米中対立が熾烈化するなか、ポストコロナの世界秩序はどう展開していくのか。アメリカは何を考えているのか。中国は、どう動くのか。大きく変化する国際情勢の動向、なかでも刻々と変化する大国のパワーバランスについて、世界の論壇をフォローするAPIの研究員がブリーフィングします(編集長:細谷雄一 研究主幹、慶應義塾大学法学部教授)
本稿は、新潮社Foresight(フォーサイト)にも掲載されています。
https://www.fsight.jp/articles/-/50022
https://www.fsight.jp/articles/-/50023
https://www.fsight.jp/articles/-/50024
https://www.fsight.jp/articles/-/50026
API国際政治論壇レビュー(2023年第Ⅱ号)
2023年8月29日
API 研究主幹、慶應義塾大学法学部教授 細谷雄一
画像提供:Bandar Algaloud/Courtesy of Saudi Royal Court/Reuters/Aflo
1.グローバルに影響力が拡大する中国
■中国「仲介外交」はどう評価されたか
現在中国は、ウクライナでの戦争が続く中で、外交活動を活発化させて自らのグローバルな影響力の拡大を試みている。たとえばそれは、2023年2月21日に中国外交部が発表した「グローバル安全保障イニシアティブ(Global Security Initiative)」の構想に現れている(1-①)。そこでは、中国が「共通・総合・協調・持続可能な安全保障観を堅持」することが掲げられており、またさらには「各国の主権及び領土的一体性の尊重の堅持」の重要性が論じられている。
平和へ向けた中国外交の攻勢は、中東やアフリカなどの地域において活発に示されている。
上海外国語⼤学中東研究所教授の丁隆は、『環球時報』の論稿において、サウジアラビアとイランの国交正常化に際して中国が果たした仲介的な役割を礼賛する(1-②)。2023年3月10日に、それまで中国で4日間にわたって非公式協議で進められていたサウジアラビアとイランとの間の国交正常化の協議が、合意に帰結した。丁隆はこれを、「グローバル安全保障イニシアティブの成功例」として賞賛する。すなわち、「サウジアラビアとイランの北京での会談で成果が出たことは、両国だけでなく中東と世界の平和にとって喜ばしいことである」。
昨年12月に習近平国家主席は、サウジアラビアを国賓として訪問していた。さらには、イランのエブラヒム・ライシ大統領が今年の2月14日に北京を公式訪問し、習近平主席と会談を行っている。それゆえ、「サウジ、イラン両国の北京での対談は、中国の真剣な態度が信頼を得たということ」であり、また「これは、グローバル安全保障イニシアティブの成功例であると言える」。さらに次のようにも論じている。「サウジアラビアとイランの対立が、中国の仲介により解消されたことは、グローバル安全保障イニシアティブに先見の明があり、対立を解消するための役割を果たしていることを意味する」。
それでは、「仲介外交」への中国国内での自画自賛は、国外ではどのように報じられ、どのように評価されているのだろうか。
シンガポールの中国語系新聞である『連合早報』の社説では、中東情勢の将来の見通しの流動性を指摘しながらも、中国の仲介外交を一定程度肯定的に評価している(1-③)。イスラエルへの関与に偏重するアメリカの影響力が現在の中東では限定的となっており、それゆえイスラエル自らも北京での影響力を強める努力をしている。また同社説は、サウジアラビアとイランの将来の関係が依然として流動的であることを前提にしながらも、中東で中国の影響力が拡大する見通しを示す。米中対立がより多くの地域で世界大に展開している現状と、中国の影響力拡大が米中関係に及ぼす影響とを冷静に論じている。
他方で、中東情勢に詳しいカレン・エリオット・ハウスは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙にこのサウジアラビアとイランの国交正常化に関連した記事を寄せている。そして、中国の仲介外交によって合意が実現したことを「衝撃だ」と記している(1-④)。
ハウスによれば、「より衝撃的なのは、いずれも中東での戦争が自らの大いなる野望を妨げ得ると懸念を抱いている、中国とサウジアラビアとの間の協力である」。というのも、「ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は2030年までに、サウジを世界の主要国へと変貌させる決心をしており、他方で習近平国家主席は世界の超大国たる米国に取って代わろうとしている」からだ。
さらに、ハウスは「この地政学的変化は、10年にわたって米国のリーダーシップが低下してきた帰結である」ことの重要性に言及する。確かに、中国がそのような役割を担うことができた背景として、オバマ政権やトランプ政権がこの地域におけるアメリカの関与を縮小してきたことが指摘できる。他方で、これもハウスが論じるように、おそらく「中国は、自らが中東の警察となることを望んでいない」。むしろ、中東の石油供給に依存する中国が、この地域での地政学的なリーダーシップを強化しながら、さらに中東紛争のリスクを低下させて、インド太平洋での米中対立を自らにより有利に展開することが目的であろう。
『連合早報』とハウスいずれの論稿でも、必ずしも中国の仲介外交を手放しで賞賛することはなく、またサウジアラビアとイランの国交正常化後の外交関係を楽観しているわけではない。だが、アメリカの中東での影響力低下が、このような中国の行動の余地を拡大していることは看過できない現実であろう。
それでは、アメリカの国際的影響力の低下が指摘される現実を、中国はどのように観ているのか。
■米同盟国の「プランB」と中国の「自負」
中国国際問題研究院アメリカ研究所所長の沈雅梅は、「アメリカ外交の失敗例の増加の本質はどこにあるのか」と題する『環球時報』の論稿のなかで、その原因が「時代錯誤の覇権主義にある」と指摘する(1-⑤)。
沈雅梅によれば、今世紀に入ってからアメリカ外交の成功例は減少し、失敗例は増えているという。すなわち、トランプ主義の流行、アフガニスタンからの撤退、ウクライナ危機、イラン核合意交渉の停滞などが、その顕著な失敗例といえる。「アメリカはもはや、世界で唯一の仲裁者ではない」のだ。
そして沈雅梅は、主要な問題はアメリカの一国覇権主義的な、「十字軍的行動」にあると指摘する。「アメリカ外交はゼロサム思考により、常に拡張主義的、対抗的な性格を帯びている」「このように、やり方が強引であれば、求心力はなくなるだろう」。またアメリカ国内では政治の分極化が進み、貧富の差が拡大し、政権交代により外交の一貫性と信頼性が欠落するとも述べている。このように、アメリカが国際的な影響力を低下させる中で、中国がそれに代わって国際的に指導的な地位に立つべきだと自負する論稿が、中国で近年増えていることは一つの傾向といえるだろう。
中東研究を強みとするアメリカの独立系シンクタンクのニューライン研究所に所属する、中央アジアを研究するユージン・ショーソヴスキィの論稿は、積極化する中国の外交を理解する上で有益である(1-⑥)。
ショーソヴスキィは、ロシアによるウクライナ侵攻から中国が得られる最も重要な教訓は、侵略国への米国主導の対抗措置に、中国が経済および外交の領域でどのように応ずべきかにあるという。その上で、中国はその教訓を、台湾に圧力をかける際に応用するだろうと予測する。
より具体的には、「中国が台湾に侵略する場合、最低限中立となる国を複数確保することが有効であることが明らかになった」のであり、「中国はすでにこの試みを始めており、『一帯一路』構想を推進し、イランやサウジ、ロシアなどと関係を強化している」。中国がこうした国々と関係を強化しているのは偶然ではない。台湾はサウジから石油を、ロシアからは天然ガスを輸入している。だとすれば、「中国はこのような台湾が依存している諸国を使って、圧⼒をかけてくるかもしれない」。
世界におけるアメリカの影響力低下は、同盟国を不安にさせている。アメリカの著名な外交コラムニストのウォルター・ラッセル・ミードが『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に寄せた論稿の中で、そのような見解が示されている。ミードは、日本経済新聞のコメンテターである秋田浩之との対話を振り返って、アメリカの同盟国が「プランB」を検討するようになっているという秋田の指摘を紹介する(1-⑦)。すなわち、冷戦後のアメリカ主導の秩序のなかでは、ドイツや日本にとって低コストで平和と繁栄を享受できる好ましい国際システムを維持するための選択肢が、いわば「プランA」であった。他方で、後退するアメリカの影響力を補完するために同盟国がより大きな役割を担うことが、「プランA+」であろう。だが、中国やロシアの脅威が拡大し、アメリカの行動がより予測不可能となり、信頼ができなくなるとすれば、これまでとは異なる選択肢として、新たな「プランB」を考慮しなければならなくなるだろう。
ミードは、中東ではすでに「プランB」への移行が始まっており、一部の諸国はロシアとエネルギー政策で協力し、さらにはイランやシリアとの関係を回復させる中で中国に接近しているという。その一つの帰結が、サウジアラビアとイランとの外交関係を強化して、両国の国交正常化を仲介した、中国の外交活動であった。このままアメリカの信頼が低下すれば、世界のより多くの諸国が「プランB」に傾斜して、中東同様の傾向が見られるようになるであろう。
■グローバル・サウス諸国のヘッジング戦略
「グローバル・サウス」という言葉が広く世界で浸透していくと同時に、アメリカ主導の国際秩序がいまや大きく揺らぎ、修正が求められている。
ジェトゥリオ・ヴァルガス財団サンパウロ校教授で、国際関係が専門のマティアス・スペクターは、『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄せた「中立的態度を擁護する」という論稿のなかで、多極化する世界の中で大国間競争に巻き込まれないように、グローバル・サウス諸国がヘッジング戦略を選択する現実を解説する(1-⑧)。
スペクターによれば、グローバル・サウス諸国がロシア・ウクライナ戦争で明確な立場を決めることを避けているのは、経済的利益の確保や中ロとのイデオロギー的連帯というよりも、単純に米中ロの諍いに巻き込まれたくないという理由があるからだ。行動の自由を求め、不確定な将来に備えて多様なオプションを用意するグローバル・サウス諸国のそのような論理が、欧米諸国の中では適切に理解されていない。ただしスペクターは、このような国々は自動的に西側世界に追従することは避けながらも、中ロ両国への失望も拡大させていることを強調する。むしろ、アメリカにとっては新たな機会が拡大していると見ることも可能なのだ。
ロシアや中国の国際的な信頼が後退しているという指摘は、適切なものといえそうだ。韓国の元外交通商相の尹永寛(ユン・ヨングァン)が『プロジェクト・シンジケート』に寄せた論稿によれば、米中対立の構図の中で近隣諸国をいじめ、自らの要求を強引に通そうとする中国の行動は、失敗を続けている。のみならず、民主主義諸国がアメリカを中心に結束を強めて、中国に対抗する反中連合のような枠組みを構築することを推進している格好だと述べる(1-⑨)。
とりわけ、韓国やオーストラリアではそのような傾向が色濃く見られる。韓国においては、2016年のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備の決定を受けて中国が韓国に過度な経済制裁を加えたことが韓国国民の対中認識悪化を招き、現在の尹政権もそのような世論を踏まえて、アメリカや日本との関係強化を進めようとしている。確かに、現在の韓国保守政権の対日および対米接近を、そのような視点から理解することも可能であろう。
他方で、アメリカなどの西側諸国のアプローチにも問題がないわけではない。このような視点を提示するのが、ブラジルのABC連邦大学の准教授であるジョルジョ・ロマーノ・シュッテによる「西側の終わり」と題する挑発的な論稿だ(1-⑩)。すなわち、ブラジルをはじめとするいわゆるグローバル・サウスの国々は、NATO(北大西洋条約機構)を中心とする西側諸国に盲目的に追随するつもりはない。ウクライナでの戦争は、欧州諸国の指導者たちが非西欧諸国、いわゆるグローバル・サウスの見解や期待を理解していないことを露呈し、それらの諸国はNATOやアメリカが掲げるナラティブや政策に盲⽬的に従うことはないであろう。というのも、NATOやアメリカが、国際社会での共通の声を代弁しているわけではないからだ。
シュッテによれば、ドイツにとってのウクライナでの戦争が「転換(Zeitenwende)」を意味するとしても、グローバル・サウス諸国にはそうではない。グローバル・サウス諸国が自らの意見を持つことを米欧が批判するという道徳的な傲慢さは、懐疑的に捉えられるべきことだとされる。昨今の出来事は飢餓や貧困、環境問題、そしてパンデミックなどに対して適切な国際協力が必要なのだという認識をグローバル・サウスの国々に強く印象づけた。この全体的な文脈においては、中国は発展途上の多くの国々の最も有効なパートナーであり、ロシアは大した問題ではない。シュッテの西側中心の世界は終わったとする観点に立てば、ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領が中国を訪問して、西側諸国のウクライナへの武器供与を批判した論理は、より的確に理解できよう。
結局のところ、国際社会の多くの諸国は、米中いずれに対しても様々な不満を抱いており、同時にその双方と緊密な関係を構築することが国益と考えているのだろう。そのような現実を前提にするならば、従来論じられてきたような中国との「デカップリング」を実現することは容易ではなく、むしろ対中関係でのリスクを極小化した上でより健全な関係を構築する「デリスキング」がより重要となる。
フィナンシャル・タイムズ副編集長(当時。現在は寄稿編集者)のフィリップ・スティーブンスは、アメリカ国内でどれだけ対中強硬派が声を上げても、実際にはバイデン政権が北京との経済関係を断ち切ることはないと想定する(1-⑪)。
またスティーブンスによれば、EU(欧州連合)もNATOも中国を「ライバル」「挑戦」として見るようになっているが、それは対中経済関係を断念することを意味しない。つまりアメリカとヨーロッパの対中政策は、「デリスキング」戦略に象徴されるように、一つの方向性に収斂しつつある。中国の外交官たちが続けてきたアメリカとヨーロッパを分裂させる工作は、明らかに失敗したというスティーブンスは捉えている。そして実際、米欧間での対中戦略の収斂が、好ましいことであるのは間違いない。
他方で、中国も必ずしもアメリカやヨーロッパとの関係を一方的に悪化させることを望んでいるわけではない。そのことは、たとえば中国を代表する国際派で知米派の国際政治学者、賈慶国北京大学教授の『環球時報』での論稿にも示されている(1-⑫)。
「アメリカには米中関係の改善を希望する人が多くいる」と題するこの論稿では、コロナ禍で米中間の人的な交流が大幅に減り、アメリカではこの数年間、SNSで誘導される一部の政治家やメディアの偏った見解が人々の間に広まったとする。他方で、コロナ禍が収束して賈慶国自らがアメリカを訪問してさまざまな会合に参加した結果、アメリカには米中関係の改善と安定化を望む人が多くいることを知ったという。
それゆえ、米中関係を健全な発展の軌道へと戻すことが可能なはずだ。同時に、民間交流が重要になる中で、中国の学者がより積極的に海外へと訪問し、とりわけ若手の中国人研究者が対外交流を増やす必要があると賈慶国はいう。欧米の政治家やメディアが中国への誹謗中傷を続ける中で、中国の学者が中国の実像を話し、伝えることが重要だと指摘する。
同様に、世界的に著名な中国人の国際政治学者である王緝思北京大学教授は、アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)のスコット・ケネディーとの、「米中は対話しなければならない」と題する『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄せた共著論文の中で、これまで以上に対面で対話し、相手国を訪問することが重要だと述べている(1-⑬)。今や、米中関係は国交正常化以降、最悪な状況に陥ってしまい、世界中の政府関係者や有識者がこの両国が単に冷戦に留まるのではなく、熱戦へと突き進んでいくのではないかと王とケネディは懸念している。また、この3年間で両国内での相互の認識が急激に悪化し、米中関係悪化の原因が相手にあり、相手の行動は非合理的で攻撃的だと互いに考えるに至ったという。
さらにこの論稿では、中国の政策コミュニティはNATOの東方拡大がロシアのウクライナ侵略を動機付けたと見なすと同時に、彼らの多くがロシアを支持する習近平政権の政策にも批判的だとの興味深い指摘もなされている。また、ウクライナへの過度の関与・支援強化が中国を台湾侵攻に走らせるのではないかという一部の米有識者の懸念を踏まえつつ、中国側はウクライナ戦争によってむしろ抑制的な行動を示すようになったとの議論も展開される。
確かに、米中両国は相互の理解が十分ではないがゆえに対立と緊張を高めてしまっている部分もあろう。両国は相手国の学生、研究者、企業関係者、ジャーナリストの自国訪問を歓迎するべきであり、それらの活動を保障しなければならない。
2.中国のウクライナ和平和提案
■存在の誇示と限界の自覚
中国政府にとって、ロシアのウクライナ侵攻に対してどのような姿勢を示し、自らの立場をどのように国際社会に発信していくかは悩ましい問題である。一方では、開戦前の2022年2月4日に、習近平主席のウラジーミル・プーチン大統領との首脳会談の席で「際限のない友情」を示し、中ロ両国間の緊密な関係をアピールしながら、他方で、国際法上違法性の高い侵略によって国際社会から非難をされるロシアとは距離を置きたい意向も見られる。
ちょうど開戦から1年が経過した2023年2月24日、中国の外交部は、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題する、12項目からなる包括的な和平提案を示した(2-①)。
12項目は、「国家主権の尊重」、「冷戦思考の放棄」、「戦闘の停止」、「和平交渉の開始」、「人道危機の解決」、「民間人と捕虜の保護」、「原子力発電所の安全の確保」、「戦略リスクの低減」、「食糧サプライチェーンの保護」、「一方的な制裁の停止」、「産業サプライチェーンの安定性の確保」、「戦後復興の推進」によって構成される。内容としては、これまで中国政府が繰り返し示してきた一般原則を繰り返すに止まり、和平へ向けた具体的で実行可能な提案が含まれているわけではない。ただし、これによって中国はロシア・ウクライナ戦争の和平へ向けた一定の貢献を行っている姿勢を示そうとしたのだろう。
翌日の『環球時報』には、この「中国の立場」を解説する記事が掲載され、「中国は常に客観的で公正な立場を維持し、問題の根本から認識して独自に判断を下し、国際社会との協力の上での対話と協議を推進してきた」との主張が展開された(2-②)。この記事は、「中国の立場」の3日前に公表された「グローバル安全保障イニシアティブ」についても言及しており、「対話と交渉による政治的解決」の道筋と、「グローバルな問題解決の構想」が示されているとの解説がなされた。
だが、ここでも抽象的な言葉と一般的な中国外交の原則が繰り返されるだけで、ロシアやウクライナが受け入れ可能な具体的な和平の道筋が示されているわけではない。あくまでも「中国の立場」の12原則の意義を繰り返し唱えるに過ぎない。当然ながら、このような中国政府の提案が、ロシアとウクライナ両国の政府に真剣に取り上げられ、実践される見通しはない。
ウクライナ危機への中国外交の手詰まり状況を裏づけるように、2月27日には復旦⼤学国際問題研究院教授の趙明昊が、「ウクライナ危機に対する中国の影響力を誇張してはならない」と題する論稿を発表した。そこでは、中国のウクライナ危機に対する影響力が限られており、米中ロの地政学ゲームが飛び火して対立が悪化することに警戒すべきだと論じられている(2-③)。
同時にこの論稿は、プーチン大統領の「特別軍事作戦がうまくっていないことは明らかだ」「これは明らかにウクライナの抵抗を過小評価し、NATOの足並みの乱れを過大評価した結果だ」とも指摘する。また、プーチンは西側の経済戦争の影響は受けていないと分析しつつも、「ロシアが長期間の消耗戦を戦うことは非常に困難だろう」との冷静な予測も記された。さらには、ウクライナ危機の平和的解決の糸口は見つからず、中国にもたらす負の影響は増えているとして、「中国に対して非現実的な希望を抱くべきではない」とも言及した。これは、中国政府にとってロシア・ウクライナ戦争が困惑を生じさせる要因であり、そこへの影響力の限界が自覚されていることも示しているだろう。
■西側は「12項目の和平提案」をどう評価したか
この中国の12項目の和平提案に対しては、西側諸国では否定的な評価が目立った。たとえば、ノルウェー防衛研究所のシニア・チャイナ・フェローで元ノルウェー外交官であるヨー・インゲ・ベッケヴォルは、「中国のウクライナへの『和平案』は平和のためのものではない」と題する論稿を寄せ、中国政府の主眼はこの和平案を通じて、グローバル・サウス、ヨーロッパ、そして戦後のウクライナという三者に対し、自らの立場を強化し、アメリカに対抗することにあると解説する(2-④)。
この和平案は、「ヨーロッパとの関係をリセットする」という中国政府の思惑と不可分の一体となっており、最大の安全保障上の脅威が、中国ではなくてロシアにあると印象づけようとしているとベッゲボルトは述べている。確かに独仏のような欧州諸国も、二極化した世界には反対という立場を表明し、その点では中国と見解が重なっている。だが他方で、ウクライナが求める和平の前提が自国領土の回復にあるならば、それが実現されるようロシアに対して圧力をかける意志が中国になければ、自らの和平を進めることは困難であろう。それゆえ、中国政府の思惑は「平和のため」というよりも、むしろヨーロッパとの関係で自らの立場を改善し、強化することにあるのだろう。
米外交問題評議会の欧州担当フェローであるリアナ・フィックスと、オバマ政権では国務省政策企画室で勤務した経験を持つマイケル・キメージの『フォーリン・アフェーズ』誌における共著論文、「中国はいかにしてウクライナ戦争でプーチンを救済できるのか」においても、この戦争における中国の政策的意図について論じられている(2-⑤)。
フィックスとキメージは、ロシア・ウクライナ戦争では中国には「3つの国益」があるという。それは、第1にプーチン体制の崩壊を防ぐことであり、第2には国際秩序への自国の影響力を拡大すること、そして第3には戦後も中国が十分な影響力を保持することである。これらはいずれも、中国にとって重要な国益となるために、中国がこの戦争で傍観者になることはない。換言すれば、アメリカがこの戦争での勝者になって、戦後にその影響力が拡大するような趨勢は好まない。同時に、戦争への中国の関与には、米欧の関心をインド太平洋や台湾から遠ざけるというメリットも存在する。その反面、ロシアが敗北するシナリオとなれば、中国は国際社会で孤立して、さらにイランや北朝鮮のように扱われる可能性もある。これらのような理由から、フィックスとキメージは中国がロシア・ウクライナ戦争に過度に関与することもないであろうと予測する。
■中国のジュニア・パートナー化するロシア
ロシア・ウクライナ戦争における中ロ関係は、この戦争の今後の展開を占う上で、もっとも重要な二国間関係ともいえるだろう。
ブルッキングス研究所フェローで米中関係や東アジアを専門とするパトリシア・キムは、西側の国際秩序への不満を共有する中ロは特別なパートナー関係であり続けるが、それでもなお中ロの間には利益の違いがあり、アメリカは両国関係を過小にも過大にも評価せずに政策を打ち出すべきだと論じている(2-⑥)。
確かに、ロシアとの関係は中国の対外イメージを損なっている面もあるが、中国がすぐにロシアを手放すことはないだろう。それでもなお、中ロの協力関係には限界が存在している。すでに経済大国である中国は、国際情勢が安定していることに利益があり、ロシアほど暴力的な現状変更を志向しないであろう。他方で、中ロ関係が着実に強化されている現実も、留意すべきだ。アメリカは、安定性を求める中国の利益に訴えることで、ロシアの核兵器の不使用や、より正当な和平合意への圧力をかけることができるかもしれない。キムの結論は、このまま中ロ両国が世界を分断させていくことを放置せずに、必要に応じて既存の国際秩序を部分的に修正することも必要となるだろうとの見解だ。
他方で、ロシア人で国際派の外交専門家である、カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンター長のアレクサンダー・ガブエフは、『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄せた中ロ関係に関する論説のなかで、ロシアが中国のジュニア・パートナーの地位に没落する現実を説明する(2-⑦)。
3月の中ロ首脳会談では、非公式であるが防衛協力の深化と武器売却が決定された。それを契機に、両国間の非対称性が強まっているとガブエフは見る。ロシアは中国への依存を強め、中国にとってロシアは、アメリカとの対立を深めるなかで不可欠なジュニア・パートナー的存在となりつつある。また、ロシアと中国はいずれも西側諸国からの経済制裁を受けていることからも、防衛装備の共同研究開発を進めることが予想される。ロシアの軍事技術が時代遅れになる前に、中国との共同研究開発を通じて軍の近代化を志向する姿勢が、ロシア内部では主流となっているという。
ただしこれもガブエフによれば、中ロ関係は非対称性を増しているが、必ずしも一方的ではない。軍事技術や科学で優れた人材を擁し、豊富な天然資源があり、さらには国連安保理常任理事国であるロシアは、中国にとっては非常に都合の良い友人である。中ロ関係の持続性は、弱体化するロシアを統御する中国の能力に依拠していると論じている。
■インドは中ロ関係をどう観ているか
それでは、そのような中ロ関係はインドからはどのように見えているのであろうか。ロンドン大学キングス・カレッジの教授で、オブザーバー・リサーチ財団の副代表であるハーシュ・パントは、習近平主席のモスクワ訪問がインドに及ぼす影響について分析している(2-⑧)。
パントによれば、今年の3月に日本の岸田文雄首相がウクライナを訪問し、対照的に中国の習近平主席がロシアを訪問したことが、よりいっそう二極化が進む世界の現状を象徴するという。そして、中ロ同盟は冷戦後の地政学を再編成し得る、重大な枢軸のように見え始めていると論じる。習近平はインド太平洋地域で自らに有利なパワー・バランスを実現することが目標であり、ジュニア・パートナーとなったロシアのプーチンはそのための便宜的なパートナーである。中ロ枢軸が、インドの安全保障のあり方に根本的な変化をもたらす可能性を指摘して、旧来的な思考に留まるインドの戦略コミュニティに警鐘を鳴らしている。そして、このようなグローバルなパワー・バランスの変化において、インドが十分に利益を得られるような行動が必要になっていると説いている。
3.マクロン仏大統領訪中への批判
■発言を肯定する見解も一定数は存在
中国の対外行動をめぐる国際社会の認識が大きく揺れ動く中で、4月5日にフランスのエマニュエル・マクロン大統領と、EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長の二人が、訪中した。この二人のヨーロッパの政治指導者は、中国政府との協力を深める上で、異なるアプローチを示すことになった。
訪中後の4月9日に、マクロン大統領が仏『レゼコー』紙に応じたインタビューが、物議を醸す結果となった(3-①)。
マクロン大統領は、台湾有事の際にヨーロッパがアメリカの追従者となってはならないとして、そこから距離を置く必要を述べた。また、ヨーロッパには戦略的自立が求められており、自らの危機ではない状況にとらわれるべきではないと、暗に台湾情勢の際に米中対立の狭間で自立的な行動をとる必要を示唆した。これに対しては、フランス国内をはじめ、多くの欧州諸国から批判の声が上がった。また、翌々日の4月11日には、「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」が声明を発表して、「マクロン大統領は、ヨーロッパの声を代弁していない」と、その対中融和的な姿勢を批判した。
このマクロン大統領の訪中、およびその後のインタビュー記事は、国際的波紋を生んだ。例えば、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の社説では、「マクロン、台湾とウクライナの問題で失敗」と題して、習近平主席との首脳会談直後という最悪のタイミングで対中融和姿勢と、台湾防衛から距離を置く意向を示したことを批判する(3-②)。
この社説によれば、マクロン発言は、アメリカがロシアの脅威からヨーロッパを守ってくれることを期待しながら、太平洋地域における中国の侵略に対しては中立を宣言しているようだと述べ、西太平洋における日米による対中抑止を弱めていると批判する。さらにはこのような発言が、アメリカ国内におけるウクライナ支援への反発や、ヨーロッパでの安全保障上の関与を縮小せよとする声を、よりいっそう勢いづかせるとも指摘する。
フランス国際関係研究所(IFRI)のセリーヌ・パジョンもまた、「ヨーロッパは、台湾海峡の紛争に巻き込まれるのを避けるべき」というマクロンの主張が、インド太平洋の地政学的現実から乖離したものであり、この地域の諸国の間でのフランスの信頼性を損なう懸念があると論じる(3-③)。
パジョンによれば、そもそもマクロンはアメリカと中国を同一視しているようだが、それは価値観や政治体制の違いを無視し、また米仏間に存在する同盟関係も見落としている。フランスはインド太平洋地域における建設的なステークホルダーであり、控えめながらも一定の役割を担うことができるはずだ。フランスは、中国とアメリカの間の中立的な仲介役となるのではなく、パートナー諸国とともに積極的にアジェンダ・セッティングをし、中国へと明確なシグナルを送る必要があるという。
フランスの『フィガロ』紙では、トマス・モア研究所のインド太平洋プログラムディレクターを務めるローラン・アメロットによる、マクロン大統領の訪中と発言をめぐる批判的な論稿が掲載された(3-④)。
アメロットは、マクロン発言が「アメリカや西側の同盟国との戦略的関係を弱める一方で、独裁的で攻撃的な性質を持つ中国共産党をより勢いづかせることになる」と警鐘を鳴らす。そして、「マクロンのアプローチはユートピア的である」と述べ、「EUの国際的信頼を著しく損なった」と批判する。そのような混乱が見られる中、アメロットはフランスの対中戦略の再構築が必要だと問題提起する。
他方で、マクロンの訪中についてある程度肯定的な見解も見られた。『ルモンド』紙のコラムニストのシルヴィ・カウフマンは、フランスのマクロン大統領とEUのフォン・デア・ライエン委員長が訪中して、ロシア・ウクライナ戦争を終わらせる上で中国に働きかけた意義を指摘した(3-⑤)。あくまでもヨーロッパは中国との関係で、「デリスキング」を望んでいるのであって、「デカップリング」を望んでいるわけではない。中国はEUにとって最大の貿易相手国であり、中国とヨーロッパが共通の基盤を見出すことも可能であろうとカウフマンは述べる。このような、経済的機会の確保と多極的な世界での安定化へ向けて、中国と提携し、協調することが重要だという見解は、依然としてヨーロッパでも根強く見られる。
■米欧の足並みの乱れが中国を後押し
とはいえ中国の近隣のインド太平洋地域諸国の多くからも、マクロン大統領の対中融和的な姿勢に懸念を示す声が聞かれた。
たとえば、マクロン大統領が安全保障と経済を切り離すことができるという幻想を抱いていると批判したのは、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)のエグゼクティブ・ディレクターであるジャスティン・バッシと、同研究所防衛戦略部門ディレクターのベック・シュリンプトンだ。二人の論稿は、太平洋地域と大西洋地域の安全保障を連関させて考える必要を指摘して、集団的な戦略を基礎に中国に働きかける重要性を説いている(3-⑥)。
このように、マクロン大統領の訪中と発言は、西側諸国のなかでの対中アプローチが依然として十分に調整されておらず、分裂が見られることを露呈させた。ドイツのグローバル公共政策研究所のトルステン・ベナーは、『フォーリン・ポリシー』誌に「ヨーロッパは中国をめぐり悲惨なまでに分裂している」と題する論稿を寄せて、その問題を指摘した(3―⑦)。すなわち、ヨーロッパの指導者たちの一連の中国訪問を総括すると、「(スペインのペドロ・)サンチェス首相、マクロン大統領、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長の訪問を経て、唯一勝利したのは習近平である」。というのも、「習近平はヨーロッパの利益にとって不可欠な問題について一切譲歩せず、ヨーロッパからの訪問者たちはヨーロッパと米欧の結束の乱れを習近平に示し、ヨーロッパの中国政策を混乱に陥れた」からである。
このように、アメリカやヨーロッパでは、対中政策をめぐり依然として混乱や、顕著な立場の違いが見られ、具体的にどのように「デリスキング」を進めていったらよいか、そのアプローチに統一性が見られない。そのことが、中国の影響力拡大に一定程度寄与しているというべきであろう。
4.ウクライナ支援をめぐる西側の不協和音
■「ロン・デサンティスの初めての大失敗」
西側諸国の間で、対応が混乱して結束が乱れているのは、対中国のみならず対ロシア政策においても同様である。アメリカや欧州諸国の中では、ウクライナでの終わりが見えない戦争において、永続的にウクライナへの支援を提供し続けねばならないことに、次第に不満が鬱積しつつある。
たとえば、アメリカのクインジー研究所副所長のトリタ・パルシは、『ニューヨーク・タイムズ』紙に寄せた論稿において、中国によるサウジアラビアとイランの間の国交正常化への仲介を例にとって、アメリカもまたそのような平和創出のための努力をするべきだと論じている(4-①)。
かつてのアメリカは、中東和平をめぐるキャンプ・デービッド合意やオスロ合意など、平和を創出する上での「誠実な仲介者」であった。ところが次第にアメリカは、「歴史の正しい側」に立とうとして中立的な立場を嫌うようになってきた。すなわち、平和は妥協ではなくて、完全な勝利からもたらされるべきだという考え方だ。他方でグローバル・サウス諸国はウクライナの勝利へ向けての軍事支援よりも、和平案を求めている。そのようなロシア・ウクライナ戦争での中立的な立場こそが、習近平がサウジとイランの仲介者として成功する背景にあった。それだけではない。多極化した世界においては、そのような中国の和平への努力はむしろ、世界におけるアメリカの過剰な負担を軽減してくれるだろう。パルシは、アメリカが和平への外交を後回しにすることをせず、あわせて中国などの他の大国の和平への努力にも、より肯定的な評価をするべきだと主張する。
アメリカでは来年に大統領選挙が行われるが、その結果がアメリカのウクライナへの支援、さらにはそこでの戦争の行方にも巨大な影響を及ぼすことになるであろう。そのようななかで、共和党の大統領候補者として注目を集めるフロリダ州知事のロン・デサンティスのロシア・ウクライナ戦争をめぐる発言が、波紋を呼んでいる。デサンティスは、3月13日のFOXニュースのなかで、ロシア・ウクライナ戦争を「領土紛争」と呼んで、ウクライナの領土や主権を保障することを前提に置かずに、和平への妥協を引き出す必要を主張した。彼の発言は、共和党員の4割ほどがウクライナ支援を減らすべきだと考えていることが背景にある。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の社説はこの問題に触れて、デサンティスの発言に一定程度の合理性があると共感しながらも、この戦争を「領土紛争」と呼んだことを「ロン・デサンティスの初めての大失敗」と位置づけて、深刻な問題として警鐘を鳴らしている(4-②)。それは、第二次世界大戦前のアメリカ共和党の孤立主義的な傾向を想起させるものだ。現代の共和党はレーガン政権を一つの理想的なモデルとしているが、レーガンはあくまでも原理原則に拘って、さらに「力による平和」を主張した。この社説では、共和党の大統領候補として、そのようなレーガン大統領の外交理念を継承する大統領候補者が残ることを期待している。
■ウクライナ支援が台湾有事への備えを向上させる?
アメリカによるウクライナへの支援を継続することが適切な政策判断であり、アメリカの国益や安全に資する、という見解もいくつも見られた。
例えば、2007年から国防省で勤務し、トランプ政権期に「国家防衛戦略(National Defence Strategy)」の策定に携わり、現在はRAND研究所で研究をしているジム・マイターは、「ウクライナ戦争が米国の国家防衛戦略を促進させている理由」と題する論稿を『ウォー・オン・ザ・ロックス』に寄せている(4-③)。
マイターはそこで、アメリカの対中強硬派がアメリカの過剰なウクライナ関与に懸念を示すなかで、マイターはむしろロシア・ウクライナ戦争へのアメリカの関与が自国の防衛力を強化すると論じる。たとえば、アメリカ製武器の使用によりその教訓を得ることや、同志国との連携が進展することなどが、国防省改革の機会を提供している点を指摘する。そして、そのようなウクライナでの教訓は、台湾有事への防衛態勢強化にも繋がっていることに留意すべきだ、と論じる。マイターによれば、インド太平洋での抑止力強化が優先課題であることを認めるとともに、むしろウクライナ支援がそのような目標を達成する上でのプラスになっているのだ。
同様にして、アレクサンダー・ハミルトン・ソサイエティのエグゼクティブ・ディレクターを務めるガブリエル・シャインマンが『ワシントン・ポスト』紙に寄せた論稿においても、ウクライナ支援の継続は台湾有事に備える上での障害ではなく、むしろ備えを向上させる好機だと論じられている(4-④)。
確かに、ウクライナに提供しているアメリカ製兵器のジャベリンやスティンガー、M777榴弾砲など、軍事物資が不足する時代においてそれらをアメリカが提供することは、アメリカの自国防衛や国益を考えると一定の制約になっている。だが、これらが契機となり、むしろ「ショック療法」としてアメリカの防衛支出を増大させて、「民主主義の兵器庫」となる必要性について、国民を覚醒させるかも知れない。逆説的に、従来の平和に安住するような自己満足から抜け出すためにも、将来の台湾有事へ向けてウクライナ支援は肯定的な影響を及ぼすというのがシャインマンの主張だ。
■ヨーロッパの支援は十分なのか
著名なコラムニストで、『フィナンシャル・タイムズ』紙のチーフ・エコノミクス・コメンテーターのマーティン・ウルフは、「西側諸国はウクライナが必要としているものを与えるべきだ」というコラムを同紙に掲載している(4-⑤)。
そこでは、「状況を良い方向に変える唯一の方法は、ウクライナによる決断と、西側諸国の軍事的および財政的な支援の組み合わせだ」と論じられる。そして、これまで戦後ヨーロッパで構築され、擁護されてきた根幹的な価値と利益が現在脅かされていることこそが、ヨーロッパがウクライナへの支援を継続する重要な理由だと論じる。また、キール世界経済研究所の報告を基礎として、ヨーロッパ諸国では国内のエネルギー価格高騰への保障の財源が、ウクライナ支援のそれを大きく上回っている現実を紹介し、ウルフはヨーロッパにおけるウクライナ支援がアメリカのそれに比べるとかなりの程度限定的なものにとどまっている問題を指摘する。そしてこのような現状こそが、プーチンに対して「ウクライナは必要な資源を得ることができないかもしれない」という判断をもたらして、戦争が継続することに繋がりかねない。西側諸国は、そのような想定が誤りであることを証明しなければならない。ウルフは、ウクライナの勝利のために、ヨーロッパ諸国もアメリカのように軍事的支援も含めた広汎な資源を動員することが不可欠だと論じる。そして、もしもこれが積極的に実行されないとすれば、ヨーロッパが望むかたちで戦争が終わることは難しいだろうと説く。
このような、ヨーロッパのウクライナ支援の規模が十分ではないという議論は、アメリカ国内でも提出されている。
たとえば、2011年から17年までオバマ政権の国務省で勤務し、現在はCSISで欧州・ロシアを研究するマックス・バーグマンと、カーネギー国際平和財団ヨーロッパ・フェローのソフィア・ベシュによる『フォーリン・アフェアーズ』誌の共著論文では、ヨーロッパがアメリカの防衛力に依存した状況が続き、ヨーロッパ諸国内部で十分な防衛協力が進展していない問題を指摘する(4-⑥)。
バーグマンとベシュによれば、ヨーロッパ諸国はその直面する防衛上の問題と根本から向き合おうとせず、指導者たちもそれを当然のこととしてきたが、このような状況は長く続くことはないという。というのも、アメリカのより若い世代はヨーロッパ諸国と協力することよりも、中東問題や、テロリズム、中国に対する抑止力の強化などを優先して考えており、バイデン政権以降のアメリカ政府が現在のような取り組みを続ける保証はないからである。
これは重要な指摘である。バーグマンとベシュは、問題の本質を2つ指摘する。第1は、ヨーロッパ側が十分な防衛能力を有していないことだ。欧州諸国はこれまでの20年間で、防衛費ではなく、人道支援やテロリズム対策、アフガニスタンでの平和構築ミッションなどに多くの財源を割いてきた。NATOは、あくまでも多国間組織であるために、加盟各国の十分な貢献を得られなければその目的を実現することはできない。また、アメリカ政府がヨーロッパ内での防衛能力の強化を十分に支援してこなかったことも問題だ。これらの問題を直視しなければ、ヨーロッパがアメリカに防衛面での依存を続ける現状は変わらないだろう。
■「中立国」として存在することが困難な時代
ロシアによる明確な国際法違反、そしてウクライナへの非人道的な侵略が行われる中で、もはやいかなる国も価値中立的であるべきではない。そのような視点から、国際戦略研究所(IISS)の元シニア・フェローであったフランツ・ステファン・ガディは、「21世紀において中立が時代遅れである理由」と題する論稿を『フォーリン・ポリシー』誌に寄せている(4-⑦)。
そこでは、フィンランドが従来の中立政策を捨ててNATO加盟を実現したことを受けて、21世紀のヨーロッパでは中立の立場を取り続けることはもはや望ましいものではないとの議論が展開される。フィンランドとスウェーデンという、伝統的な中立国がその方針を転換したことで、ヨーロッパで残る中立国はオーストリア、アイルランド、マルタ、そしてスイスの4カ国のみとなった。外交および軍事的な観点から見れば、独自の軍事力で有事に十分な自衛能力を確保するスイスとは異なり、他の3カ国は脆弱なままである。これらの諸国は、有事においては他国が自分たちの代わりに戦ってくれることを期待しているが、以下の2つの理由から、冷戦後の現代に中立政策を維持することは困難だとガディは言う。第1には、中立国という存在の重要性が冷戦期よりも明らかに低下している。第2に、高度に統合され、相互運用可能な防衛能力が求められる21世紀において、中立国は軍事的にこのような現実に対応できていない。そして中立的な外交および軍事の有効性について、より率直な議論がなされるべきだと提唱する。
■ポスト西洋的国際秩序が出現
他方で、世界全体を見れば、これとは異なる趨勢が顕著となっている。すなわち、たとえ西側諸国が今後結束を強化していったとしても、その西側諸国自体が国際社会で他の主要国からは切り離され、分断したままだということだ。欧州外交評議会(ECFR)によるEU9カ国と、イギリス、中国、インド、トルコ、ロシア、アメリカで行った世論調査を受けて、ティモシー・ガートン・アッシュ、イワン・クラステフ、マーク・レナードというヨーロッパを代表する国際問題の専門家が、その実像の説明を試みた。ここでは、ロシアのウクライナ侵攻によって西側諸国の結束が強化されたことと、ポスト西洋的国際秩序が出現しつつあることの2つが指摘できると論じられる(4-⑧)。
調査によれば、欧米諸国の多くの人々はウクライナの勝利に協力すべきであり、ロシアは明瞭な敵国であるという認識で概ね一致している。だが、他方で、中国、インド、トルコでは、ウクライナが領土を譲り渡すことになっても早期に戦争を終結させることを望むという意見が顕著となっている。また、非欧米諸国の世論は、今回の戦争を民主主義と権威主義の戦いと定義する欧米諸国の姿勢には懐疑的であることが明らかになった。
さらに、将来の国際秩序は米中が支配的な2つのブロックによって規定される可能性が高いという意見が欧米諸国では主流となっているのに対して、非欧米諸国とロシアの人々はむしろ多極化、そして分裂した国際秩序か、あるいは中国(または他の非欧米の大国)が優勢な秩序が確立する蓋然性が高いと見ていることが調査から浮かび上がる。すなわち、非欧米の主要国の多くが今回の戦争を通じて自国がより大きな影響力を持ち、より自立的な意志決定能力を主張する好機として捉えている現実が見られるのだ。
これらの結果は、インドやトルコ、ブラジルなどの諸国に対する欧米諸国の姿勢に、ある種の指針を示すだろう。まず、歴史的に「正しい側」へと引き込む対象として捉えるのではなく、世界史の新しい潮流の中での自律的なアクターとして扱うことが求められる。また、冷戦後の国際秩序を守ろうという欧米の努力に、それらの諸国の協力を期待するのではなく、それらの諸国による新しい秩序の構築に欧米諸国が協力の手を差しだすことが必要だ。
ウクライナが勝利することは、今後のヨーロッパの秩序を考える上で極めて重要であるが、それによってアメリカ主導のグローバルなリベラル国際秩序が復活する可能性は極めて低い。欧米諸国は、多極化する世界秩序のなかの1つの極として、中国やロシアなどの敵対的な独裁体制や、インドやトルコなどの独立した主要国と、共存していくことが重要となる。ECFR実施したような非欧米諸国も対象に含んだ世論調査から、今後の進むべき針路を確認することは有意義である。
5.画期的な日韓関係改善の決断
■約12年ぶりのシャトル外交再開
韓国政府は3月6日、それまで日韓関係の懸案となっていた強制労働問題、いわゆる元徴用工問題について、韓国政府自らが自国民に補償金を支払う「解決策」を発表した。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、昨年の政権成立以降、日韓関係の改善、および米韓同盟の強化を重要な政策目標として掲げてきて、今回の決定もそのための重要な基礎になることが考えられる。3月16日には尹大統領が訪日し、約12年ぶりに両国首脳のシャトル外交が再開された。韓国国内で、このような現政権の方針はどのように受け止められたのであろうか。
韓国のメディアでは、この決定を好意的に受け止める保守と、厳しい批判を加える進歩とで、大きく評価が分かれている。たとえば、保守系の『中央日報』の3月7日付社説では、「『苦肉の策』の徴用問題解決法、日韓関係正常化のきっかけにするべき」と題して、これまで解決に向けて消極的であった日本側が徐々に呼びかけに呼応する姿勢を示しているのは、前向きだと論じる(5-①)。
確かに、日本企業の賠償責任が反映されていないという批判が、韓国国内では見られる。だが、その代わりに、日韓両国の経済団体が共同で参加する「未来青年基金」設立によって、迂回的に徴用企業が参加する折衷案が提示された。また、日本政府はそれまでの輸出規制の解除も協議することとした。この社説は、慎重な言葉を選びつつ、韓国政府は国内の批判に耳を傾けて2015年の慰安婦合意の経験を繰り返さないように心がけ、日本政府は誠意ある応答をすることを願うと論じている。
また、同じく保守系の『朝鮮日報』の3月16日付社説では、「尹大統領の訪日、日韓経済協力の復元も延ばすわけにはいかない」と題して、これを契機に日韓両国が経済協力を推進する必要を説いている(5-②)。同社説は以下のような提唱を行っている。
製造業大国である日本と韓国は、これまで50年以上にわたり世界で最も緊密な経済協力関係を維持してきた。韓国の主力産業の半導体産業は、日本の半導体素材、部品、設備なしには成長が難しく、日本も韓国市場なくしては生存が難しい。半導体のみならず、石油産品、鉄鋼業、精密化学などの分野においても、日韓両国の緊密な協力関係に多くを依存している。ところが、日韓経済協力は、前政権での対立によって大きく揺らぎ、韓国に進出していた日本企業の約半分が撤退した。過去3~4年の間、日韓両国はお互いに自傷するような行動を続けてきた。今回の徴用問題の解決策提示の背景には、このような経済的な要因があり、日本もまた今回の首脳会談を機会に、これまでのしこりを全て解消するべきだ。米中の激しい戦略的競争に加えて、急速に進むグローバル・サプライチェーンの再編の中で、日韓両国の間の経済協力の復元は、選択ではなく必須だと『朝鮮日報』は位置付ける。
■進歩系メディアは「日本の外交的圧勝」と厳しい批判
これらの保守系のメディアとは異なり、左派系メディアは今回の保守政権の解決策を厳しく批判する。たとえば、進歩系『ハンギョレ』紙の3月7日付社説では、「日本の『経済報復』に屈した韓国政府、今後の責任もとるべきだ」と題して、政府の決定に批判を加えている(5-③)。
ここでは、今回の合意について、元徴用工問題の緊張が高まった2019年夏から続く韓国向けの輸出規制強化が参照され、「日本が輸出規制を撤廃すると約束もしなかった状況で先に行った本措置は、韓国政府が日本の経済報復に完全に屈した姿をあからさまにした」との批判が述べられる。そして、日本の輸出規制後、韓国政府は国産化と自立化政策を進めてきており、日本からの部品や設備の輸入がどの程度不可欠か、適切に評価、再検討を行う必要がある。今回の措置を受けて産業政策、通商政策の方向性が混乱していくであろうが、今後、韓国企業がここから受ける影響についても、責任をとらなければならないと論じる。
なお、日本政府による輸出規制強化には、日韓当局間の合意により半導体3素材について3月16日に解除された。7月には韓国が日本の輸出管理における優遇対象国に復帰し、2019年の厳格化措置はすべて解除されている。
『ハンギョレ』紙は3月16日付の社説でも、尹大統領が同日の岸田文雄首相との首脳会談において、「GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の完全正常化」の宣言を行ったことに触れている。そして、十分な謝罪を行っていない日本に対して、現在の保守政権が対日で譲歩を続け、さらには軍事協力関係を進めていると批判する(5-④)。
今回の首脳会談を契機に、中国を牽制しようとするアメリカのインド太平洋戦略のなかで日韓両国の間の軍事協力が急速に進展すると同社説は述べる。そして、日韓両国の首脳は「新たな出発」を強調したが、日本は歴史に対する謝罪の責任を免れ、GSOMIA復活などの具体的な成果を確保して、外交的圧勝を収めたのだと牽制した。
現在の尹政権は、日本との協力を進めることで政権支持率が下降してもさほど気にせず、大統領個人の信念と合致する政策を選択し推進している。それは、これまでの政権との大きな違いともいえる。同時に、韓国国内では中国の強圧的な、そして経済報復的な政策の継続への嫌悪感が高まり、さらにはロシアのウクライナ侵略を受けて権威主義体制への警戒感や反発が強まっている。次の大統領選挙まではまだしばらく時間がある。左派系メディアから厳しい批判を向けられながらも、韓国政府は当面、現在の政策を継続するであろう。
6.揺れる中台関係とアメリカ
■一方には「中国は台湾奪取だけでは満足しない」との分析
アメリカ国内では、引き続き台湾有事の可能性、さらには挑発的な軍事行動を続ける中国に対する警戒感が強まっている。この問題をめぐって、アメリカの論壇は活発な議論が続いている。はたして、中国による台湾侵攻の可能性についてどのように評価したら良いのか、論者によって大きくその立場は異なっている。
たとえば、『ワシントン・ポスト』紙の元北京支局長のジョン・ポンフレットと、トランプ政権のホワイトハウスで国家安全保障担当大統領副補佐官であったマット・ポッティンジャーの二人は、「習近平は中国を戦争に備えさせていると発言 ―世界は彼の言葉を真剣に受け止めるべきだ」と題する論稿を『フォーリン・アフェアーズ』紙に寄せている(6-①)。
今年3月上旬に習近平主席は、何度も繰り返して、戦争に向けて準備をしているという趣旨の発言を行っていた。ポンフレットとポッティンジャーは、習近平体制が発足して10年が経過した現在、実際に中国が戦争へ向けた準備を進めている現実を考慮すれば、それらの言葉や動向を、われわれは無視するべきではないと警鐘を鳴らす。
中国が戦争の準備を進めている兆候は、以前から見られていた。昨年12月には、予備役軍人の徴集を容易にする予備役人員法を公布し、今年の2月には軍が反戦運動などを取り締まったり、台湾での司法権の行使の法的根拠を無効とする可能性がある法律を採択した。また、3月1日の中央軍事委員会は、「習近平主席の軍備増強思想の指導の下、われわれは勝利のために前進する」と題する論文を、中国共産党の最も権威のある論文集に発表し、軍のさらなる近代化と軍民融合を加速する必要を訴えた。他方で、ポンフレットとポッティンジャーは、台湾を奪取するために武力を行使することを望む習近平が、アメリカとの軍事対立を無制限にエスカレートさせることなくそれを実現できると考えているかどうかは、依然として不明だとも論じている。
また、トランプ政権で国防副次官補を務めて、アメリカの国防費増額と抑止力の強化を主張してきたエルブリッジ・コルビーが、『Nikkei Asia』において「中国の軍備増強は、その野望が台湾にとどまらないことを示している」と題する論稿を寄せて、台湾を奪取しようとする中国の野望が肥大化している現実に警鐘を鳴らしている(6-②)。
多くの人は、戦争を回避するためにも、台湾を切り捨てて中国に併合させることを受け入れるべきだと考えるが、中国は台湾を奪取するだけでは満足しないとコルビーは論じる。すなわち、中国の野望は、台湾奪取以上のものなのだ。中国が現在構築している軍事能力は、明らかに遠方への戦力投射を目的としており、それは単なる領土防衛はもとより、近隣諸国を威嚇するためだけのものでもない。中国は遠方で軍事行動を起こすことが可能となる原子力潜水艦や、大型空母を建造しており、さらには大規模な宇宙軍事システムを開発している。そして、海外軍事拠点の確保にも力を入れている。日米両国が台湾を見捨てたとして、それで中国が満足しないのはこうしたことから明らかだ。
コルビーはさらに次のように続ける。本当に懸念すべきは、中国の軍拡である。台湾を奪取できずにいる限り、中国の軍事力は第一列島線によって実質的に制約され、中国の台頭は他の国々が許容する範囲に収まるだろう。だがこれは、台湾防衛が合理的コストで効果的に行えるという前提に基づくアプローチだ。もしもわれわれの軍事力強化が中国のそれに追いつけなければ、台湾が侵略されるのみならず、それ以上を中国が達成するのを座視することになるであろう。
■他方に「警戒は自己充足的な予言に」との分析
これとは対照的な論稿として、コーネル大学でアジア太平洋の国際関係や中国の政治や外交を研究するジェシカ・チェン・ワイスが『フォーリン・アフェアーズ』誌に、「台湾問題でパニックを起こすな ―中国による侵略への警戒は自己充足的な予言となる可能性がある」と題する論文を寄稿した(6-③)。
チェン・ワイスは、中国指導層が国民の目を国内問題からそらすために戦争を始めるという議論が、最近の研究では十分な証拠がないと論じられるようになったと紹介する。中国はむしろ歴史的にも、内政が不安定化すると対外政策は軟化させる傾向があり、国内不安の高まりと軍事紛争の開始は負の相関関係にあると論じるのだ。つまり、アメリカが台湾を国家承認するなどの新たな行動に出ることで、中国指導層は台湾が失われるという深刻な危機下を抱くようになり、それが軍事力行使の可能性を高めるかもしれない。どの社会にも好戦的な見解は見られるが、現在の中国の指導層は「戦わずして勝利する」ことを望む指導者の方が多い。彼らは中国軍に対して、台湾有事に備えるように指示しているが、それはつまり、中国がまだ戦争で勝利する自信がないことを意味するだろう。
そこで、チェン・ワイスは、中国、台湾、アメリカが、自己充足的な予言に陥ることがないように、戦争に至らないようなシナリオが十分に実現可能であることを確認する必要があると説く。そのためにも、アメリカは中国に対して、台湾独立を支持しないという立場を維持することを再保証するべきだと提言する。そして、アメリカ政府高官や議員は、台湾を「国家」と呼んだり、中国のレジーム・チェンジを求めるような発言をすることを控えるべきだと主張する。
■台湾は「台湾問題」をどう論じているか
それでは、台湾の内部ではこの問題がどのように扱われているだろうか。マイク・ポンペオ前国務長官の下で中国政策の首席補佐官を務め、現在はハドソン研究所中国センター長である余茂春が、民進党系の『自由時報』紙において、台湾に関連してみられる「3つの誤解」について触れている(6-④)。
第1の誤解として挙げられるのは、アメリカの台湾防衛の決意と能力に対する懸念に基づくアメリカ懐疑論である。余は、これは正しくないと論じる。なぜならば、台湾有事の際に米軍が関与する明確な戦略がすでに存在しており、「戦略的曖昧さ」は全く存在しない。仮にアメリカにとって極めて重要な台湾への軍事攻撃を傍観すれば、アメリカのこの地域へのコミットメントの威信が崩れ、同盟国の信頼が崩壊するであろう。
第2の誤解は、「中国共産党が武力侵犯しなければ、台湾は独立を宣言するだろう」という台湾独立に関する言説である。これも誤りだ。台湾における世論は圧倒的に現状維持が多く、独立でも統一でもない。また、ワシントンを訪問した台湾の指導者が、台湾独立のためのロビー活動をしたという話を聞いたことがない。
第3は、台湾が米中対立の犠牲になるという議論だ。これも正しくない。ほんとんどの民主主義諸国では、台湾問題を単なる主権問題ではなく、独裁体制と民主主義体制との間の根本的な対立だと認識する。どちらが勝つかという問題は、狭い台湾海峡を超えたグローバルな影響を持つであろう。重要なのは、台湾海峡の対立と緊張は、すべて中国共産党がもたらしているということだ。中国共産党が、民主的で、自由で、自立した中華民国を征服しようとする野望を捨てれば、それは中国と台湾の双方の勝利となる。他方で、台湾が中国による「認知戦」に負ければ、中華民国の民主主義も、自由も、そして主権もなくなるだろうと余は結論づけている。
他方、中台関係の緊張が続く中で、国民党政権の前総統・馬英九が3月末から12日間の日程で訪中し、融和的発言を繰り返し行ったことが大きな波紋を呼んだ。それについて、たとえば国民党系の『中国時報』は訪中前の3月21日付の社説の中で、退任した中華民国総統としての74年ぶりの中国訪問の計画について、好意的な評価を示した(6-⑤)。
同社説によれば、馬英九政権の時代は中台関係が安定し調和しており、ハイレベルの交流や対話も活発であった。だが、民進党政権となってからはそれら全てが覆され、アメリカと連携して中国に対抗する方針を選択した。その結果、中台関係は悪化を続け、戦争の危機にまで陥っている。中台双方の有識者の大半が、台湾海峡の平和が長く続くことを願っている。また中国共産党も、党指導部は台湾との交流促進を期待し、善意を示してきたと『中国時報』は評価する。またこの社説は、同時期にアメリカに立ち寄る蔡英文総統を批判し、むしろ馬英九が平和のために一歩踏み出し、中国に訪問してピースメーカーの役割を担うことを期待するとの見解も示している。
民進党系『自由時報』の社説では中台関係および中国共産党の評価は対照的であり、中国が経済的な誘因だけでなく、威嚇を用いて外交を行っており、激しい攻勢に出ていると論じている(6-⑥)。
ただし『自由時報』の議論はその点のみにとどまらない。CSISの報告書が示したように、中国が近年、多くの民主主義諸国に対して貿易上の報復と脅迫を行っていることが逆効果となり、各国の対中感情は悪化し、アメリカとの連携の強化に繋がっている。そのような中での馬英九の訪中が、国際社会に誤ったメッセージを送ってしまったと『自由時報』は批判する。すなわち、台湾が盲目的に平和を求め、そのためならば降伏も選択肢の1つだと考えている印象を与えた。また、中国共産党は今回訪中した前総統の馬英九を「地方指導者」として扱っており、相手から敬意を伴う待遇を得ていないことも問題だと指摘している。
台湾有事の可能性の評価、そしてそれへの準備と対応の方法について、アメリカの論壇でも台湾内部でも、多様な見解が提出されている。中国政治の透明性が低いことが、必要な情報を得ることの困難につながり、そのことが明確な方針が立てにくい要因になっているのではないか。ウクライナでの戦争は長引く見通しとなり、また台湾海峡をめぐる不安定な情勢も継続するであろう。引き続き、各国とも、慎重かつ賢明な判断と対応が求められている。
【主な論文・記事】
1.グローバルに影響力が拡大する中国
① | 「全球安全倡议概念⽂件(全⽂)(グローバル安全保障イニシアティブ概念に関する⽂書)」、中华⼈⺠共和国外交部、2023年2⽉21⽇、 https://www.fmprc.gov.cn/web/wjbxw_new/202302/t20230221_11028322.shtml |
② | 丁隆(Ding Long)「沙伊北京对话,全球安全倡议的成功实践(サウジアラビアとイランの北京会談は、グローバル安全保障イニシアティブの成功例となった)」、『环球⽹』、2023年3⽉11⽇、https://opinion.huanqiu.com/article/4C1ipzTPgPs |
③ | 社説「沙伊和解牵动中美外交布局(サウジアラビアとイランの和解が⽶中対⽴の局⾯に変動をもたらす)」、『連合早報』、2023年3⽉13⽇、https://www.zaobao.com.sg/forum/editorial/story20230313-1371973 |
④ | Karen Elliott House, “Behind Chinaʼs Mideastern Diplomacy(中国による中東外交の裏側)”, The Wall Street Journal, March 12, 2023, https://www.wsj.com/articles/behind-chinas-mideastern-diplomacy-iran-saudi-arabia-mbs-jinping-israel-oil-vacuum-biden-talks-weapons-78bc1617 |
⑤ | 沈雅梅(Shen Yamei)、「美国外交失利增多的症结在哪(アメリカ外交の失敗例の増加の本質はどこにあるのか)」、『环球⽹』、2023年3⽉16⽇、https://opinion.huanqiu.com/article/4C5uGT78MI0 |
⑥ | Eugene Chausovsky, “China Is Studying Russiaʼs Economic Playbook for Conflict(中国はロシアの経済戦略を研究し、紛争に備えている)”, Foreign Policy, April 14, 2023, https://foreignpolicy.com/2023/04/14/china-taiwan-russia-war-economic-playbook/ |
⑦ | Walter Russell Mead, “America Shrugs, and the World Makes Plans(アメリカは肩をすくめ、世界は計画を⽴てる)”, The Wall Street Journal, March 27, 2023, https://www.wsj.com/articles/america-shrugs-and-the-world-makes-plans-middle-east-security-defense-energy-russia-china-plan-b-ad57f4b6 |
⑧ | Matias Spektor, “In Defense of the Fence Sitters(中立的態度を擁護する)”, Foreign Affairs, May/June 2023, https://www.foreignaffairs.com/world/global-south-defense-fence-sitters |
⑨ | Yoon Young-Kwan, “How China Lost Asia(中国はどのようにアジアを失うの か)”, Project Syndicate, March 15, 2023, https://www.project-syndicate.org/commentary/asian-democracies-boost-military-cooperation-with-west-by-yoon-young-kwan-2023-03 |
⑩ | Giorgio Romano Schutte, “Das Ende des Westens(⻄側の終わり)”, Journal für Internationale Politik und Gesellschaft, April 18, 2023, https://www.ipg-journal.de/regionen/global/artikel/das-ende-des-westens-1-6647/ |
⑪ | Philip Stephens, “Decouple or de-risk? The United States and Europe are converging on China(「デカップリング」か「デリスキング」か? ⽶欧は対中政策を巡り収斂していく)”, Inside-Out, political commentary from Philip Stephens, April 2, 2023, https://philipstephens.substack.com/p/decouple-or-de-risk-the-united-states |
⑫ | 賈慶国(Jia Qingguo)「在美国,希望改善对华关系的⼤有⼈在(アメリカには⽶中関係の改善を希望する⼈々が多くいる)」、『环球⽹』、2023年3⽉15⽇、https://opinion.huanqiu.com/article/4C53IzSA2gg |
⑬ | Scott Kennedy and Wang Jisi, “America and China Need to Talk: A Lack of Dia-logue, Visits, and Exchanges Is Raising the Risk of Conflict(⽶中は対話しなければならない―対話や訪問、交流の不⾜は紛争のリスクを⾼める)”, Foreign Affairs, April 6, 2023, https://www.foreignaffairs.com/china/america-and-china-dialogue-need-lack-risk-conflict |
2.中国のウクライナ和平和提案
① | 「关于政治解决乌克兰危机的中国⽴场(ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の⽴場)」、中华⼈⺠共和国外交部、2023年2⽉24⽇、https://www.mfa.gov.cn/zyxw/202302/t20230224_11030707.shtml |
② | 「继续为和平解决乌克兰危机发挥建设性作⽤(ウクライナ危機の平和的解決のために建設的な役割を続ける)」、『环球⽹』、2023年2⽉25⽇、http://world.people.com.cn/n1/2023/0225/c1002-32630927.html |
③ | 趙明昊 (Zhao Minghao)「勿夸⼤中国对乌克兰危机影响⼒(ウクライナ危機に対する中国の影響⼒を誇張してはならない)」、『中美聚焦』、2023年2⽉27⽇、 http://cn.chinausfocus.com/foreign-policy/20230227/42782.html |
④ | Jo Inge Bekkevold, “Chinaʼs ʻPeace Planʼ for Ukraine Isnʼt About Peace(中国のウクライナへの「和平案」は平和のためのものではない)”, Foreign Policy, April 4, 2023, https://foreignpolicy.com/2023/04/04/china-xi-ukraine-russia-peace-plan-diplomacy-global-south/ |
⑤ | Liana Fix, Michael Kimmage, “How China Could Save Putinʼs War in Ukraine(中国はいかにしてウクライナ戦争でプーチンを救済できるのか)”, Foreign Affairs, April 26, 2023, https://www.foreignaffairs.com/china/how-china-could-save-putins-war-ukraine |
⑥ | Patricia M. Kim, “The Limits of the No-Limits Partnership(限界のない関係の限界)”, Foreign Affairs, March/April 2023, https://www.foreignaffairs.com/china/limits-of-a-no-limits-partnership-china-russia/a> |
⑦ | Alexander Gabuev, “Whatʼs Really Going on Between Russia and China(中ロの間で⼀体何が起こっているのか)”, Foreign Affairs, April 12, 2023, https://www.foreignaffairs.com/united-states/whats-really-going-between-russia-and-china |
⑧ | Harsh V. Pant, “Xiʼs visit to Russia and the takeaways for India(習近平のロシア訪問とインドにとっての教訓)”, Observer Research Foundation, March 22, 2023, https://www.orfonline.org/research/xis-visit-to-russia-and-the-takeaways-for-india/ |
3.マクロン大統領訪中への批判
① | Nicolas Barré, “Emmanuel Macron : « Lʼautonomie stratégique doit être le combatde lʼEurope »(マクロン⼤統領―「戦略的⾃律」は欧州の闘いであるべきだ)”, Les Echos, April 9, 2023, https://www.lesechos.fr/monde/enjeuxinternationaux/emmanuel-macron-lautonomie-strategique-doit-etre-le-combat-deleurope-1933493 |
② | The Editorial Board, “Macron Blunders on Taiwan-and Ukraine(マクロン、台湾とウクライナの問題で失敗)”, The Wall Street Journal, April 9, 2023, https://www.wsj.com/articles/macron-blunders-on-taiwan-and-ukraine-france-asia-military-china-xi-jinping-military-support-303181c5 |
③ | Celine Pajon, “France’s Macron is sending China the wrong signals(フランスのマクロンは中国に誤ったシグナルを送っている)”, Nikkei Asia, April 12, 2023, https://asia.nikkei.com/Opinion/France-s-Macron-is-sending-China-the-wrong-signals |
④ | Laurent Amelot, “Taïwan : Les propos d’Emmanuel Macron montrent la nécessité de rebâtir la politique chinoise de la France(台湾―エマニュエル・マクロンの発言は、フランスの中国政策の再構築の必要性を⽰している)”、, Le Figaro, April 17, 2023, https://www.lefigaro.fr/vox/monde/taiwan-les-propos-d-emmanuel-macron-montrent-la-necessite-de-rebatir-la-politique-chinoise-de-la-france-20230417 |
⑤ | Sylvie Kauffmann, “Europe is feeling its way towards a new relationship with China(欧州は中国との新たな関係への道を認識し始めている)”, Financial Times, April 7, 2023, https://www.ft.com/content/0597ec17-db85-403b-b75e-a60c2f04007f |
⑥ | Justin Bassi and Bec Shrimpton, “Macron is wrong to see China and Russia as separate concerns(マクロンは中国とロシアを別個の懸念と⾒なす点において誤っている)” , Nikkei Asia, April 17, 2023, https://asia.nikkei.com/Opinion/Macron-is-wrong-to-see-China-and-Russia-as-separate-concerns |
⑦ | Thorsten Benner, “Europe Is Disastrously Split on China(ヨーロッパは中国をめぐり悲惨なまでに分裂している)”, Foreign Policy, April 12, 2023, https://foreignpolicy.com/2023/04/12/europe-china-policy-brussels-macron-xi-jinping-von-der-leyen-sanchez/ |
4.ウクライナ支援をめぐる西側の不協和音
① | Trita Parsi, “The U.S. Is Not an Indispensable Peacemaker(アメリカは不可欠なピースメーカーではない)”, The New York Times, March 22, 2023, https://www.nytimes.com/2023/03/22/opinion/international-world/us-china-russia-ukraine.html |
② | The Editorial Board, “Ron DeSantisʼs First Big Mistake(ロン・デサンティスの初めての⼤失態)”, The Wall Street Journal , March 15, 2023, https://www.wsj.com/articles/ron-desantis-ukraine-donald-trump-republicans-america-ronald-reagan-1cebb8d1 |
③ | Jim Mitre, “How the Ukraine War Accelerates the Defense Strategy(ウクライナ戦争が⽶国の国家防衛戦略を促進させている理由)”, War on the Rocks, March 21, 2023, https://warontherocks.com/2023/03/how-the-ukraine-war-accelerates-the-defense-strategy/ |
④ | Gabriel Scheinmann, “How helping Ukraine prepares us for a confrontation with China(ウクライナ⽀援がいかにして中国との対決への備えとなるか)”, The Washington Post, February 28, 2023, https://www.washingtonpost.com/opinions/2023/02/28/ukraine-taiwan-defense-spending/ |
⑤ | Martin Wolf, “The west must give Ukraine what it needs(⻄側諸国はウクライナが必要としているものを与えるべきだ)“, Financial Times, March 1, 2023, https://www.ft.com/content/53804bd6-7e07-45f5-b650-d5a841db2c50 |
⑥ | Max Bergmann, Sophia Besch, “Why European Defense Still Depends on America(欧州の防衛が今なお⽶国に依存している理由)“, Foreign Affairs,March 7, 2023, https://www.foreignaffairs.com/ukraine/why-european-defense-still-depends-america |
⑦ | Franz- Stefan Gady, “Why neutrality Is Obsolete in the 21st Century(21世紀において中⽴が時代遅れである理由)”, Foreign Policy, April 4, 2023, https://foreignpolicy.com/2023/04/04/finland-sweden-nato-neutral-austria-ireland-switzerland-russia-war/ |
⑧ | Timothy Garton Ash, Ivan Krastev and Mark Leonard, “United West, divided from the rest: Global public opinion one year into Russiaʼs war on Ukraine(団結した⻄側諸国は他国からは分断されてい ―ロシアのウクライナに対する戦争開始から1年経過した国際世論),” ECFR, February 22, 2023, https://ecfr.eu/publication/united-west-divided-from-the-rest-global-public-opinion-one-year-into-russias-war-on-ukraine/ |
5. 画期的な日韓関係改善の決断
① | [사설] ʻ고육책ʼ 징용 해법…한·일 관계 정상화 계기로 살려가길 [社説](「苦⾁の策」の徴⽤問題解決法、⽇韓関係正常化のきっかけにするべき)、『中央⽇報』、2023年3⽉7⽇、 https://www.joongang.co.kr/article/25145186#home |
② | [사설] 윤 대통령 방일, 한일 경제협력 복원도 미룰 수 없다 [社説](尹⼤統領の訪⽇、⽇韓経済協⼒の復元も延ばすわけにはいかない)、『朝鮮⽇報』、2023年3⽉16⽇、 https://www.chosun.com/opinion/editorial/2023/03/16/YJK4KBU5UNF35N3OQUWTVJFLOM/ |
③ | [사설] 일본 ʻ경제보복ʼ에 무릎꿇은 정부, 뒷일도 책임져야 [社説](⽇本の「経済報復」に屈した韓国政府、今後の責任もとるべきだ)、『ハンギョレ』、2023年3⽉7⽇、 https://www.hani.co.kr/arti/opinion/editorial/1082587.html |
④ | [사설] 사과 안한 일본에 ʻ구상권 청구 없다ʼ 약속한 윤 대통령 [社説](謝らなかった⽇本に「求償権は請求しない」と約束した尹⼤統領)、『ハンギョレ』、2023年3⽉16⽇、https://www.hani.co.kr/arti/opinion/editorial/1083980.html |
6.揺れる中台関係とアメリカ
① | John Pomfret, Matt Pottinger, “Xi Jinping Says He Is Preparing China for War: The World Should Take Him Seriously(習近平は中国を戦争に備えさせていると発言 ―世界は彼の言葉を真剣に受け⽌めるべきだ)”, Foreign Affairs, March 29, 2023, https://www.foreignaffairs.com/united-states/xi-jinping-says-he-preparing-china-war |
② | Elbridge Colby, “China’s military buildup shows its ambitions go well beyond Taiwan(中国の軍備増強は、その野望が台湾にとどまらないことを⽰している)”, Nikkei Asia , April 7, 2023, https://asia.nikkei.com/Opinion/China-s-military-buildup-shows-its-ambitions-go-well-beyond-Taiwan |
③ | Jessica Chen Weiss, “Don ʼt Panic About Taiwan: Alarm Over a Chinese Invasion Could Become a Self-Fulfilling Prophecy(台湾問題でパニックを起こすな ―中国による侵略への警戒は自己充足的な予言となる可能性がある)”, Foreign Affairs, March 21, 2023, https://www.foreignaffairs.com/china/taiwan-chinese-invasion-dont-panic |
④ | 余茂春「對台海局勢的三⼤錯誤認知(台湾海峡情勢に関する3つの誤解)」、『⾃由時報』、 2023年2⽉19⽇、 https://talk.ltn.com.tw/article/paper/1567852 |
⑤ | 社説「需要更多兩岸和平的造局者(台湾海峡のピースメーカーがもっと必要だ)」、『中国時報』、2023年3⽉21⽇、 https://www.chinatimes.com/opinion/20230321005416-262101?chdtv |
⑥ | 社説「⾯對中國的內外攻勢(中国による内外の攻勢に直⾯して)」、『⾃由時報』、2023年3⽉28⽇、 https://talk.ltn.com.tw/article/paper/1574445 |