキュリティーから技術まで俯瞰した仕組みづくりが重要というまとめを行った。


基調講演(2)  「リスク・ガバナンス・リーダーシップ再考」

スピーカー: 新浪剛史氏(株式会社ローソン 代表取締役CEO)

東日本大震災当時、ローソンは三陸の海岸に数多くの店舗を構えており、多くの店舗が津波で流された。そのような危機時に社長として何を大切にし、行動したのか。新浪氏は当時のケースを交え、危機時におけるリーダーのあり方について語った。

はじめに同氏は、危機時のリーダーシップのとり方に重要なものとして、企業理念の浸透について語った。「危機対応時にどういう判断基準で社員や現地の加盟店が意思決定をするかということが、あらかじめ組織の中にどれだけ浸透していたかが大変重要だ」と話し、組織内における企業理念の共有の徹底が危機時の意思決定にとって肝要だと強調。しかし同時に同氏は、「企業理念の浸透が簡単ではない」ことも指摘。短期間では収益の向上に繋がるわけではないため、株主や従業員の同意が得られにくいためだ。そのうえで同氏はなお、従業員の企業理念の共有が災害時における適切な対応を導くとの考えを示し、普段からいかに企業理念を組織に浸透させていくかということが、目に見えないリーダーシップであるとした。また、ガバナンスについて同氏は、震災直後に社員をボランティアとして派遣したことを例に出したうえで、「(現場の詳細が分からないのに)東京(の本部)が出てきて『あれをやれ、これをやれ』と指示することのは絶対にやめた方がいい」と語り、本部から現場への権限移譲をさせることが大切であると強調した。

パネルディスカッション(2) 「不確実性とビジネス」

コーディネーター: 船橋洋一 (RJIF 理事長)
パネリスト:
新浪剛史氏(株式会社ローソン 代表取締役CEO)
リー・ハウエル氏(世界経済フォーラム エグゼクティブディレクター)

本セッションでは、当財団理事長の船橋をモデレーターとし、株式会社ローソンCEO 新浪剛史氏と世界経済フォーラムエグゼクティブ・ディレクター リー・ハウエル氏が、おもに優れたリーダー像や、リーダーを育成するための教育とは何かについて議論した。

優れたリーダー像についてリー氏は、決断力があり、思慮深く、物事を俯瞰的に見ることが出来る人だと主張。またそのような人材を発掘する方法については「非常に難しいこと」としつつも、「全体的な個人評価システムを作るべき。たとえ目標を達成できなかったとしても、目標設定とそれに対するアプローチの仕方に着目することで(誰にリーダーの資質があるか)わかってくると思う」との見解を示し、過程に注目することでリーダーの資質を見極めることが出来るとの考えを述べた。

また船橋はリーダーの育成について、リーダーというものは経験を積んで成長するものなのか、それとも天性のものなのかという議論を投げかけた。それについて新浪氏は、リーダーの資質は「センス」も重要であるとしたうえで、どういうタイプのリーダーになるかはその人が育ってきた文化や組織の特性によって変わってくるとし、「『自分で決める』ということを、どれだけ早いタイミングでトレーニングされているかということが重要」との主張を展開。「自分の人生を賭けるような重大な決定をどれだけしてきたかというのが、リーダーとしては重要な要素だ」とも話し、決断の経験を積ませることがリーダーの育成に必要不可欠なものであるとの考えを示した。


セッション 「実務におけるリスク意識」

浅野大介氏(資源エネルギー庁 石油精製備蓄課 課長補佐)
塩崎彰久氏(長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士)
蛭間芳樹氏(DBJ環境・CSR部BCM格付主幹)

本セッションでは、現場から見た危機対応の具体例、実務におけるリスク意識やリスクマネジメントについて議論した。はじめに、蛭間芳樹氏(DBJ環境・CSR部BCM格付主幹)、浅野大介氏(資源エネルギー庁 石油精製備蓄課 課長補佐)、塩崎彰久氏(長嶋・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士)が各15分程のプレゼンテーションを行った。蛭間氏は「リスク」の定義について、続いて浅野氏は日本のガバナンスが危機時に抱える弱みと課題を政府の観点から提示し、塩崎氏は危機時におけるリーダーシップの重要性を提起した。

ディスカッションでは、はじめに「リスク」の定義について議論した。ガバナンスについては、危機時に現場の情報が東京に入ってこないため適切な対応ができず、かといって政府が自らアクションを起こす「文化」がないため、日本の公務員が本来ならできたはずの最大限のオペレーションが行えなかったとの指摘が、先日の山梨の大雪の事例を含めてなされた。こうした現状を踏まえ、日本政府が米緊急事態管理庁のような『指導型官庁』を設立する是非について討議した。また危機時のリーダーシップを習得するには「最悪のシナリオ」を常に想定することを通じ、災害時の「トリアージ」と同様、危機時の優先順位を明確化することが重要という指摘がなされた。非常時に現場がリーダーシップを発揮しコミュニケーションを円滑にとるためには、あらゆる想定外のことが起こると意識して模擬訓練を平時に繰り返し行うことが不可欠だと結論付けた。

開催概要

東日本大震災から3年。震災や原発事故で浮き彫りとなった日本の危機管理の脆弱性への対応はどれほど進んでいるでしょうか。グローバル化の急速な進展に伴い、遠く離れた場所での出来事の影響が瞬時にそして幅広く世界中で壊滅的な状況を引き起こす懸念が高まっています。グローバルなリスクを考え直すことで、そうしたリスクが現実化してしまった際の損害の軽減に向けた準備を整えるだけではなく、リスクへの備えを革新と成長の機会として企業活動に活かすことも可能となります。

本シンポジウムでは、基調講演にグレゴリー・ヤツコ前アメリカ合衆国原子力規制委員会(NRC)委員長、新浪剛史 株式会社ローソン代表取締役CEO、そして海外特別ゲストとして世界経済フォーラムのリー・ハウエル氏をお迎えし、国際的な視点から「リスク・ガバナンス・リーダーシップ」のあり方を考えます。国家レベルの“日本の危機対応”から、“リスクマネジメントやガバナンスをビジネスにどうつなげていくか”までをテーマに議論を展開していきます。ぜひ “危機が起こった際、自分はどう行動するか”を意識しながらご参加ください。

日時 2014年3月11日(火)10:00~19:30
会場 東京大学 本郷キャンパス 伊藤謝恩ホール
参加費 無料
主催 一般財団法人日本再建イニシアティブ、 東京大学政策ビジョン研究センター
協力 株式会社日本政策投資銀行
後援 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン

出演者

基調講演1

グレゴリー・ヤツコ氏 前アメリカ合衆国原子力規制委員会(NRC)委員長

基調講演2

新浪剛史氏 株式会社ローソン 代表取締役CEO

海外特別ゲスト

リー・ハウエル氏 世界経済フォーラム(WEF)エグゼクティブディレクター


(*五十音順)

浅野大介氏 経済産業省 資源エネルギー庁 石油精製備蓄課課長補佐
伊藤哲朗氏 前内閣危機管理監
北澤宏一氏 東京都市大学学長福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)委員長
塩崎彰久氏 長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士
城山英明氏 東京大学政策ビジョン研究センター センター長
蛭間芳樹氏 株式会社日本政策投資銀行(DBJ) 環境・CSR部BCM格付主幹
前田正史氏 東京大学理事・副学長
船橋洋一 一般財団法人日本再建イニシアティブ(RJIF)理事長

プログラム(予定)

10:00-10:10 ●開会のご挨拶 前田正史氏( 東京大学理事・副学長)
10:10-10:55 ●基調講演(1) 【同時通訳】 “3・11 海外から見た日本の危機対応” グレゴリー・ヤツコ氏(前米国NRC委員長)
11:00-12:15 ●パネルディスカッション(1) 【同時通訳】 “日本の危機対応について” コーディネーター: 城山英明氏(東京大学政策ビジョン研究センター センター長) パネリスト: グレゴリー・ヤツコ氏(前米国NRC委員長) 伊藤哲朗氏(前内閣危機管理監) 北澤宏一氏(東京都市大学学長、民間事故調委員長)
12:15-13:30 休憩
13:30-14:15 ●基調講演(2) “リスク・ガバナンス・リーダーシップ再考” 新浪剛史氏(株式会社 ローソン代表取締役CEO)
14:20-15:40 ●パネルディスカッション(2) 【同時通訳】 “不確実性とビジネス” コーディネーター: 船橋洋一 (RJIF 理事長) パネリスト: 新浪剛史氏(株式会社ローソン 代表取締役CEO) リー・ハウエル氏(WEF エグゼクティブディレクター)
16:00-18:00 ●セッション “実務におけるリスク意識” 浅野大介氏(資源エネルギー庁 石油精製備蓄課 課長補佐) 塩崎彰久氏(長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士) 蛭間芳樹氏(DBJ環境・CSR部BCM格付主幹)
18:00-18:10 ●閉会のご挨拶 船橋洋一 (RJIF理事長)
18:10-19:30 懇親会